6月21日 落球
侑大は、なんだか思い出に浸っているように感じた。横でグローブに何度もボールを入れるが、なかなか気にしていないみたいだった。
侑大「あの時のエラー、覚えてるか?」
俺 「ああ。あのやらかしてしまったやつだろ?」
すぐにわかった。これが、俺たちのコンビネーションだ。
侑大「そうそう。あれが、時々、蘇ってくるんだよなぁ」
俺 「んー、わかるな」
侑大「だよな」
俺たちが話していたのは、ずいぶん昔のことだった。
俺 「たしか、小学校の県大会だよな」
侑大「うん。ツーアウトランナー三塁かな」
俺 「あのフライだよな?」
侑大「そうなんだよなー」
あのフライ。俺たちにとっては、ネタの一個だった。
俺 「あれって、同点じゃなかったっけ?」
侑大「同点だったよ」
俺 「あそこで、お前が取ってれば延長戦?」
小学生で、サヨナラ負けはあまり経験しない貴重な機会だった。
侑大「俺は、取ったと思ったんだけどな」
俺 「なんで、落としたの?」
侑大「たぶん、グローブの使い方をミスったと思うんだよね」
俺もあの時、侑大の方に向かっていただけに、落とした時には、なんとも言えない気持ちだった。
俺 「あの後、周りから言われたよな」
侑大「今でも、イジられるしな」
俺 「でも、いい経験だったんじゃないの?」
侑大「今となればな」
侑大にとっては、"今となれば"という言葉はそのものだったと思う。
俺 「当時は、落ち込んだのか?」
侑大「当たり前だろ、サヨナラ負けだからな」
俺 「あれ、サヨナラかぁ」
侑大「うん、良い思い出だよ」
顔と話した内容が噛み合っていないように感じた。
俺 「あの時と比べたらな」
侑大「俺たちは、だいぶ成長してるよ」
俺 「そうだな。俺は、130も出るし」
俺たち恒例のノリだった。
侑大「スピードだけはヤバいな」
俺 「スピードだけじゃねぇよ」
すぐさまツッコミを入れる。
侑大「そうか?」
俺 「そうだよ」
侑大「俺のバッティングの方が成長してるよ」
侑大のバッティングは成長していない様に感じる。昔からよく打っていたし。
俺 「まぁ、それもそうだな」
侑大「だろ?」
俺たち二人がこうして話せるのも後少しなんだと思うと寂しさも感じていた。




