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コンサルの方は、ミノリさんに遅れる事4日で、2人目の客を獲得する事ができた。
別にミノリさんの成果を聞きつけてということではないらしい。だってミノリさんのコンサルもまだ最初の評価の枠と1回目のコンサルしかやってないのだ。
でも、純粋に家のサービスの説明を聞いて、納得して契約してくれてるなら尚更良い。
家の事務員が、説明文のスクリプトを作って練習していた成果が十分に出ていると思う。後で忘れずに誉めておこう。
五月さんという二人目の客は、ちょっとぽっちゃりして目がクリっとした丸顔で、どうみても成人している様には見えない幼顔だ。だからなのか、化粧がかなり濃い。目と口だけがドーンと全面に出てると錯覚するぐらい、色が目と口に集中した化粧をしていた。しかも、元々の目や唇の形をなぞっただけで、隠したいところを隠せていない、典型的な素人さんの化粧だった。
小柄でぽっちゃりさんなのに、胸部にはあまり目が行かないスタイルなので、お客がつくとすれば、その若さに対してというケースが多いのではないかと簡単に推察できた。
「うち、どうしても方言が出るんですよね」
「方言はマイナスではないですよ」
「でも、田舎臭いとお客が付きづらいからってママさんによく怒られるんです」
「では、方言がたまに出てしまっても五月さんが魅力的に見える方法をスタッフ全員で考えてみましょう」そう俺が言うと、安心した様に頷いている。
五月さんは8丁目のお店に努めて2年目になるそうだ。
自称二十歳と言っているが、恐らくもっと若い。
そして2年前から働いているのに、今20歳っていうのはそれはそれで問題だ。
それを指摘すると「えへへへへ」と甘えた子供っぽい対応が帰って来た。
「まず、お肌の色はイエローベースですが、秋色なのでモスグリーンとかゴールド等の渋い色やゴージャスな色味のお洋服が似合います。後、日焼けしやすいお肌なので、日焼け対策は普段からしっかりして下さいね」2階の美容院店長がマニュアルにそって診断をした。
「え?日焼け対策ですかぁ」
「はい、面倒臭いなとお思いでしたら習慣づけるために、このコンサルの期間だけでも、スタッフから日焼け止めを塗ったかどうか確認を入れる様にしますので、最初っから全部ひとりで頑張らないといけないなんて思わなくてもいいですよ」
「ああ、それはありがたいです」
「後、同じイエローベースでも、クリームというよりは黄みがかっていますので、髪などは、深みのあるアッシュ系の色に染められると綺麗になりますよ」
「アッシュ系ですか?どんな感じの色なんですか?」
「家の美容室で染める事ができますので、後で、染めてみますか?店なら色見本もありますしね」
「では、お願いします」
美容室店長二人と俺の簡単な聞き取りが終ると、そのまま美容室の店長たちが五月さんに対応してくれた。
早速、カラーリングを決めてくれた様だ。
五月さんの田舎くささは方言というよりは、装いにあると見た和江ママさん。もうお店をやってないのでママではないのだが、時々ポロっとスタッフからママさんと呼ばれてる。かく言う俺もそうだ。和江さんも、そこはあまり気にしない様で、特に注意をされた事はない。
というよりも、以前ママだったというのが売りでコンサルをしてもらっているので、営業戦略としてもママと呼ぶくらいが丁度良いのかもしれない。
まぁ、五月さんの場合、和江ママの見立てで先に外見からいじった方が良いと言われたので、美容スタッフで五月さんの化粧や髪型から手を入れる事にしたのだ。
アッシュ系のカラーリングでぐんと大人っぽくなった。このカラーリングも令和の様にたくさんの種類のヘアカラーがある訳ではない中、美容院店長2人が2色染めなんかをところどころに配して頑張ってくれた様だ。
髪に合わせて唇もワインレッドの落ち着いた、しかしはっきりした色で雰囲気を都会的にしてみた。
元々が若々しかったので、若い中にも落ち着きが出て、ぐっと女性としての魅力が表に引き出された感じだ。
さすが家のスタッフだ!!
服に関しては、古くなったレンタルドレスを捨て値で売っているワゴンに偶々モスグリーンの服があったので、試着してもらいながら高山さんが説明をした。
「古くなったお洋服で申し訳ないのですが、丁度良い服があったのでこれを使わせて下さいね。この様に金色のパイピングを裾やデコルテに付ければ」と言いながら待ち針で仮止めし、五月さんの体形に合わせる様に後ろ身頃の方も少し摘まんだ。「ゴージャスなイメージになりますし、この様に、お洋服のラインを少しいじると、一気にあか抜けた感じになります」
「わぁ。すごい。あつらえたみたい」と五月さんは感動一頻だ。
「レンタルドレスの方にも、こんな感じで五月さんの体形や色に合った服がありますので下に降りてみましょうね」と脱がせるために、待ち針を外し始めたが、「あのぉ・・・、この服、買えますか?」と五月さんはこのドレスが欲しくなった様だ。
「もちろん、ワゴンセールしている服なのでお買い上げ頂けますよ」
「いえ、そうではなく、さっきの様に少し手を入れてもらった形で売って欲しいのです」
「お直し代と材料費が係りますが、もちろんお買い上げ頂けます。ただ、お直しに少しお時間を頂く様になります。そうですね・・・4日間くらい見て頂ければ大丈夫だと思います」
「あ!なら、お願いします」と五月さんは、高山さんがもう一度金色テープを待ち針で付け直しているのをニコニコしながら見つめた。
ママからはポロっと方言が出た時の対処や、若い可愛さをこのままキープするために、どんな話し方をするか、話題はどんなものを中心にするか等について話し合った様だった。
若いから、スポーツの話を中心にしてもいいかもしれないと和江ママが言っていたので、俺がいつも纏めているトピックの中にスポーツ記事のタイトルを多く入れ込むなどの努力はしている。
まぁ、トピックについては、ミノリさんにも五月さんにも基本同じ物を渡していたのだが、ミノリさんの方にはスポーツの話題を心持ち大目に載せておいた。
その甲斐あってか、最近では五月さん自身も新聞を読む時は経済新聞の他に大手新聞社のスポーツ欄を中心に読み込んでいるらしい。それだけではなく、有名アスリートのインタビュー記事等を自分でも探したりと努力をしている様だ。それなのに気を抜くと、日焼け止めクリームを塗り忘れる様だ。
家の事務員からも毎日日焼け止め塗ってますかコールが行っているみたいで、面倒臭がりながらも、なんとか日焼け止めクリームを塗るのが習慣になって来ている様だ。
五月さんはカラオケの講座は受講していないが、それは彼女の勤めるお店にカラオケがないせいだ。
肝心の売り上げだが、並木通りのお店に努めている事と、元々の順位が下から2番目という事もあり、爆発的に上がった。
ミノリさんよりも五月さんの方が家のコンサル業の広告塔になりそうだ。
五月さんやミノリさんのお陰もあってなのか、その後、コンサルの仕事は契約本数こそ少ないが、途切れる事なく着実に顧客を得ていた。
またコンサルの中にはネイルアートも含まれているので、売れっ子のホステスたちがやっていると評判になり、家と契約していないホステスたちもネイルアートコーナーを利用してくれる娘が増えて来たのは嬉しい誤算だった。