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「うわぁ。結構いろんな服あるのねぇ」と最近契約したクラブの女の子二人が家の店に来てくれた。

「いらっしゃいませ」最近雇った女性店員が控えめに女の子たちの斜め後ろに立つ。

「ねぇねぇ、これって試着してもいいの?」

「はい、こちらがフィッティングコーナーとなっております。靴は脱いでお使い下さい。一度のご試着は3着までとなっておりますが、いずれもお気に召さない場合は、再度3着をお選び頂き、フィッティングしてみて下さい」


 先週、漸く開店にこぎつけた睡蓮銀座1号ビルだ。1号も何も、1軒しか持っていないが、新宿にもビルを購入する心算だし、できたら銀座にも2号ビルを持ちたいと思っているので、1号と名付けている。

 壁は女性の肌が一番綺麗に見えるサーモンピンクにしてある。

 白い壁でも清潔感があって良いかと思ったが、母ちゃん曰く「白だとデパートみたいだし、やっぱり肌が一番綺麗に見える色にした方が、ドレスも2割方綺麗に見えるってものよ」とのことなので、家の内装担当である母ちゃんの意見に従った。


 レンタルドレスは1階と3階で、1階の方が比較的安めの服で、3階は着物やブランドのスーツ等のビップ相手の階になっている。テナントの美容院も2階と4階にそれぞれ入っている。

 ネイルアートは1階で、高山さんのお直しコーナーは4階だ。2階にはバックのレンタルコーナーも品数は少ないが用意した。ホステスたちが客から貰ったプレゼントを買い取り、安く売るコーナーもある。バッグやハンカチが主な商品だ。

 客にねだる鞄は全て同じメーカーの同じ色、同じ型番というのはホステスが良く使う手法で、一つだけ手元に残し、残りは当店や質屋などに売ってくれるのだ。

 4階は、将来、コンサルを行うためのスペースも確保している。

 で、何よりも心を砕いて改装したのは、トイレだ。


 現代のデパートが、女子トイレが綺麗になって、それがきっかけとなってたくさんの客が来る様になった事例を覚えていたので、改装業者の人たちが驚くくらい、トイレには力を入れた。彼らには何故俺がこれほどトイレに金をつぎ込むのか理解できない様だった。


 結構スペースを食うので、トイレは美容室の入っている2階と4階に作った。

 一見さんであっても、トイレを使う際に1階を通らざるを得ず、その時にちらっとでもドレスを見て、新規の顧客になってくれる事もあるかもしれない。

 何より家のビル全体に高級感を出す良い手法だと思う。


 新宿の高島〇の女子トイレの写真を昔の彼女に見せてもらった事があり、階によってデザインのテイストを変えていたのを思い出したので、家のビルもその真似をしてみた。

 もちろんトイレの中には広々としたパウダールームも併設されている。


 そして、5階が最上階で、俺たちの居住スペースとなっている。俺が母ちゃんに約束したペントハウスだ。

 古くて小さなビルだが、これが俺たちの城だ。


 二人の女の子の内、背の高い方はオレンジ色が好きらしく、濃さの違うオレンジのドレスを3着抱えて試着室へ入って行った。


 残った方の女の子は、「着物はないんですか?」と店員と話しながら、友達の試着が終わるのを待っている。

「お着物は3階になりますが、特別会員様のみとなっております。特別会員様は、1年以上レンタルドレスを続けて下さっているお客様で、保証金を納めて頂いた方となっております」

「1年以上かぁ。まだ会員になったばっかりなんですよねぇ」

「そうですか。では1年後、是非、特別会員になって下さいね。お着物以外にもネイルアートのコーナーがございまして、大変好評を頂いております。家は日本で最初にネイルアートをした店なので、日本広しと言えど、今このサービスを提供しているのは家の店だけなんですよ。もし、お時間があれば覗いて行って下さいね。」


「ネイルアート?」

 店員は花の絵が描かれた自分の爪をお客に見せて、「こういった爪に綺麗なマニキュアをしてくれるコーナーなんです」

「うわぁぁぁ。綺麗!!何これ?何これ?」と、客の興味を着物レンタルからネイルアートに上手く移行させた。


「当店のスタッフが、お客様の好みに合わせたネイルアートを施術致します」

「綺麗~。やってみたいけど、どんな絵が良いのか分からない~。私、絵とか苦手なんだよね」

「いくつかモデルがありますので、カタログを見て図柄を選んで頂く事もできますし、服やバッグを決められたら、それに合わせた図柄や色をお任せでということも出来ます」

「うわぁぁ。私、やってもらおうかなぁ」

「はい、では、ネイルアートコーナーの方に連絡しておきますね。今日、お召しになるお洋服はもうお決まりですか?」

「まだ。今、決めるね。わぁぁ、こんなマニキュアしてもらえるなら、是非、服もレンタルしなくちゃ!」

「では、どうぞごゆっくり」


 女の子たちは銀座の裏通りにあるこのビルに来て、まず服を選んで、それに合ったバッグを選んだら、そのまま2階か4階に入っている美容室で頭をセットしてもらい、時間に余裕があればネイルアートを施してもらう。

 徐々にだが、家のレンタルドレスビルは銀座のホステスの間で有名になって来た。


「そろそろ、コンサルタントにも手を付けたいんだけどねぇ」とポロリと考えが口から零れた。

「かっちゃん、次は何をするの?コンサル?」

「そう、コンサル。売れない女の子が売れる様にいろいろとアドバイスをするサービス」

「え?何それ?」と母ちゃんはこの話にかなり乗り気だ。


「例えば、肌の色にあったドレスの色や、デコルテの形、髪型から、お客へのアプローチの仕方とか」

「アプローチの仕方?」

「うん、話し方教室っぽいのや、毎日の新聞記事の纏めとかで、客との会話が種切れにならず、知識をひけらかして鼻に付く事なく、如何にスムーズに客の心を射止めるかという事についてのアドバイスみたいなもんかな」

「何それ?おもしろーい」


「例えば昔どこかのクラブのママさんだったりちぃママだったけど、今はどこの店にも出てないベテランさんを雇って、そういう人から女の子にアドバイスを有料でしてもらうって感じだな。もちろん株についての知識を専門家からも教えてもらうとかも必要かなぁ」


「いいねいいね!特に、株のお話は、絶対に仕事に役立つと思う!!出来たら私も受けてみたい!」

「でも、それには女の子たちが素直に従えるくらいの押し出しと経験のある元ママさんが必要なんだよね~」

「となると人脈かぁ・・・。う~~~ん、う~~ん」

 母ちゃんが唸っている。

 でも、こっち方面での人脈は母ちゃんにしか頼めない。

 俺の方は、株のセミナーを引き受けてくれそうな講師を見つける事に集中する事になるだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みさせて頂きました! 汚い部分を極力描写せず、キラキラした部分を見せていく感じの作品と感じました 面白かったので、もっと長く読みたいけど29話で終わりと予告されてるのが残念ですw
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