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「お受けします」
和江ママがコンサルの仕事を請けてくれると返事をくれたのは、それから2日後の事だった。
俺は喜び勇んでマニュアルの叩き台を持って和江ママに会った。
「これは・・・とても良くできていますね」
「ありがとうございます。このマナーのテキストについては、箇条書きで良いので和江さんの教えたい事を付け加えて欲しいんです。もちろん、既に書いてある部分で削除したい場合は、思い切って削って頂いても結構です」
和江ママのクラブ『都』は工事が佳境に入った様で、椅子なども撤去されているらしく会合には向かないので、今回は俺らの銀座睡蓮ビルの事務所で話を詰めている。
「同伴やアフターの事が抜けているみたいなので、それについても加えたいですし、営業も電話だけでなく色々な方法があるので加筆したいなとは思います」
「わかりました」
「後、カラオケについても考えているんですが、歌指導の方を雇う事はしないんですか?」
「え?銀座のクラブでカラオケですか?」
「一流の店ならその必要はないかもしれませんが、同伴やアフターでカラオケのある店に連れて行かれる場合もあるし、銀座でも全ての店がグランドピアノを置いてる訳じゃないんです。そうでないお店ではカラオケを置いてるところも少ないですけどありますから、やっぱり希望者へはカラオケを教える事も必要だと思います」
和江ママからの突然のリクエストで、俺の頭は一瞬真っ白になった。
歌謡指導ってどうすればいいんだ?どこに先生がいるんだ?
それにカラオケを練習する場所の確保はどうしたらいいんだ?
「お客によっては演歌がお好きな方も多いので、先生は演歌も軽く押さえられる様な方が理想ですね。もちろんデュエットも学べないとですね」と和江さんからの追加のリクエストだ。
「やっぱり音大出身の人でないとダメなんだろうか?」
「歌手崩れでいいんじゃないでしょうか?演歌も対応できないとですしね」
「そんな人、伝手がないんですよ。和江さん、どなたか知りませんか?」
「私は心当たりがないんですが、知り合いに聞いてみます。でも、念のため横田さんの方でも探して頂けないでしょうか?」
和江ママにマニュアルの叩き台を渡して、お互いにボイストレーナーを探す事を約束して、和江さんとの話し合いは終わった。
俺は早速、同じビルの最上階にある俺たち3人の住居に戻り、母ちゃんを探した。
「母ちゃん。和江ママ、コンサルを引き受けてくれたよ」
「え!良かった~。コンサルは新しい事業だから面白いのと、利益率が高いからめちゃめちゃ嬉しいよ」
と、出勤の準備をしながらも、こちらを振り返って目を爛々と輝かせている。
「ただ、和江ママからのリクエストで、コンサル内容にカラオケも入れたいから、ボイストレーナーを雇いたいって事になって・・。でも、ママさんも俺も歌唱の先生になれる様な人に伝手がないんだよ。ママさんの方でも知人とかに聞いてくれるって言ってたけど、こっちでも探さないとダメかなぁって」
「ボイストレーナーってカラオケの先生ってこと?」
「そう」
「分かった!こっちでもみんなに色々聞いてみる」
「助かった。あ、ただ。本格的でなくていいから演歌にも対応できる人でないとっていう縛りはあるから。後、カラオケの練習ができるところも探してるんだ」
「わかった。色んな人に聞いてみる」
令和では、演歌はとんと聞かないというか、TVから歌番組が次々と姿を消してしまって久しい。演歌が好きな人でないと聞く事すら稀だ。まだこの昭和の時代では歌番組は結構やっているし、演歌が高い順位を占めている。だから和江ママさんが演歌に重きを置くのも理解できるし、客の年齢層によっては演歌は必須と言っていいだろう。
まぁ、人任せになってしまうが、母ちゃん経由か和江ママ経由で誰か見つかる事を期待しよう。
後は、カラオケができる場所の確保だが、これはもしかすると銀座ではなく、新宿の方が良いかもしれない。女の子たちがカラオケを使用する頻度は銀座より新宿の方が多い気がするし、カラオケの施設もそっちの方が見つけやす気がする。
本来は1つのビルで全部賄えるっていうのが睡蓮ビルのコンセプトだったけど、カラオケだけは銀座ではなく、新宿でって方向に決まるんじゃないかと思う。
はぁ。簡単にコンサルって考えていたけど、範囲が広くて、徐々に俺の手に余ってきてるよ。
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