旅立ち
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「全く!1年も居座りおって!このたわけが!」
カラ様こと、カラントールジュが肉球で私の頭をグリグリとこねくり回している。
相変わらず手が早くて気が短い。
口に出したら怒るから言わないけど。
当初カラ様は3ヶ月から長くても半年で私を森から出すつもりだったらしい。
でも、私が屁理屈という名の理由を見つけては森を出ることを拒否し、ロー様こと、ローグムスラルジュがその都度カラ様を説得してくれたので、ズルズルとこの森で過ごすことが出来たのはありがたかった。
ちなみにメイこと、メイナマルールジュは私が駄々をこねてロー様を味方につけ、カラ様をグヌグヌ言わせるのを見て笑っていた。
この1年は本当に楽しかった。
もちろん、楽しいだけではなかったし死にかけた回数は両手では足りないくらいにあった。魔物に襲われたし、丸呑みもされた。……ロー様がすぐに助けてくれたけど魔物の体内は泣くほど臭かった。
魔物の体液でベタベタになった私を見たカラ様がものすご〜〜〜く嫌な顔をし、水魔法をぶっ放してくれた。
丸呑みにされた時より命の危機を感じた……。
飛龍も数回やってきた。
ロー様、曰く、ひっくい知能しかないが本来なら古龍の命令に逆らったり、天狼に喧嘩を売ったりするほどの馬鹿ではないらしい。
なので、最初に焼きトカゲになった飛龍の仲間だったのではないかとのこと。
だからといって天狼のテリトリーに入ってきた時点で手加減する気はない彼らは、
「魔法の練習にちょうど良い」と笑いながら私を陣頭に立たせた。
…‥なんという悪魔の所業か!
恐怖のあまり、涙と鼻水まみれになった私を見て爆笑したロー様はハゲてしまうがいい!
そんな私を、汚い!と湖に蹴り落としたカラ様には1週間は悪夢を見ますように!と呪いをかけておいた。
ヒーヒー言いながら湖から這い上がった私を風魔法で乾かしてくれたメイだけが癒しである。天狼族の最後の良心、メイはずっとメイのままでいてね。
そんな死ぬほどの思いを何度もさせられながら、
そして彼らに守られながら過ごした森をロー様の背中に乗せられて走り抜けていく。
もう、屁理屈も言い訳も尽きた。
カラ様は今後私が人間の世界で困らないようにとこの世界について、人間の国について知っていることを全て教えてくれた。
魔法は火も水も風も土も雷にいたるまで問題なく発動できるようになったし、何より治癒魔法はほぼ完璧になった。
なんなら解毒も出来る。
だから最後に、1家庭に1人いたら安心安全お買い得商品ですよ、と伝えてみた。
カラ様には「必要ない!」と鼻で笑われてしまった。
森の外縁部からは少し奥まった辺りで降ろされる。
「ここからなら今のそなたであれば、1人でも充分であろう。
このまま真っ直ぐ南に向かうが良い。あるのは少しはマシな国だと聞いている。
…迷いモノは大事にされる。だが、話す相手を間違えるな。よく見極めよ。特に治癒魔法は気をつけよ。一生幽閉され利用されることになるぞ」
最後は泣かないと決めていた。
でも泣くのを我慢すると今度は言葉が出なかった。
「もう行く。そなたも息災でな」
ロー様が軽くしっぽで撫でてきた。メイが頬を擦り寄せて「元気で」と離れる。
カラ様は
「人族は我らとは住めぬ。そなたは人と交わり生きるのが良い。だが、この森はそなたを拒まぬ。いつでも里帰りしてこい。我が娘。」
と慈しむように目を細め、器用な肉球で背中をあやすように叩くと、そっと離れていった。
あっという間に外縁部の近くまで来た彼らは見えなくなるのもあっという間だった。
ぼーっとそれを見送った私は、気合いを入れるように軽く両頬を叩くと南だと教わった方へ向かって歩き出す。
リュックの中には財布とスマホとタオル。ペットボトルには水魔法で出した水。魔物の肉から水分を抜き風魔法で乾燥させて岩塩でジャーキーにしたものやドライフルーツが入っている。
ハンカチをポケットに入れ、空いたスペースには魔石を入るだけ詰め込んだ。
どこに行ってもお金は必要だと思ったから。
…売れなかったらその時はその時に考える。
そうやって、たまに襲いかかってくる魔物を倒しては魔石を取り出していく。
持っているナイフは森で亡くなった冒険者からいただいた。
食べられる部位を少しだけ切り取ると、素早くその場を離れる。
血の匂いに惹かれてすぐに他の魔物が集まってくるからだ。
数時間ほど歩いた頃、悲鳴が聞こえてきた。
咄嗟に身構える。
何かがこちらに向かって走ってくるのを土魔法で出した岩を数個浮かべて待つ。
ここは木が多く、火魔法は火事になるので使いにくい。
一度、森の中で蜘蛛の大群に襲われてパニックを起こし、火魔法で焼き払ったら周りの木々に燃え広がって、カラ様にマジギレされた。
オシッコを漏らすかと思うくらい怖かった。
荒い息と共に飛び出してきたのは30代半ばの男性。
彼は私に気付いて驚いた顔をし、「逃げろ!」
と叫んだ。
後ろから男性を追いかけてくるのは、最深部では見たことがない2足歩行の犬である。
驚いたことに男性を取り囲むように何匹もでフォーメーションのような陣形をとっているように見える。
私は岩を犬にぶつけると、生き残っている他の犬の首をエアカッターでサクッと刈り取った。
何匹かには避けられたが、その一撃で追いかけていたほとんどの犬が地面に倒れ込む。
それを見て生き残った犬たちは慌てて逃げていった。
「助かった………」
男性がへたり込む。
この世界に来てから初めて見る人間に、どう声をかけていいか分からず、戸惑っていると男性と目が合った。
「ありがとうな、嬢ちゃん。命拾いしたよ!
あんた、強えなぁ!」
息を整えながら男性が立ち上がる。
「仲間とはぐれちまった。探しに戻らないと。
……嬢ちゃんは1人なのか?まさかなぁ、こんな死の森で。いや、でもあれだけ強いなら………」
後半は独り言のように小さな声でぶつぶつ言いながら、困惑したように私を見て
「嬢ちゃん。頼みがあるんだが」
と仲間を探すのを手伝って欲しいと頭を下げられたので、代わりに町まで連れて行ってもらうことにした。
やっと人間に出会いました。
補足
天狼たちが人族や迷いモノに詳しいのは、過去に森へ逃げてきた迷いモノがいたからです。




