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「母ちゃん、相談したい事があるんだ」と言いながら、俺はさっき出来上がった夕食をちゃぶ台の上に並べる。

「なぁに?早く夕飯食べて仕事へ行かないといけないから、手短にお願いできるかな?」

「ちょっと長くなりそうなので、食べながらか、夜帰って来てからの方がいいと思うんだけど、どうかな?」

「う~~ん。ご飯食べてる間に終わるなら、そっちの方がありがたいかなぁ」

「分かった」

「で、和ちゃんに聞かせて大丈夫な話なの?」

「多分大丈夫だと思う・・・・」


 家族三人でちゃぶ台を囲み「「「いただきます」」」と言って食べ始めた。

「で、相談って?」と母ちゃんが水を向けて来た。

「母ちゃんにはまだこの世界では起こってないから想像できないかもだけど、俺が子供の頃、このアパートを借りる時名義を貸してくれた人が、新しい人をここに住まわせたいって俺たちを追い出したんだ」

「えっ?」

「で、母ちゃんは必死でその人に頼み込んだり、新しいアパートを探したりしたんだけど、母ちゃんも知っている通り、夜働く女の人はアパートを借りるのがめっちゃ難しい。で、結局、俺たちはどこにもアパートを見つける事ができず、店の寮に入ったんだよ」

 俺の相談事は、母ちゃんにとって爆弾だった様で、固まってしまった。


 子和弘が一緒に夕食を食べているから、このアパートは母ちゃんの前の彼氏の名義で借りているとはっきりとは言わなかったが、新しい人を住まわせたいという所で、別れた彼氏に新しい女が出来たんだと母ちゃんには分かったと思う。

 今更、その男に女が出来ても全然気にもならないだろうが、このアパートを追い出されるのは俺たち親子にとって大事件なのだ。

 たとえアパートの賃料は今までもずっと母ちゃんが払って来たとしても、賃貸契約だけは男の名前を借りているのだ。出て行ってくれと言われれば、契約をしている男の言い分が通ってしまう。


「店の寮・・・・」と母ちゃんの口からは無意識にその言葉が零れ落ちた。

「うん、当時、他に二人寮にいたな。ほら、眉毛のない女の人、あの人が住んでたよ。別に嫌な感じじゃなかったけど、他のアパートを借りられるなら、借りた方が良い」

「それはそうなんだけど・・・・。私の名義では借りられないし、あんたの名前だと無理だし・・・・。無理なんだよね?あんたの戸籍は和ちゃんの戸籍になるんだよね?」と母ちゃんが一縷の望みを託す様に確認してくる。

「うん。申し訳ない。この世界での俺の戸籍はこいつの戸籍になってしまう」と、夕食を食べている子和弘の頭を撫でる。


 母ちゃんの顔色が若干青くなったが、「そこでその問題を解決する為に相談したいんだ」と俺が母ちゃんの目を覗き込む様に言うと、母ちゃんの目は俺を縋る様に見た。

「母ちゃんと俺で事業を始めれば良い。母ちゃんは今まで通り夜は店で働いて、この事業は俺がやる。母ちゃんが個人事業主になれば、母ちゃんには昼間の仕事もある事になって、アパートも借り放題だ。俺もこの世界で戸籍がなくても、母ちゃんが雇ってくれれば仕事が出来るし、この家にも副収入が入ってくる様になる」

「事業って言っても・・・」

「元手が少なくても出来る仕事を考えたんだ」

 そう、ここの所俺は必死で考えたのだ。家事を担当するって言っても、大の大人が母ちゃんの稼ぎに集るだけっていうのは居心地が悪い。

 だとしても、俺が仕事を持つとしても、戸籍の問題がある。

 戸籍がなくても仕事をするとなると、俺の事情を知っている大人に雇ってもらうしかない。

 でも、そんな大人は母ちゃんしかいない。

 母ちゃんが個人事業主になると言っても、高額な元手は用意できない。

 そこで、少ない俺の灰色の脳細胞を動かして、一つの結論に行き着いた。


「ここの所考えてたんだけど、母ちゃんの伝手で商売させてもらえないかって。いろんなクラブの女の子にドレスを貸すのはどうかなって。名付けてレンタルドレスってことになるかな~」

「レンタルドレス?結婚式場のウェディングドレスの様な?」

「そうそう、そんな感じ。ホステス辞める娘や、新しい服買いたいから古い服を売ってでも現金の欲しい娘、倒産したブティックなんかから仕入れて、ホステス用のレンタルドレスをしてみたいなって」


「そんなん成功するの?確かにいつも服や髪の事ではみんな頭を悩ましているけど・・・そんな商売成功するのかな?」

「分からん。でも、考えたんだ。レンタルドレス、小さな規模でいいんだ。でも、母ちゃんは夜働くから、昼間の仕事は難しいだろ?なら、俺が代わりに仕事すればいいだけじゃん。で、レンタルドレス、お水の女の子専用にはまだどこもそんな事業やってない。良い目の付け所だと自分でも思うぞ。そんでもって、ウェディングドレスのレンタルを参考にして、役所とかに聞いてどんな資格がいるのかは調べたんだ」

「資格を取らんといけんのぉ?」

「うん。まぁ、正確には資格というより許可だね。古物商許可」

「取るの難しいの?」

「一応は何が必要なのかを調べて来たから、それに沿って手続きしてみよう。ダメならその時専門家に頼もう」という俺の意見を聞いてくれ、母ちゃんの同意は半ば取れたのだが・・・・。


「ねぇ、それって、また夜は俺1人になるってこと?」と子和弘が不満げだ。

 今は一応俺という大人が夜の間中ついていることで、かなりの安心感を得ていた様で、ホステスにドレスをレンタルするとなると俺も夜働くんじゃないかと心配になった様だ。


「確かに母ちゃんが出勤する前後の時間が仕事時間になるけど、それが終ったらすぐに帰って来るから、夜一緒にテレビも見れるし、お前が寝る時は傍にいてやれるぞ」

「本当?」と不安気な表情で俺の顔を覗いて来る。

「本当、本当。まぁ、たまぁにちょっと遅くなる事もあるかもしれんけど、ほとんど毎晩一緒に夕食たべるし、夜寝る前は一緒にいられるぞ」

 子和弘はしばらく黙って悩んでいた様だったが「う~ん、ならいい!」と最終的には賛成してくれた。


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