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心の拠り所

いつも読んでくださる皆様、いいねをくださる皆様に感謝です。

ありがとうございます。

「なんで避けるんですかぁ」


ほろほろと涙を流しながら小さな子供のように駄々をこねてみる。



「避けるに決まっておろうが!

貴様、末息子の首筋を鼻水だらけにしただけでは足りぬのか!」


言われて、子犬…子天狼の方を見ると、困ったような顔で苦笑いという器用な表情をしてこちらを見ている。



「ううう」

ひどい。


天狼の言葉は一応思春期ではある自分の胸にグッサリと刺さり、ショックで涙が引っ込んでしまった。


「母は綺麗好きだからな。今のそなたでは触らせてくれまい。諦めよ。」


悪気なくトドメを刺してきた兄の天狼が立ち上がりながら告げると続いて子天狼も立ち上がる。



「そろそろ陽が暮れる。」

息子の言葉に天狼も空を見上げ、次いで私を見てそれはそれは嫌な顔をした。


「湖で顔を清めてこい。その顔を見ていると気が滅入るわ」

本気でヒドイ!



その顔ってどの顔だよ…

と内心ツッコミながら素直に湖の前にかがみ込むと、なるほど水に映った自分は泣きすぎて腫れた目に赤くなった鼻、乾いた涙の後やらでひどい状態である。


他人に見せていい顔ではないと、慌てて顔を(ぬぐ)うようにして洗い、ついでにぐちゃぐちゃになったハンカチも同じように洗って顔を()いた。


「お前を拾ったのはこの辺りだったはずだ。どこか近くに荷物を置いてあるのだろう?」

兄天狼の言葉で、リュックのことと朝から何も食べてないことを思い出した。

途端に空腹を感じる。

取りに行きたい。何より、そろそろ食べないといくつかの食料はダメになってしまうだろう。

いや、もしかしたらお弁当とおにぎりはもう遅いかも知れない。

でも……。


じっと動かずにいる私を見て、子天狼が私の横に立った。

「私がついていこう。大丈夫。母様も兄様も勝手にいなくなったりしないから。さあ。荷物のところまで案内しなさい」


子天狼の言葉にやっと足が動き出す。木の根っこの方へ歩き出しながら、大人びた話し方をする隣のこの子は一体何歳なのだろう?と疑問を持つ。


答えてくれるのか?と恐る恐る問いかけたのだが、あっさり教えてくれたところによると、天狼母が600歳、兄が200で、子天狼は70歳なのだそうだ。


マジか!

…びっくりだ。思った以上に年よ……ごめんなさい。睨まないで。


ついでに名前があるかも尋ねると、あるにはあるが、親子とはいえ勝手に他人が教えていいものではないらしい。


代わりに、母をカラ、兄をロー、子天狼をメイとなら呼んでも大丈夫だと言われたので、私も一葉(かずは)と名乗った。


木の根っこから荷物を全部取り出し、元の場所に戻る。

鬱蒼(うっそう)とした森と湖から吹く風のおかげで腐らずに済んだ

お弁当は、もしかしたら小動物に食べられているかもと思っていたのだけれど。

メイ(そのままでいいと言われた。ちなみにカラはカラ様、ローはロー様と呼ぶことになった)によると、ここは森の最深部なので強い魔物しか生き残れず弱い小動物はもっと外縁部にしかいないらしい。


強い魔物は大抵が肉食なので、叔母が渡してくれた炊き込みご飯は見向きもされなかったもよう。



一晩とはいえ肉食で強い魔物しかいない中、私のような弱い者がよくも生き残れたものだとつくづく思う。


カラ様たちは1日くらいなら食事を取らなくてもいいので、その日は湖で私のそばにいてくれるとのこと。

コンビニの肉まきおにぎりに興味を持ったらしく匂いを嗅いでいる。

どうせ食べきれないからどうぞと差し出してみると、思った以上に気に入ったらしい。

1つしかないと知って、残念そうな顔をしていた。


夜、メイが招いてくれたので、彼のお腹に寄り添って眠ることにする。

寝る準備をしている時に、 

今後のことを考えておくよう言われた。


しばらくの間は一緒にいて魔法を教えてくれるらしいが、ずっと一緒にいることは出来ないとのこと。


この森は人間が生きていける場所ではないし、彼らはこの広大な森を治めている。

私に手を割く余裕はない。


更にあのトカゲ、龍族だったらしいのだがアイツらが今後どう行動するかも不明で、また襲撃があるかも知れない以上、長居はしない方がいいとも言われる。


龍族だったのか……

という驚きは、カラ様たちの「駄トカゲ」呼ばわりを聞いているうちに綺麗さっぱり消えた。


その日は、メイのしっぽに包まれてこの半年のうちで一番穏やかに眠ることができた。





そして1年後、


私が森を出る日が来る。




やっと森を出ます。


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