5月7日 聖徳高校
GW9日目。俺は、昨日のことを思い出しながら、母と祖母の家に向かっていた。
ー5月6日ー
瀬戸「健太郎さ、この病室よく見てくれへん。変わったとこあるのわかる?」
俺 「うん?変わったとこ?」
瀬戸「そう」
そう言われながら、病室内の全体を見渡した。病室には、4つのベットが置かれている。どのベットにも患者さんがいた。窓側の外には、少し枯れている桜の木があった。瀬戸のベットは、窓側で桜の木がよく見えるところにあった。
俺 「なんも、変わったとこなくない?」
瀬戸「ちゃんと見てみて」
俺 「うーん?」
瀬戸「なんか、あった?」
俺 「いや、わからん」
瀬戸「うん、頭おかしい」
私は、もう一度周りを見渡したが、特に変わったことは何もない。"ななー"。瀬戸が声をかけるように、前のベットからショートカットの女性が歩いてきた。下田那奈だった。下田は、私が通う聖徳高校の同じクラスにいる女の子だ。
下田「定本君、こんにちは」
俺 「下田さん?」
下田「ひさしぶりー」
下田は、満面の笑みを浮かべていた。
俺 「何してんの?」
瀬戸「そういうこと、いきなり聞かないの。女の子に向かって」
俺 「いやいや、いきなり下田さんおったら、ビビるやろ」
下田「明日花、いいよ。気にしてないし。実は、GW終わりまで入院するねん」
俺 「そうなんや。だから、学校も休んでたんや」
GW前に、下田の姿がなかったのは、そういうことだったのか。
下田「そうそう」
俺 「なんで、下田さんと瀬戸が知り合いなん?」
下田「明日花が話かけてくれてん」
瀬戸「もう、仲良くなったよね」
下田「ねぇー。仲良し、仲良し。定本君、私のこと字汚いとか言ってたよね」
確かに、二人の相性は、良さそうだった。
瀬戸「言ったれ。言ったれ」
俺 「まぁまぁ。気にせんとこ」
下田「いやいや、気にするでしょ。天然とかも言ってたよね」
俺 「天然は、いい言葉やと思うで。仲良くいこう」
下田「悪意感じるけど・・」
俺は、下田の口撃に戸惑っていた。
瀬戸「那奈は、クラスでどんな感じなん?」
俺 「どんな感じ?」
下田「‥‥」
じっと俺の方を見てきた。
俺 「いっつも友だちとおるやんな。山川さんと」
下田「うん、楓とおることが多いな」
瀬戸「那奈は、友だち多いんや」
下田「いや、多くないよ。たぶん、定本くんの方が多いと思う」
俺 「いやいや、おらんよ」
瀬戸「健のクラスで、八代南の子おらんの?」
八代南とは、俺や瀬戸が通っていた中学校だ。私たちが住む佐田市には、八代東、八代西、八代南、八代北、そして大森という5つの中学校がある。
俺 「八代南は‥‥‥」
下田「誰がおるやろ?」
俺 「あっ、藤平とか佐々木」
瀬戸「佐々木って、真名ちゃん?」
俺 「うん」
瀬戸「久しぶりに聞いたな。元気してる?」
佐々木は、おとなしい性格だったが、明日花とは、よく話をしていた。
俺 「佐々木って、誰とおる?」
下田「佐々木さんは、一人でいるイメージ」
俺 「あぁ、確かに」
瀬戸「那奈は、どこの中学校?」
瀬戸は、腕を気にしている様だった。
下田「私は、八代北だよ」
瀬戸「八代北って、誰が有名なん?」
俺 「有名って‥。芸能人やん笑」
下田「誰やろ?‥‥」
俺は、一人の名前を思いついた。
俺 「沢田、八代北ちゃう?」
下田「沢田くんかぁ。確かに、そうやね。明日花、知ってる?」
瀬戸「全然知らない」
下田「そうよね」
沢田とは、私たちのクラスにいるやつだ。
下田「篠木さんは?」
瀬戸「聞いたことある。陸上部の子ちゃう?」
下田「うん。中学まで陸上部やったよ」
私 「BIG3やん」
"BIG3"
瀬戸「何、BIG3って?」
俺 「野球部で崇められてる女の子」
瀬戸「真波も入ってるやつかぁ」
俺 「それ。高田さん、篠木さん、矢田さんがBIG3」
下田「そうなんや」
三人で話していると、下田さんが検査の準備ができたことを看護師が知らせにきた。
下田「じゃあ、検査いってくる」
瀬戸「わかった。また、あとで」
下田「定本くん、ありがとう」
俺 「うん」
下田は、瀬戸のベットの近くにあるイスから立ち上がり、看護師の方へとゆっくりと歩いていった。そして、私たちの方に手をふりながら病室を後にした。