天狼目線 その3
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古龍のフォロー話をするために着いてきた龍族に見送られながら住処を後にする。
「龍どもは、気位が高いやつか強さに胡座をかく横暴なやつが多い。まとめ上げるのは大変だろうて。」
母が呟いた。
大変だとわかっていてアレか。
相変わらず厳しいものだ。
そう思いながら天狼のテリトリーに向かって走る母の後ろをついていく。
天狼は、本気を出すと他の追随を許さぬほどに早く大地を翔ることができる。
空の覇者が龍ならば大地を統べるのは天狼なのだ。
古龍の住処からさほど時間をかけずに先の方に割れた大地が見えてきた。
もうすぐ自分達の領域へ戻れると思うとホッとする気持ちがある。
同じ森の中であろうとも領域外は居心地が悪い。ほんの少しだけだが。
母が走るスピードを上げながら風魔法で谷を渡る直前。
「あー……。すまぬ。息子よ。先に謝っておく」
という声が聞こえた。
はい?
…何を?
無事に天狼の領域へ足を踏み入れた途端、
母が意識を失い、走っていた勢いそのままにズザザザーっと森の中を滑る姿が視界に入った。
はああああ?
「ちょっ!!何!?」
慌てて駆け寄ると、母の体からほとんどの魔力が消えていることに気づく。
魔力を失うと生き物は死ぬ。
だから魔力量が少ないものほど幼い頃から自分が使える魔力を知るための訓練をしっかりと行うのだ。
が、母は生まれてすぐに次代の長になることが決められるほど魔力量が多かった。
魔力が枯渇するなど経験したこともないだろう。
…あんなに思いっきり大地割ったりするから………。
いくら化け物級の魔力を持つ母でも地龍ですら行き来ができないほどの深い谷を作れば、そりゃあ魔力だって尽きるだろう。
とにかく、母を助けないと。
このままでは死んでしまうかもしれない。
と。
「母さま!」
母を呼ぶ声。
ハッとしてその声の方を向くと、弟がこちらに向かって駆けてくる。
「なぜここへ?」
「ものすごい音と舞い上がる土が見えました。
留守を任された以上、何かあれば私が対処すべきと思い様子を見に。」
「そうか。
ちょうど良かった。母を湖まで運ぶぞ!」
「湖?治癒力がある湖ですか?一体何があったのです!誰が母さまをこのような目に!!」
「話は後で。母に話す気があれば聞くことができるだろう。」
我なら絶対話さぬな。
まぁ、突然谷が出来た理由は聞かれるだろうが。
「行こう。あの湖だとてすぐに治るわけではないがこのまま放置するよりは良い。」
母は我よりも大きい。
我だけで運ぶのは難しかったので、今このタイミングで弟が来たのはありがたかった。
ドガッ
音と共に木が飛んできた。
咄嗟に避け、飛ばされた方に目をやる。
地龍。
しかも随分とキレている。
ああ、そうか。
自分の寝ぐらに帰ろうとしたら谷が出来ていて戻れないのか。
ザマァないなと鼻で笑いながら、巨大な岩を次々とぶつけてやった。
地龍は、今まで何をしても相手にしなかった我らが反撃してくるとは思わなかったのか、身体中傷まみれになりながら驚いた顔で谷の方へと落ちていく。
所詮トカゲか………。
と思った瞬間、我の足元が大きく崩れた。
大地が割れて土地が不安定になっていた所へ大量の岩がドカドカと地面を打ったのだ。
そりゃ崩れるだろうな、と納得してしまい風魔法で浮かぼうとしたら上から一緒に崩れた木が降ってきた。
あ、マズイ
と思ったのを最後に我の体も一緒に崖下へ落ちていく。
兄様!
