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 宮地の運転技術は普通だったので、雇い入れる事にした。

「ただいま」宮地と碧さんと別れて、アパートに帰宅した。

「おかえり~」と母ちゃんが寝ている子和弘が起きない様に小声で話しながら、キッチンの前の廊下に出てきた。

 小さな声で話していても、すぐ横で話していたら子和弘が起きてしまうかもしれないからだ。キッチンのある廊下と部屋の間には、薄い扉が1枚あるから、小声なら子和弘も起きないだろう。

 母ちゃんが部屋から持って来てくれた座布団を廊下に敷いて、缶ビールを開けながらじっくり話す体勢になった。


「宮地、どうだった?雇うの?」

「うん、雇う事にした」

「お金と女の子には汚いかもしれないけど、愛想が良いから使いやすいと思うよ」

「ぷぷぷ。女の子に汚いのはいいとしても、お金に汚いのはダメだなぁ。集金は俺がしないとだなぁ」

「そうだね。ちゃんとした集金システムが出来るまではかっちゃんにお金周りは管理してもらわないとだね」

「わかった」


「それで、宮地をどう使うの?」

「まず、服の渡しと回収を担当してもらう事になると思うんだけど、最近は新宿の方にも営業を広げ始めたので、銀座と新宿でどうやって担当を分けるか悩んでるんだ。運転は宮地しか出来ないからね」

「今って、銀座の東側の店が月曜と木曜で、西側が火曜と金曜だったけ?」

「うん。だから、新宿は水曜と土曜とかになりそうだな」


 今までは俺1人が客の働く店が開店する前に配達していた。しかも客の女の子その人がいる状態で服を持って行かないといけなかったので、配達に適した時間は短い。

 ただ渡すだけじゃなくて、返してもらう服に破損がないかどうかもその場で調べなくちゃいけないし、月1で集金も発生する。その度に、領収書を発行しなければならない。

 結構チマチマやらないといけない事があるし、買い取りもその合間を縫ってやっている状態なんだ。


「宮地に車を運転してもらえば、先にかっちゃんを銀座に降ろしてもらい、そのまま宮地は新宿に行けるのでは?」

「確かにそうなんだけど、服の数にもよるんだよね。『レモンツリー』は、客が15人もいるから、結構重たいんだよね」

 『レモンツリー』というクラブは大型店舗でホステスの数も多い。全部の都道府県出身のホステスがいるという事で名を売って来た店なのだ。クラブというよりはキャバレーかな。その店の女の子全員が客ではないけれど、1店舗で15人も客がいると、どうしてもその店には重きを置く様になる。そして取り扱う服の量も半端ない。


「ああ、服っていっても数があったら結構重いよね。皺も避けたいしね」

「そうなんだよ。だから、その辺は客の数とその店の位置なんかを一度地図に落として、どこを何曜日にするか考えてみるよ。店によって定休日も違うしね」

「その辺はかっちゃんに任せるよ」

「分かった」


「最近は新宿の注文も増えて来てるの?」

「買い取りの方はかなり落ち着いて来たけど、借りたいって人は増えてるよ」

「新宿と銀座じゃあ、着る服も全然違うものね。管理が大変だよね~」


 銀座のクラブの女の子たちは控えめなスーツやドレスなどが戦闘服となるが、新宿辺りのキャバクラ嬢とかになると、フィギアスケートの衣装の様な派手な服が多くなる。

 銀座では着物はママとチイママしか着てはいけない店や、月に2日くらい全員が着物を着る日なんてのを設けている店もある。

 キャバクラの方は肩や腕を出す服でないといけないとか、スカートはミニでフレアでないといけないなど、店によってドレスコードはマチマチだ。


 先月あたりから、銀座のホステス繋がりで、新宿で働いているキャバ嬢から服を買い取って欲しいという要望が数件入った。

 一人から買い取りすると、他の女の子たちからも買い取り依頼が入って来た。

 だから最近ではキャバ嬢たちのお古の服も結構購入していて、営業は徐々に新宿まで手を広げてる状態だ。もちろん、もっと新宿での取引も活発化させたいと思ってるんだ。その為にも車と運転手は必要だ。


 店によっては月1、または2か月に1回の割合で新しい洋服を購入させる店なんてのもあるが、こういう店は女の子たちが稼いだ金の一部を回収する目的で、仕立て業者を指定してドレスを発注させているのだ。

 つまり、女の子たちの発注1件につき仕立て業者から幾ら幾らといった具合に、キックバックを受け取っているのだ。


 こういう店の女の子はレンタルドレスと関係ないと思われるかもしれないが、実際には大金を払ってドレスを作る前に、どのデザイン、どの色、どんな種類の生地が自分に合うのか知る為に役立てている。女の子たちにとって半ば強制されているその高額な投資から最大限の利益を得るために、つまりは自分を美しく見せるドレスを手に入れる為にレンタルドレスを上手く活用しているという流れだ。


 素人考えだと、わざわざお金を払ってドレスをレンタルしなくても、ブティック等でドレスを試着した方が無料で済むのではないかという発想になるが、煌々と電気や陽の光が降り注ぐブティック店内で試着するのと、女の子たちが働く薄暗い店の中ではドレスの与える印象も違うので、店の中で着用し感じを掴めるレンタルドレスは女の子にとってもありがたいのだ。


 新宿での営業は事業拡大の好機だと思っている。新宿で目処が立ったら、次は別の場所でも事業展開できるし、良いモデルケースになるはずだ。


「かっちゃん、宮地を入れての営業体制が固まって来たら、また状況を説明してくれる?」

「分かったよ」

 俺も母ちゃんも飲み終わった空の缶ビールを潰してゴミ箱に入れ、それぞれの座布団を持って部屋に入った。

 子和弘を挟んで川の字になって寝るのだ。


「「おやすみなさい」」子和弘が起きない様に小声で挨拶して、その日は眠りについた。


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