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「で、具体的にこのお話をお請けするとして、私は何をやったらいいの?」

 やった!この話を請ける方向に気持ちが傾いてきているのか?俺は逸る気持ちを抑えつつ説明を続けた。


「はい。まず、コンサルタントの内容として、ホステスの評価をします。評価をする項目は、話し方と接客態度。これはマナーの科目とします。化粧、髪型、服装は容姿の科目。評価はせずに一律に講義を受けてもらうものとして、時事情報や経済を考えています。これらは知識とカテゴライズします。」

 和江ママは無言で頷いている。このママさん、無言で頷く事が多いなぁ。


「和江さんに見て頂きたいのはマナーの部分です。容姿に関してはビル内に入っている美容室と家の千鶴子さん、服のお直しをしてくれている高山さんというスタッフに担当してもらい、知識の部分は俺が新聞とか雑誌から毎日トピックスを簡単に纏めて書類の形で渡すつもりです。経済、特に株については外部の講師を頼むつもりです。もちろん和江さんが宜しければ容姿の部分も一緒に担当してもらえたらうれしいです」

 そこまで説明すると、和江ママは今度は無言で考え始めた。


 和江ママがゆっくり考えられる様にと、こちらも音も立てずに待っていたが、和江ママの回答は「少し考えさせてください」だった。

 結局、すぐに返事は聞かせてもらえなかったけど、考えてはくれるみたいだ。

 期待して待とう!



 俺は家に戻ってコンサルのマニュアル作りを始めた。

 まだ和江ママがコンサルを請け負ってくれるかどうか分からないけど、どっちにしてもマニュアルがあると、新しい講師の候補者やお客にも説明しやすく、百()あって一()なしだな。あっはっはっは!


 まず、講師側が使うマニュアルだが、これは客に見せない物で、どの様に客に接するべきかに腐心して書いた。


 『絶対に売り上げが上がると言ってはいけない』や、『売上が上がらないと文句を言う客には、どこがまだ修正されていないか懇切丁寧に教えるが、その際、相手のプライドを傷つけない様に①今まで客ががんばって来た事をまず褒める。②客が努力して来たが、まだ改善されていない点を、努力をして来た事を認める事を前面に出した後、指摘する。③客の努力が明らかに足りなかった部分を洗い出し、責めるのではなく、どうすればその部分が改善できるかを客と一緒に考える。④・・・・』などを箇条書きにした。


 要は客に気持ちよくコンサルを受けてもらい、その上でこちらもあなたと一緒に努力している最中ですよ~と客に分かってもらう事が大事だと言っているのだ。つまりは、これからも良い関係を築きながら、更なる高みを目指しましょうとアピールする方法について書いたマニュアルだ。


 客にもテキストとして渡すマニュアルは、容姿やマナーの2点に絞ったものにする心算だし、文字の少ないイラスト満載の冊子にする心算だ。だって、ホステスさんたちの中にはじっくり文字を読むのが苦手な人もいるらしいからな。

 あ、これは宮地からの情報だ。おそらく宮地の浮気相手の誰かの事なんだろうなぁ。


 時事情報に関してはダラダラと書きなぐるのではなく、A4の紙の表裏に情報別に円で囲って記載するつもりだ。だから、表面に円が5~6つ、裏も同じくらいで、それぞれの円に番号と大見出し、小見出し、本文はちょろちょろっと要点のみを書き、表裏全部読んでも10分もかからない様にするつもりだ。円は出来事の性質で色分けをする。黄色の円なら政治、赤なら経済、青ならスポーツといった具合に一目みて、どんな系統の情報なのかが分かる工夫を施したい。当然、中には円の色が2色や3色になるケースも出てくるだろう。特定の出来事について詳しく知りたい場合は、情報元である新聞や雑誌の記事のコピーを付けておく。それ故に、各円に番号を振っておくのだ。添付された記事のコピーにも番号を振っておくので、知りたい情報の記事だけをじっくり読めばいいのだ。


 容姿のテキストだが、昔の彼女が「私はブルべだから」と言われた事があり、ブルーベリーを買って行ったら笑われて、肌の色を黄色ベースか青色かに分けてファンデの色を決めるので、自分はブルーベースって意味だなんて言ってたのを思い出し、ブルーベースとイエローベースという考え方を載せてみた。その他にも今までに耳に入っていたちょこっとした情報を一覧にして、母ちゃんや家のビルに入っている美容院に内容確認してもらうつもりだ。また聞きの情報が本当とは限らないからなぁ。

 それに令和で言われていた事が、昭和でも常識とされているかは別の話だし、とにかく、俺の聞きかじりで得た知識を一度は美容院の店長たちに投げて内容を精査してもらわないといけない。