と叫ぶ弟の声が聞こえた気がした。
目が覚め、起きあがろうとしたら身体中に痛みが走った。
どうやら木や岩の下敷きになっているらしい。
見上げれば随分とまぁ高いところから落ちたようだ。
やれやれ、と岩を押し退けて立ち上がり崖の上に戻ろうとしたが、頭がふらついて魔法が発動しない。
自分で考えている以上に血を流したのかもしれない。
マズイ。
どこか、谷を登れそうなところを探そう。
母どころか我もまた湖にいかねばならないようだ。
ふらつく体を叱咤しながら谷底を歩き出した。
☆☆☆
やっとのことで湖に着いたら、人族がいた。
ここの湖に治癒力があることは知られている。
それが目当ての冒険者とやらやどこぞの国の騎士たちが森に入り込むこともあるが、ここまでたどり着ける者はいない。
そのほとんどが魔物に食われ、残りが逃げ出していくからだ。
この森が人族の間で「生と死を統べる森」
と呼ばれる由縁である。
ともあれ。ここは我らの縄張り。ここまでたどり着けたのは誉めてやるが立ち入ったからには容赦はせぬ。
殺すつもりで近づいたが、どうにも様子がおかしい。
というより、魔力がおかしい。
コレは本当に人族か?
確かめようと魔力をじっと見る。
人族は逃げ出すこともできずにガチガチと震えていた。
が、そこで我の限界が来たらしい。
そのまま倒れて動けなくなった。
なんたる不甲斐なさか!
人族なぞの前で倒れるとは!
と、イラついていると人族が水を差し出してくる。
目の前で湖の水を汲むのを見ていた。
なのに、その器の水からは湖の水ではありえないほどの聖魔力が溢れている。
全く理解できない…
軽く混乱したが、聖魔力に満ちた水だ。今の我や母に必要な力だ。
人族から目を離さずに水を飲む。
同時に、たちまち軽くなる体。消える痛みと身体に満ちる魔力。完全に回復したのを感じた。
これは………!
驚いている隙に人族、いや、娘が背を向けて走り出す。
逃がさん!
そうして、娘を連れて母の元へ戻った。
たった1人でどうやってあの場まで来られたのかわからないほど、うるさ…いや、騒が…いや、元気に背中で喚いていたが。
母のそばには今にも攻撃をしようとしているトカゲが2匹いたので、娘を弟の方に放り投げてトカゲ退治に向かう。
まもなく母も参戦し、トカゲどもはあっさり倒すことができた。
重畳、重畳。
我らの戦いぶりを見ていた娘が、
その強さにドン引きしながら
「ここまで強いのに、一体何があったら死にかけるほどのケガをするんだろう?」
と呟いた。
意図せずに、母と同時にサッと目を逸らす。
怒りに任せて、大地を割って魔力切れを起こした母と。
割れた大地のすぐそばで岩をドカドカ地面に落とし、崩れた大地と一緒に転がり落ちた我。
知られるわけにはいかぬ。
娘の方は深く考えて告げた言葉でもないらしくすぐに考えが逸れたらしい。
そのうちボソボソと独り言を呟き始め、落ち込み始めた。
弟が、面白そうに娘を見ている。
気配を感じて見上げると、飛龍がこちらに向かって飛んでくる。
また娘が騒ぎ始めた。
…うるさい………。
だが、今は飛龍だ。こりもせずに我が領地にやってくる奴らをどうしてやろうか、
とこちらへものすごいスピードで近づいてくるのを好戦的な気持ちで見ていると、キレたらしい娘の頭上にファイアボールが浮かんだ。
だが、飛龍を倒すにはまだ小さい。
母がそこに自分の火魔法を足した。
面白い。我も一緒になって放り込んでいく。
弟も混ざって、3頭でポイポイと魔法を足すうちに充分な、いや充分すぎる大きさのファイアボールになった。
時間にして数秒。
慌てた飛龍が方向転換する間も与えず奴を目掛けて飛んでいった巨大な火の玉が直撃する。
ドーンと凄まじい音と爆風を発生させながら空飛ぶトカゲは焼きトカゲとなって地面に落ちた。
次回からはやっと主人公目線に戻ります。
長かった




