迷いモノ
すみません。
なかなか人間の世界に行かず。恋愛タグの詐欺のよう……
言い慣れない愛想なんか言うんじゃなかった…。
家にいた頃はほとんど会話もなく、学校ではリオちゃんの話を聞いて相槌を打つことが多かった私の会話能力は果てしなく低いんだから……。
そんな私の反省など気づかぬまま、目の前には
器用な表情のままの犬?じゃない何かが3頭。
気まずい。
「あの……」
オロオロと困ったように手を上下に動かす挙動不審な私を見ているうちに彼らの諦めが勝ったようだ。
「…まあ、良いわ。」
と先を促された。
その時に2頭は彼女の息子であること。
彼女たちが天狼族であり、人族からはフェンリルと呼ばれていることも教えてもらった。
許してもらえたことにホッとしながら、橋渡し役だった姉が亡くなって家族とうまくいかなくなり、街を出たこと。新しい家に着いて玄関を入ったら湖にいたことを簡単に話した。
ついでに、ここは自分の住んでいた世界ではないらしいこと。その証拠に前の世界にはここにいたような生き物はおらず魔法もなかったことも伝える。
「なるほど、迷いモノか。」
「迷いモノ?」
迷いモノとは、100年に一度あるかないかの頻度で別の世界から突如、生物が現れる現象らしい。
人間だったこともあれば、巨大な魚だったことも動物だったこともあり、どこに現れるかいつ現れるかは全くわからず。
巨大な魚が人間の街にいきなり現れた時は建物にも人にも被害が出たし、魚も程なく死んでしまった。
反対に、海に(この世界にも海はある)動物が落ちたこともあり、そういう時は見たことのない生き物の死骸が海岸に打ち上げられて初めて発覚するのだそうだ。
だから、未だに発見すらされてないモノもいるかも知れず。
そなたは地上に現れただけでも運が良かった。
と言われて、心からゾッとした。
ただ、人族の間ではこの世界に現れて生き残ることが出来たものは「神の試練」を乗り越えたとして常人にはない力を得ると言われているんだそうで。
……でも実際は、世界を渡る時の影響でなんらかの能力を得ても、そのほとんどが使いこなす前に環境に耐えられず死んでしまうのではないかと彼女は考えているらしい。
以前にも、この森に現れた途端に魔物に襲われ死にかけて、咄嗟に体を巨大化させたものがいたらしい。
ある動物が現れた時は自由に植物を操り、温かい地方にしか咲かないはずの花を咲かせ実るはずの無い季節に果実を実らせた。
別の人間は、動物に限るが言葉を理解し操ることができた。
異世界の物を自由に作り出すモノもいた。
人間には持ち得ない腕力を得た者、
あり得ない速さで武器を習得した者など。
この世界に現れた時に何か発現するのだそうだ。
「そなたは魔法に特化しているのかも知れぬ。
先程、飛龍を相手に出した火魔法は大したことがないと思うたが、魔法のない世界から来たというのなら話は別じゃ。魔法という概念のない世界で生き、使い方も知らぬままあの場に応じた魔法を発動し、何より中級の治癒力がある湖の水を持ってしても、数日は動けぬはずの我を即座に治してみせた。その力は普通ではあるまい。」
理解できない。
何かの間違いじゃないのかな?
そんな力がわたしにあるわけがない。
そんな、まるでお伽話に出てくる巫女か聖女みたいな特別な力……。
聖女こそに相応しい……
………不意に母の叫びが聞こえた気がした。
「お前は最低な人間だ!お前が持っているのは幸せも寿命も姉から奪ったものだ!!泥棒!恥知らず!!」
本当に?
………………この能力は本来なら姉の………聖女が持つべき力……?
体から力が抜けていくような気がした。
……母は正しかったのかな?
私が姉から幸せも人生も奪ったのかな?
私の顔色が悪くなったのがわかったのか、天狼は話を止めた。
「どうかしたか?」
こちらの言葉を待つように、じっと見つめている。
私は一度きゅっと唇を噛んでから自分に聞かせるように告げた。
「その力は私のものじゃありません。姉のものです。私はそれを盗んだだけ……。」
天狼の顔を見ていられなくて俯く。
一度そう考えてしまうと、そうとしか考えられなくなってしまった。
「……………世界を渡るものはな、皆、元の世界に居場所のないものたちであったよ。群れを追われた狼や、年老いて家族から見向きもされなくなったもの。重い病気で体が動かなくなったものもいた。そなたの姉はどうだった?孤独であったか?家族から見捨てられていたか?笑顔もなく救いもない生活をしておったのか?」
「いいえ!姉は素晴らしい人でした。誰からも愛されていた!」
「ならば、その力はそなたのものであろうよ。」
「本当に?この力は姉こそが持つのに相応しい力です!私!私には‥」「仮に!」
私に最後まで言わせず、天狼が言葉を続ける。
「仮に、そなたが姉の力を奪ったとして。ならばどうする。
姉の力だからと能力を封印して生きていくか?
それはそなたの姉も本意ではあるまいよ。」
「でも………姉から奪った力を自分のもののように使うなんて」
「ええい!うっとおしいわ!!」
「あいたぁ!」
下を向いたまま話す私の頭に恐ろしいほどの衝撃がきた。
「うぐうぅ」
およそ女の子らしくない悲鳴をあげて手で頭を抱えてしゃがみ込む。
あまりの痛みに涙目になりながら見上げると、牙を剥き出した天狼。
どうやらまた巨大肉球が炸裂したらしい。
なんて手の早い。ちょっと気が短いのではなかろうか。
「姉であろうが貴様であろうがどうでも良いわ!!
その能力を誰もが認めるくらい正しく使えるように精進すれば良かろうが!!
貴様の姉はそれも許さぬほど心根の狭い女か!!」
「いいえ!姉は!!」
そんな人じゃない。そんな、私のように卑屈で嫉妬深く他人を憎むような価値のない人間じゃない。
私とは違う。
私とは根本から違う人なのだ。
ごちゃごちゃとした思いがまとまりのないまま口が出ようとしたが言葉にならず、何かを話そうと口を開いたまま時が過ぎる。
「そなたの姉がそなたを誇りに思うくらいの生き方をして見せよ。
その力はそのために使えば良い」
本当にいいのだろうか。
姉は許してくれるだろうか。
ポロポロと涙がこぼれる。
さっきやっと泣き止んだのに。
泣きすぎて擦った頬がまだ痛いのに。
「うう」
また止まらなくなる。
ううう〜と声を上げながら、天狼に縋りつこうとしたら、
嫌そうな顔でサッと避けられた。




