5月13日 田中優聖
今日は、雨で、グラウンドが使えない日。俺たちは、苛立ちを隠しながら、坂道ダッシュ15本が行われていた。校門から自転車置き場までは、上り坂になっている。俺たちは、そこで走っている。上り坂では、私たちの体にとても負荷がかかっている。グランドで走っている時と同じ距離を上り坂で走ると、体にかかる負荷が変わってくる。下校する生徒にもみられるのは、鬱陶しかった。
ダッシュ7本目ぐらいから、徐々に俺の体は疲れてきた。一生懸命、自分の体を前に進めようとするが、なかなか前に進まない。チームメイトの侑大、田畑、佐伯らも息が上がっており、声を出す余裕すらなくなった。
すると、キャプテンの川中、副キャプテンの八幡から怒鳴る声が聞こえた。「声出せぇや!!」。練習についていくだけでいっぱいの1年生は、返事をするのがやっとだった。
傾斜を使ったダッシュは、心肺機能の向上をねらってトレーニング。苦しくなると少しずつ顎が上がりやすくなることが多い。そのため、体力のない1年生のほとんどは、顎が上がっていた状態になっていた。そんな1年生の中で、ただ一人余裕な様子を見せていたのが田中優聖だった。
田中優聖は、俺の友だちである田中優衣の弟だった。優衣からは、弟が入部することを聞かされており、サポートをお願いされていた。優聖は、小学校から硬式野球のチームに入っており、2学年下だったが一緒に野球をしたことはなかった。ポジションは、ショートやセカンド。俺とポジションが被っていた。優聖は、もともと、聖徳高校に進学する予定はなかった。というのも、江陵高校や道和高校からスカウトがきており、優衣からもスカウトがきたとこに進学する可能性が高いことを聞いてたからだ。
そんな1年生とは対照的に、3年生は、体力がある者が多かった。特に、エース橘やショートの八幡は、余裕で話しながらダッシュを行っていた。その後もダッシュは続き、最後の15本目を終了した。
私は、完全に足が治ったわけではなかったが、なんとか走り終えることができた。走っている途中は、何度も遠山の顔が思い浮かんだ。アイツは、俺がレギュラーで夏の大会に出ることを望んでいた。5月末には、強豪校との練習試合があり、そこで結果を出すしかなかった。
ダッシュを終えた後は、休憩を挟んで、ウエイトトレーニングが待っていた。決して万全の体調ではなかったが、夏を見据えて必死に顔をあげる俺だった。