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「新しい店を開拓しようと思って、最近付き合ってるミキちゃんって娘に、家のドレスの事、友達に声掛けてくれるように頼んでたんっす。だけど、ミキちゃんが言うには、友達の店は、ケツ持ちを担当している組がレンタルドレスを始めて、そこの店の娘は、その店から借りる様に義務付けられてるみたいっす」

「義務付けられているって?」


「月に4着、そのレンタルドレスから服を借りて、その料金はクラブが女の子たちの給料から天引きするっていうシステムみたいっす!あそこの組は銀座で手広く商売しているので、俺たちが営業できる店が減るかもしれないっす」


 宮地にしては珍しく興奮しており、唾が飛んでいても気にする様子もなく、とにかく大変だー!という感じで俺に詰め寄って来た。

 あ、ちなみに宮地は碧さんと別れたわけではない。ミキちゃんは浮気相手の一人だ。


「銀座の店、半分くらいはその組の島なの?」

「いや、そんなには・・・・。精々、1/4くらいだと思うっす」

「おっちゃんどうするの?」と子和弘も心配そうだ。子供の前でする話ではなかったが、それを考慮するだけの余裕が宮地になかったということだ。


「う~ん。俺としては良い機会だなって感じかなぁ」

「良い機会って?何で兄さんはそんなに落ち着いてるんすかっ」

「今の話だと、集金の理想の形を教えてもらった感じだし、その組が管理していない店なら、同じシステムでレンタルできると思うし、それだと集金しっぱぐれがないし、定期的にレンタルしてもらえるし、理想的だぁ。俺では考えつかない方式だから、勉強になったよ」

「ええええええ!?兄さんはのんびり屋さんっすね」


「いや、そうじゃなくって。元々、こういう商売は資金力さえあれば後追いでいくらでもできるんだよね。だから、最初っから家のカタログには蓮の花のロゴをこれでもかってつけてたでしょ?」

「え?マークがあると何か意味があるんすか」


「このお水の女の子専用レンタルドレスっていうのは日本では俺たちが初めて立ち上げた事業なんだよ。つまり、この界隈ではレンタルドレス=俺たちの店って図式がある程度はできてると思うんだよね。で、睡蓮のマーク=レンタルドレスっていうのを視覚から客たちに印象付けたって訳だ。だから後発店は俺らの知名度に打ち勝つ何等かの手が必要になってくるんだけど、今回は、自分たちの島の店に限る事でそのハンデをクリアした形なんだろうねぇ。それにライバル店は、恐らくだけど、他の組のお店にはレンタルしないというか、できないと思うんだよね」

「そうかもしれないっす」


「こういう事業は資金力が物を言うから、資金力のない俺たちは最初っから隙間産業の様にして、事業展開するしかないんだ。だから、ライバルが出てくるのは前もって想像してたし、誰の邪魔にもならない土俵でだけ勝負しようと思ってたので、心配はいらないよ。それどころか、その組の集金方法は最高だね!良い事を教えてもらったよ」

「兄さん・・・・」

「おっちゃん・・・・」


「実は服の数も増えて来てるし、そろそろレンタルドレス専用ビルを手に入れて、借りる方が店に来る様にしたいなって思ってた所でもあるんだよ。そうしたらそのライバル店と商売の形も違ってくるから棲み分けがしやすくなる気がするんだ」

「え?配達はなくなるってことっすか?」

「いや、配達はするけど、それとは別に店に来てもらうっていうのもありかなって思ってるんだ。例えばだけど、銀座のビルで、ヘアーサロンやメイクアップアーティストにも同じビルで働いて貰うんだ。所謂テナントだな。で、その場で選んだドレスを着て、そのまま同じ建物内でヘアーとメイクを済ませられるとなったら魅力的じゃないか?」

「俺には分からないっす。でも、一か所で全部できたら女の子たちも出勤に掛ける時間を短縮できる気がするっす」


「どっちにしても、今はそのライバル店の事は気にしなくていいから。あ、ただ、家の客の中に、その組の顧客がいる様ならピックアップしてくれないか?そういう娘たちは、俺たちの店からそっちへ乗り換える事になるだろうから、どれくらい売り上げが減るのか当たりだけでもつけておきたいんだ」

