5月3日 起業
GW5日目。昨日に続き、また、頭の中で同じことを思い出していた。このままいくと、明日も考えているような気がしてならなかった。
ー5月1日ー
1試合目が終わると、バットを持ってミーティングの中に加わった。一試合目は、先発の橘、二番手の八幡、三番手の竹田がそれぞれ打ち込まれ大差をつけられ負けてしまった。ミーティングでは、バッテリーの配球、バッターの三振の多さを指摘された。二試合目は、13時からと告げられ、ミーティングが終了した。先ほど、話しをしていた遠山は、何事もなかったかのように八幡や川中と話していた。
俺は、その遠山の後ろ姿を見ながら、昼食場所へ行った。スマホを見ると、瀬戸からのLINEに返信していないことに気づいた。俺たちは、1時間休暇の後、二試合目が始まった。
二試合目は、葛西と向井が二年生バッテリーを組んだ。俺や遠山など控えメンバーがレギュラーメンバーと交代でベンチに入った。試合は、葛西が江陵打線を七回三失点で抑えた。葛西の好投に応えたい打線は、八回に二番松本からの攻撃を迎えた。
松本は、四球目を打って三塁ゴロだった。三番大下のところで監督が立ち上がって選手交代を告げた。代打は、遠山だった。おそらく、これが最後の打席になるかもしれないと思ってみているのは、俺と監督だけだろう。
遠山は、新チームになってから頭角を表し、秋の大会では、主に五番左翼で出場することが多かった。三月の春の大会までは、スタメンででることが多かったが、そこからあまり出なくなった謎をようやく理解することができた。
一球目は、外角低めのボール。二球目は、一球目と同じくらいのところでボール。甘く入ってきた三球目をとらえた。打球は左翼のはるか上を超えてホームランになった。ランナーがいなかったこともあり一点しかはいらなかったが、チームは大いに盛り上がっていた。遠山は、九回表の守備にはつかず、二年生の近藤と交代した。交代した遠山は、ベンチの奥にいる俺のそばに来た。
遠山「やっぱり、ホームランはいいなぁ」
俺 「自慢ですか笑?」
俺たちは、笑いあった。
遠山「はは。足は、どう?」
俺 「まぁ、悪くはないかな」
遠山「よかった。夏のレギュラーメンバーに怪我されたら困るからな」
ホントに陵は、いい奴だ。
俺 「レギュラーって。嫌味か」
照れて本当のことは言えなかった。
遠山「レギュラーとるんやろ?」
俺 「おぉ」
遠山は、俺の方を見ていた。
遠山「健太郎がレギュラーとったら心く向こうにいける」
俺 「絶対嘘やろ。引越しは、仕事の関係?」
俺たちは、ベンチ奥に下がり、小声で話を続けた。
遠山「うん、お父さんが東京で起業する関係で、引っ越すことになった」
俺 「お父さん起業するんや」
遠山「今の仕事辞めてまでやから、すごいよね」
俺 「遠山は、反対じゃないの?」
遠山「単身赴任っていう選択もあったけど、お父さん応援したい気持ちが純粋に強くて」
俺だったら、その選択ができたのだろうか?
俺 「そっか」
遠山「夏大終わってからも考えたけど、お父さんがGW中に行くってなったから、それでいいかなっと思って区切りつけてん」
俺 「起業ってどんな感じなん?」
遠山「詳しいことは、わからんけどIT関係の事業するらいしい。東京に何人か一緒にする人がいて、その人たちと始めるらしい」
俺「起業か。社会人なったら自分の会社とか憧れるんやろな」
遠山「そうみたいやな。夜遅くまで、お父さん会議してるみたいやったし」
試合そっちのけで、遠山のと話すことに夢中になっていた。