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「コンサルを受けると売り上げが確実に上がりますか?」

 昨日からコンサル業務を銀座睡蓮ビルで開始した。


 バブル景気が始まっており、徐々に銀座の景気も上がってきている。

 そんな中、思った程の売り上げを出せていない女の子たちには、このコンサルは福音に聞こえるのではないかと期待している。


 新宿の睡蓮ビルはキャバ嬢が主たる顧客だから、銀座のホステスが必要とするコンサルとは内容が自然と異なってくるし、実入りが良いのはやはり銀座ホステス相手の方だ。

 だから、こっちが軌道に乗って、ノウハウを確立するまではコンサル業務は他店舗では展開しない事に決めている。まぁ、カラオケだけは例外的に新宿ビルにしたんだがね。


 コンサルを始めて、初めての客候補が銀座睡蓮ビルのコンサルコーナーで家の事務員からの説明を聞いている。

「必ず上がるという保証はございませんが、一流のホステスになるための知識を学ぶ事はできます。一流のホステスになれば、自然と売上げも上がるのではないかと思っております。後、経験豊富な第三者が厳しい目線で、お客様にふさわしい化粧、服、髪型を模索しますし、タイムリーな話題、いわゆるトピックも書類の形ではありますが、一定期間提供させて頂きます。銀座のホステスとして欠かせない株を含む経済の講習もありますし、アフターの為のカラオケ個人教室も新宿ではありますが、別料金でお受け頂く事が可能です」


「お値段を伺っても良いですか」

「10万円になりますが、こちらは基本料金となっておます。」

「10万円!」客が大きく仰け反った。

 和江ママさんには契約が発生して、お客に教える時だけ来てもらう事にしているので、セールストークは家の事務員がやっている。


「はい、最低でも7人のスタッフがお客様一人に対して夫々の専門分野で分析評価をし、それを元に改善案を提示し、実施させて頂きます。また、先ほどの10万円は基本料金となり、売上げが上がったら、プラスαで別料金が発生します。いわゆる成功報酬分ですね」

「うわ~。それは取り過ぎなのでは?」と客も遠慮がない。


「いえ、先ほどもご説明した通り、厳しい目を持ったスタッフが複数、お客様の詳細な分析をして、それを元に対策を練る訳ですから、このサービスを受けられるお客様の数だけこちらのサービスの在り方も変わる訳です。お客様だけの特別な内容になるので、その分こちらの業務も尋常でない量になります。そして何より、スタッフとしてもお客様の成績が上がれば上がる程、一定期間だけではありますがプラスαとして儲けが入ってきますので、本気でお客様の売り上げを上げるために協力をさせて頂くという事はお分かり頂けるのではないかと存じます。そしてコンサルの成功例が増えれば増える程、家の宣伝にもなりますから、いい加減な事は致しません」


「でも、10万円・・・・」

「失礼ですが、お客様はどこかでプロの方からお化粧の方法を習っていらっしゃいますか?」

「いいえ」

「どんな色の服がお客様の肌に映えるかとか、お客様の首筋や胸元が綺麗に見えるデコルテの形はどれか等ご存知ですか?」

「い、いいえ・・・・」

「家では元銀座クラブのママが、お客のあしらいや、会話の運び方、同伴やアフター、営業のコツなども教える事となっております」

「え?そんなにいろいろ教えてもらえるんですか?」

「はい。10万円という基本料金は決して安いお値段ではないですが、お客様がホステスを続けていらっしゃる間はずっと役に立つ知識を得られると思えば、そこまで高い金額ではございません」


 このギラギラした印象の悪役令嬢を連想させるお客様候補は、家の事務員の説明にかなり心を動かしている様子。

「このコンサルっていうのはいつでも受けられるんですか?」

「コンサルの科目は評価、容姿、マナー、経済の4つで、時間としては各々1時間半くらいを3回づつでございます。経済だけは1回のみとなります。プラス、1月間は毎日、時事情報を書類の形でご提供させて頂きます。授業は、こちらのスケジュール表の中で空いている枠の中から、ご都合の良い時間をご予約頂く事ができます。ただ、経済の講習は開催日時をこちらで設定させて頂きます。そして1対1ではなく、先生対複数の生徒という形になる可能性がある事をご了承願います」


「分かりました。少し考えてみます」

「はい。ありがとうございます。何かお知りになりたいことがございましたら、遠慮なくいつでもお声をお掛けください」と初めての客候補は流れる様な事務員の説明を受けて店を後にした。


 カラオケ講師は母ちゃん経由でなんとか見つかった。

 本当を言うと、母ちゃんと言うより碧さん経由だ。友達の友達という、知り合いなのかそうでないのかよく分からない関係だが・・・・。

 室〇滋さん似の山村さんは元売れない歌手で、生活のためにホステスとして働いていたのだが、結局は歌手を諦め、そのままホステスになった人だ。クラブに来る客の喜びそうな曲筋も知っている様だし、なかなか良い人材だと思い、面接をした。


「ホステスのカラオケは、ただ上手いだけじゃいけないんです。ホステスの女らしさや妖艶さを演出できるツールだということを理解しているホステスが歌うのとそうでないのは雲泥の差があるんです」という持論をぶちかましてくれた。


 ホステスだけあって、人を惹きつける話し方でグイグイカラオケの重要性を語ってくれたので、それだけでも得難い人材だ。

 だって、この俺がカラオケ技術はホステスに必須な要素だと簡単に納得させられた程のトーク力なのだ。例え歌唱指導がお粗末だったっとしても、客にカラオケの重要性を気づかせる事ができるだけで十分その役を果たしていると言える。まぁ、歌謡指導の方もそれなりに出来る様で、何よりピアノが弾けることにびっくりした。歌謡指導に必要ということなので、追加工事で新宿睡蓮ビル内に小さな防音室を作り、中古のアップライトのピアノを1台入れて準備は万端。


 カラオケは必要な時に、山村さんが働いているスナックの機材を昼から夕方に限って使わせてもらう事になった。山村さんに紹介してもらったスナックの経営者と話すと、昼間遊ばせているより、たまにでもお金になるなら貸しても良いとすぐに話がついた。

 山村さんにとっても、仕事でいつも使っている機材なので、操作も慣れており、悪い話ではない。


 ここまでやって、誰もコンサルやカラオケ指導を受けてくれないと大きな損失だ!

 とにかく早い内に客に来て欲しいものだ。

誤字脱字報告をありがとうございます。とっても助かりました。

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