「分かったっす」と宮地は頷いてくれたが、まだ心配な様で、表情はすぐれない様だった。


「まぁ、とにかく今は、今日渡さなきゃいけない服を配達するのが先だな」

 宮地は声を出さず頷いた。

 そして、俺はこっちを心配そうに見ている子和弘の頭をワシワシと撫でまわし、「お前も心配するな。この事については母ちゃんとも前から話し合ってたから、大丈夫だ」と言って安心させようとしたが、子和弘の顔色は幾分暗い。まぁ、心配するなと言っても、心配してしまうんだろうなぁ。しょうがない。

 俺と宮地は、今日の服を取り出し、宮地の運転する車に飛び乗った。



 ビル購入については、かなり前から考えていたんだ。

 だからこの前、母ちゃんにも「銀座に中古でいいので5階建てくらいの小さなビルが欲しいんだけど、手に入らないかなぁ」と聞いてみた。

「え?」と俺が作った豆腐と鶏の胸肉のスープを楽しんでいた母ちゃんが、思わずスプーンを器に戻してこっちを見た。


「かっちゃん。夜の女には銀行は金を貸してくれないよ。カードローンでも上限の金額は低いし・・・・」

「でも、母ちゃんはレンタルドレスの事業をしてるから銀行から借りられないかなぁ・・・・」

「かっちゃん、私は良く知らないけど、銀行とかは担保がいるんじゃないの?」

「そうだね。担保ないし・・・・銀行では難しいのかぁ・・・・。買うとなると税金とかもあるしなぁ」

「え?銀座のビルを買うつもりなの?それとも借りるの?」

「買うつもりだったんだけど・・・・」

「何でビルが必要なの?レンタルドレスの事で必要なの?」

「うん・・・・」と言って、俺はここ数日温めていた考えを母ちゃんに披露した。


 事の始めは『そう言えば、そろそろバブルの走りだな~』なんて思った事で、中古物件でいいから安い内にアパートを一つ購入して、事務所にすることを考えたし、できればアパートをビルごと買い取りたいと思いはじめた。ネイルアートがまだないこの時代に、ネイルを根付かせれば、レンタルドレスにとっても大きな商機になるなかもしれない。そのアイデアが事業拡大の夢を後押しする。

 ビル購入等の高いハードルがあり、実現性はかなり低いが、一度思いついた考えは頭の中にシツコク残った。


 これから起こるであろうバブルという時期を考えると、あながち悪いアイデアとも言えない。まぁ、この世界でもバブルが起きるならだけどな・・・・。


 どっちにしてもビルを購入するなら、まずは資金を貯めないとなんだが、薄利多売なレンタルドレスだと自前での資金調達は望めない。

 貯める事ができたとしても、その前にバブルが来て、はじけてしまう。

 はじけて安くなった物件を購入というのも有りなんだが、バブルで懐の温かくなったホステスたちがレンタルドレスで落としてくれるであろう金額を考えると、バブルの前に購入したいものだ。


 案は案として、実現するためにどうすればいいか、それに頭を悩ませていたところに、宮地の同業他社開業についての報告があったのだ。

 俺たちの事業を真似っこしてるだけみたいなので、ライバル店が俺たちより先にレンタルドレスビルみたいなものを立ち上げるという可能性は低いと見ている。

 ビルで営業するなら、やはり日本で最初のレンタルドレスビルにして、スタートダッシュで知名度を勝ち取るのが望ましい。


 自社ビルの最上階に自宅を設け、下の階にはレンタルドレス、他の階には美容室、ネイルサロン、最終的には売れない女の子のコンサルなんてのもいいかもしれない。

 まずは古くてもいいからビルを丸々1軒購入することだな。

 このままチマチマ小銭を稼いでも、子和弘と母ちゃんのこれからが楽になる訳じゃない。どこかで博打をうって事業を拡大しなければ、ずっとあくせくして働かなければならない。


 そんな事を説明したら母ちゃんが夜食のスープを全部飲み干し、「ローンじゃなくてお客さんから借金するって手もあるかも・・・・」と呟いた。

 一人心当たりがあるらしく、少し時間はかかるかもしれないけど、待ってて欲しいとのことだ。

 果たして俺たちはパトロンを得る事ができるのか・・・・母ちゃんのお手並み拝見!だ。


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