5月4日 才能論
GW6日目。少しずつ、1日の出来事は、忘れることができていた。みんながなんて言うからは、わからないが。
ー5月1日ー
俺たちは、試合を見ながら二人でヒソヒソと話をしていた。
俺 「まだ、働いてないからそういう実感わかへんねんな」
遠山「将来、やってみたいこととかない?」
チェンジになったが、代打出てた遠山は、そのままベンチに引っ込むことになった。
俺 「看護の仕事とか興味あるけど、やってみたいとかじゃないねんな」
遠山「そうなんや。俺は、大手の会社入って、金稼いで、タワーマンション住むで」
遠山は、どこまででも野望が高い奴だ。
俺 「東京のタワマン、高くない?」
遠山「確かにな」
俺 「てか、起業って難しいん?」
遠山「自分がやるわけじゃないからわかへんど、しんどいらしいよ。ベンチャー企業ってわかる?」
ビジネス用語なのか?
俺 「わからへん。なんなんそれ?」
遠山「ベンチャー企業って、一般的に、新しい事業に取り組む企業のことを指すらしいねん。当然、新しい事業やから、初めてのことが多くて、休む暇がないらしい」
なんでも知っている遠山がすごく見える。
俺 「そうなんや」
遠山「健太郎は、将来やりたいことをやって生活するタイプ?それとも、堅実に生活するタイプ?」
似たようなことを、姉が言っていたのを思い出した。
俺 「うーん。やりたいことやるタイプかな。やりたいと思うことは、少ないかもしれへんけどそれでも、少ない何かから感じ取れたらって思うかな」
まだ、自分のやりたいことが見つからないことは、もどかしかった。
遠山「難しいよね、やりたいことって」
俺 「でも、陵は、大企業で働くんやろ?」
遠山「まぁ、タワマンに住みたいからな」
俺 「やっぱり、仕事も才能なんかな?」
ずっと、知りたかったことだ。
遠山「才能かな」
俺 「才能やったら、将来頑張れるか不安やな」
遠山「健太郎は、ちゃんと努力できるし、出世しそうやけどな」
そんなことはないだろう。
俺 「才能論と努力論って永遠のテーマよな」
遠山「それは、思うな。健太郎は、どっち?」
俺 「俺は、才能の方かな」
これは、昔から思っていたことだ。
遠山「なんで?」
俺は、マウンドで投げる中山のピッチングを見ながら話した。
俺 「努力しても、ある一定のレベルまでしかいけへんっていうのが持論やねん。その先は、才能で全て決まる。だって、橋本とか侑なんて、たいして努力してないのに、めっちゃ野球上手いやん。努力論で説明できへんくなない?」
才能と努力を聖徳野球部の橋本や侑大で説明してみた。
遠山「橋本は、侑より努力せんよな。でも、あんなに上手いの不思議やな。要領がいいんかな?」
俺 「要領がいいのは、侑の方ちゃう。橋本は、野球だけやん。でも、侑は、野球も頭もいいやん」
遠山「でも、橋本も勉強したら意外とできたりするかもしれんで?」
遠山の言葉に納得することはできなかった。
俺 「うーん。それは、否定できへんな笑笑。侑とか橋本みてるとさ、なんでこんな差あるんかなってめっちゃ考えるな。才能でかたづけてしまえば、それで楽になれるんのに。一部の人は、その差を努力でうめなさい的な考えで言ってくるくない?」
さっきの言葉は、監督や母親のことだ。
遠山「ほんまな。でも、それが世の中なんやろな。平等じゃないっていうの感じるよな」
俺 「確かに。平等じゃないっていうのを高校生で感じるのがつらいよ」
遠山「まぁ、頑張るしかないってことなんかな」
俺 「結局、そこにいくね」
"頑張る"というのが俺たちの答えだった。
遠山「頑張ろか」
俺 「うん。話変わるけど、明日、誰かに遠山のこと聞かれたらなんて言ったらいい?」
チェンジになったため、みんなが戻ってきた。
遠山「適当に言ってくれたらいいよ」
俺 「適当って‥‥。難しいな」
遠山「大丈夫やろ」
俺 「俺が知ってたら、誰かなんで止めへんのとかいいそうやん?」
遠山「それは、言いそう笑」
遠山は、笑っていた。
俺 「まじで、怒られたりしたらキレるで」
遠山「まぁ、気にすんなって」
俺 「‥‥」
遠山「あと、いろいろトラップしかけといたから」
言っている意味がわからなかった。
俺 「えっ‥‥。トラップって何?」
遠山「いずれ、わかるよ。試合、終わったみたいやから行くよ」
私「あっ、ああ。また、連絡していい?」
遠山「うん、夏大見にいくから。それまで、頑張ってな」
遠山は、俺にそう言って、いつものベンチ前で声を出しに行った。