 あ、前にも少し説明したかもしれないけど、家の銀座のビルには美容室が2軒テナントで入っている。

 どうして2軒かと言うと、ホステス同士で仲が悪い人は別々の美容室に行ってもらう方が、いろんな意味で問題が起こりづらいという母ちゃんの意見を参考にしたからだ。

 結構大きな美容室2軒なのだが、出勤前の限られた時間に集中して対応しなければならない客の数も相当いるので、客を捌くには2軒で正解だったなと思う。フロアを変えて2軒入ってもらっている。


 2軒ともコンサルに参加してくれるそうで、店長たちは張り切っている。これで自分たちがコンサルした女の子たちが綺麗になったと評判になれば、美容室の宣伝にもなるからだ。まずはテキスト作りから協力してもらう心算だが、叩き台くらいは俺が作っておかないと話が先に進まないからなぁ。


 服の事について、高山さんに肌の色に合った服や、丸首とVネックで客に与える印象の違いとかについて色々教えてもらっていたので、それについて纏めてみた。

 高山さんは自分は専門家じゃないので、参加するのは烏滸がましいと思っていたが、結婚する前は芦屋の裁縫学校を出た後、高級服を販売していた店で働いていた経歴の持ち主だ。十分だと俺は思っている。


 それに高山さんは野暮ったい髪型はしているが、いつも清潔でこざっぱりした服を着ている。でも。どこか他の人とは違うのだ。

 前に聞いてみたら、パーソナルカラーをベージュに決めて、コートや傘、鞄などを全部ベージュにしつつ、差し色を濃淡の違う水色とピンクにしているとのこと。だから、小物と服のマッチングがいつもドンピシャに決まっている。こういう工夫が出来る人なら、コンサルに大いに役に立ってくれることだろう。

 よし!服に関する叩き台も、高山さんにチェックしてもらわないとだな。


 マナーの部分に関しては、母ちゃんから聞いた『お客は店に現実を忘れに来る』『知っている事でも得意になって自分の知識をひけらかさない』『個人情報は漏らさない』『悪口は客の前では絶対に言ってはならない』等の基本的な接客についての要点を箇条書きにしている。


 そうそう、客に対しては三角になる様に座るとかも言ってたなぁ。それも書いておかないと。

 しかし、三角に座るってどうやって表現すればいいんだ?

 客の横に少し離れて座って、膝が客の膝に当たる様に座るって事なんだけど、客の足と女の子の足で二等辺三角形の2つの辺を作り、底辺が二人の離れて座っている距離ってことだが、三角って表現で分かるかな?

 あ、あと、三角で座ったまま時々客の膝に手を置くと、客の目線上に自然と女らしい姿態を演出して見せる事ができるとか言ってたな。それも忘れずに書いておこう。


 母ちゃんが話してくれた中で特に面白いと思ったのは、「たま~にね、別の店のママとかが客と夫婦を装って偵察に来る事があるんだよね。偵察してるのはママで、客は偵察ママのお遊びに付き合ってるだけなんだけどね、どう見ても素人じゃなくて玄人だろうって分かるのに気づかないフリをしつつ、こんな素敵な奥さんをお持ちな〇〇さんもやっぱり素敵ねぇ~なんて客も偵察ママも持ち上げないといけないのよね。お客の連れて来た女性に嫌われたら、その客を失うと思って間違い無いからね。それが本当の奥さんでも、ただの行きつけの店の娘でもね」と言ってた事だ。


「なんでその偵察ママさんは偵察に来るんだい?」

「良い娘がいたら引き抜きってこともあるし、ライバル店がどんな風かを知るには中に入り込むのが一番だから、客として来るのが早いじゃない」

「そんなもん?」

「そんなもんよ」

 こんなよもやま話もなんとかしてテキストに入れ込めないか無い知恵を絞らないとだな。


 マナーのテキストもコンサルの講師が決まったら、その人の知識も盛り込み講師が使いやすいものにするつもりだ。和江ママが受けてくれるといいんだがなぁ・・・・。


 トピックスの方は契約が決まってからで良いので、今は放置だ。

 株を中心とした経済講義は、外部のコンサルから講師を派遣してもらう事になった。

 1回の講習で客の数に関係なく報酬を支払う事にしたので、一度の講習で複数の女の子が受講してくれた方が家としてはありがたい。経済のテキストは家では作らず、講師に作るかどうかも含めて任せる事にした。


 よし!まだまだだが、凡その方向づけはできたと思うので、関係者にこのマニュアルをチェックしてもらおう!!

 どうせ、俺の様な素人が書いたマニュアルなので、プロの人たちから見たら、臍で茶を沸かす様な内容になっているかもしれない。でも、令和に生きて来た俺はマニュアル世代の平成をも潜り抜けて来たのだ。昭和の人たちよりは、マニュアルのなんたるか、そしてその書き方については詳しいはずだ。

 そう思っていなければ気恥ずかしくてマニュアルなんて作れない。

 赤字チェックだらけになっても、俺!落ち込むなよ!と自分を鼓舞しながら手書きのマニュアルをまずは母ちゃんに見てもらう事にした。


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