6月26日 嘘
帰る準備をし終えた八幡は、侑大と何かを話しているみたいだった。俺は、二人の話が終わるのを待っていた。あの打席。ゆっくりと聞き耳を立てていた。どうやら、二人は"聖淮戦"の話をしていた。二人が話しているのは、7回裏、1死1.2塁の場面みたいだ。八幡としては、打席に入った侑大がバットを振らずに帰ってきたのが気がかりだったみたいだ。たしか、俺はあの回の打席三振に終わってしまったのだが、振り逃げとなり出塁することができたのだ。そして、八幡の打席を2塁から見ていたことに気がついた。
八幡「なんか意味があったのか?」
侑大「いや、別に」
侑大は、何も知らないかのように答える。
八幡「なかったのかよ」
侑大「ないないない!」
手を横にやりながら答えた。
八幡「そっかぁ」
侑大「なんか意図があると思ってた?」
あの侑大の打席、違和感を覚えたのは俺も同じだった。
八幡「ああ。俺にボール見させるために振らなかったのかと思ったよ」
侑大「ストライクゾーン投げられたら終わりだろ」
その通りだ。いくら打っていない侑大とはいえ、1番バッターにそこまでできないだろう。
八幡「じゃあ、なんで振らなかったんだよ?」
侑大「うーん。振れなかったんだよ」
帰る準備を終えていた八幡は、真相を知るためかなかなか帰ろうとしなかった。
八幡「どういうこと?」
侑大「狙い球と違ったんだよ」
狙い球と違うか。たしかに、それは一理ある。
八幡「なるほど、そういうことか」
侑大「うん、そうなのよ」
この時、侑大がホントのことを言っているとは到底思えなかった。長年一緒にいる侑大は、嘘をつく時と本当のことを言っている時と明らかに違う。今は、嘘をついている時のような表情だった。
俺 「侑大、そろそろ帰ろうぜ」
侑大「おお、わかった」
なんとなく話を遮った。このまま聞いていてもよかったけど、侑大は断れそうになかった。
俺 「八幡、また明日だな」
八幡「そうだな。ちゃんと朝練来いよ」
俺 「任せろ」
いつものように、俺たちは笑い合っていた。笑いながら、立ち上がり侑大を待った。
侑大「じゃあ、俺も行くわ」
八幡「おお!また明日」
なぜ、侑大が嘘をついたのかはわからない。それでも、俺たちはこれからに向けて歩き出していた。




