4月29日 定本健太郎
「劣ってるなんて、自分で思いたくない」
これは、あるシンガーソングライターが書いた歌詞の一節である。この歌詞は、私のお気に入りで、何か嫌なことがあるたびに、思い出すようにしていた。
私の人生は、決して順風満帆ではない。まぁ、順風満帆な人生を送っている人などいないのだろうけど。
そんなことを考えながら、今日も自転車に乗って待ち合わせ場所を目指した。待ち合わせ場所には、小学校からの友達である山里侑大が待っていた。私は、自転車を止めて待っている侑を見ながら、そのまま通り過ごした。置いていかれた侑は、急いで自転車をこいで来た。自転車を漕いでいる私と並んだ際に声をかけてきた。
私「うぃー」
侑「ちゃんと、挨拶せぇや」
私「おはようございます」
侑「おはよう」
この独特のノリで私と侑は、いつも過ごしていた。私たちは、時々待ち合わせをして一緒に学校に行くことがあった。
私「今日は、打てそう?」
侑「どんなピッチャーかによるんちゃう?」
私「確かにねー。てか眠い。土曜日の練習試合はきついな」
侑「ホンマな、明日も江陵やろ。遠いし、強いし、やる気うせるな」
私と侑は、こうした何気ない会話をしながら、自転車で私たちが通う高校に向かっているのだった。今日は、佐田市にある多田高等学校との練習試合がある。
今日は、GW初日の土曜日。世間は、帰省や旅行など休みを満喫していることだろう。私の家族は、どうしているのだろうか?おそらく、それぞれGWを楽しく過ごしていることだろう。
母は、先ほど、私と同じ時間ぐらいに起きて、私の弁当を作った。私が出発した後は、一休みするのだろう。朝ご飯の時に父とどこかに出かけることを話していたのを聞いていた。
父は、朝のプロ野球ニュースを見ながら、今日どこに行くのか新聞を読みながら考えているのではないか。
長女は、東京で働く社会人一年目である。昨日まで仕事だったこともあり、まだ寝ている頃だろう。おそらく、今日から休みだろうから、明後日ぐらいに帰省するのではないか。
次女は、京都の大学に通っている。バスケのサークルやバイトで忙しいことをよく耳にしていた。
家族が今日、何してるのかなどを考えてると、校門にたどりついてしまった。「ついてしまった」という表現をすると、まるでついてほしくなかった様に感じるかもしれない。実際のところ、試合などやってる場合ではなく、疲労困憊の体を、休めたいというのが正直なところだった。
校門近くの自転車置き場に、自転車をとめ、バックを背負いグラウンドへ向かった。歩いていると、見慣れた人が前を歩いてる。178㎝という恵まれた身長に黒色の手さげ袋。後ろの足音に気づいたようだ。
涼太 「うぃー」
私 「うぃー」
涼太 「おぃー」
私 「朝から元気やね」
侑大に続き、こいつもこの挨拶の仕方だった。どうやら、ここの野球部には、おはようという言葉がないようだ。そんなことを考えながら、涼太と俺は挨拶をする。涼太は、我が聖徳野球部の三番バッターである。走攻守の全てに秀でており、聖徳野球部で最も上手い選手といえるだろう。涼太と話しをしながら、グラウンド近くの部室まで歩いた。部室の扉を開けると、橘、飯田、八幡、川中の4人がいて、楽しそうに話しをしていた。
橘 「マコ、漫画持ってきた?」
八幡 「持ってきたで、4冊もってきわ」
橘 「ありがとう、楽しみにしててん。」
どうやら、今人気のアクション漫画の貸し借りが行われているようだ。