6.慰謝料を投資して儲けたら、第1王子と結婚へ
あれから3年が過ぎた。
今回の騒動はすでに幕引きされている。
調査の結果、クリスティーナへの嫌がらせというのはすべて、彼女の虚偽報告によるもので、アルフレッドたち信奉者の思い込みだったと判明。
クリスティーナは、虚偽報告とアルフレッド殿下を誑かした罪で修道院へ。
アルフレッドたちは、結果としてリリアンナに濡れ衣を着せたこと、さらに勘違いでユリアを罵倒し暴力をふるったことで1年間の謹慎。その後は各自、実家で一からやり直しを命じられたそうだ。
アルフレッドとリリアンナの婚約は破棄。
リリアンナは自らの計画通り、1年後に幼馴染の第一騎士団長フレディーと結婚した。
私は王家からそれなりの慰謝料をもらった。
それを元手に、領地内の鉱山事業に投資して一儲けもできたので、<実家で気楽なおひとり様生活>を満喫する予定だった。
それなのに私は今、レオナルド皇太子殿下の側妃として王都で暮らしている。
これには自分でもビックリだ。
私たちが交流を持ったのは、レオナルドから体を気遣う手紙が届いたのがきっかけだった。
2度ほどやり取りをしたのち、面倒くさくなった私は、慰謝料で一儲けした話を書いてレオナルドをドン引きさせ、王家との交流を断つ作戦に出た。
しかしそれが裏目に出た。
返事にはこう書いてあった。
「王家からの慰謝料を元手に、鉱山開発事業に投資して儲けが出たとは!
素晴らしいじゃないか。
私は国の財政を豊かにするのが趣味だからね、あちらこちら投資もしている。
だが、君の領地にある鉱山は手を出しそびれていた。
そんなに儲けは出ないと踏んでいたのだが…ユリア嬢は先見の明があるね。
これからはもっと君とお金の話がしたい。」
ん? お金の話?
愛とか恋とかじゃなくて? いや、もちろんそんな話をする気はないけれど。
でもね、レオナルドの外見は夢みるキラキラ王子様なのよ。
世俗のことなんて無頓着そうな容貌なのよ。
それなのに、お金儲けが趣味だと言い切ってしまうとは…。
人のことは言えませんけどね。
私も貯蓄や投資は好きだから、彼とは妙に話が合ってしまった。
そしてお互い情報を交わすため、手紙のやり取りは頻繁になった。
そのうち、何度かレオナルドが領地に遊びに来た。
1年が過ぎた頃からか、彼の何だか妙に熱いまなざしに気付き、私は焦った。
だって、ねえ…。
レオナルドとは気が合うけれど、相変わらず体の弱い私が王室なんて無理に決まっている。
子どもを産むという側妃の役割だってできない可能性が高い。
今のまま、お金の話で盛り上がれる友人関係でいいじゃない――そう思っていた私にレオナルドは「側にいてよ」と言った。
「ねえユリア。君は見た目と相反して、とてもしっかりしているし先見の明もある。貴族社会に馴染んでないからこそ物事の捉え方や発想が柔軟で、その言葉は傾聴に値する。君といると飽きないし話も合うし、本当に楽しいんだよ。」
そう言って、優しく髪をなでる。
「ユリアが望む<実家暮らし>や<おひとり様>ではないけれど、側妃の役割は少ないし、皇太子お墨付きの<王室でのんびりお気楽生活>っていうのはどうだい?」
と聞いてきた。
「何かそれ、騙されていません?」
疑いの目を向ける私に、レオナルドはにっこり笑った。
(その笑顔、すごく怪しいんだけど…)
それでも私は結局、側妃の道を選んだ。
家族の誰からも必要とされていない私を見つけ、大事にしてくれる相手ができたのだ。思い切って、飛び込んでみようと思った。
手元の資金で自活もありだったけど、自分の知らない世界で知見を深めるのも悪くないだろう。
私は後悔していない。
皇太子の側妃になったと聞いた時の、姉リリアンナの悔しそうな顔も見られた。
今更、ドレスや宝石を買いそろえようとする両親の焦った顔も拝めたし。
あぁ、私にワインをぶっかけた王子は他国に婿入りしたそうで、顔も見ていない。
***
王都で暮らし始めて半年。
皇太子妃のイザベラ様は、外交は得意だがお金に興味がない。
だからなのか、私の手をがっしり握ると、
「あなたの儲け話は聞いているわ。ユリアが来てくれて本当に良かった。私、お金の計算だけは苦手なのよ。財務関係のお手伝いは全部あなたに任せるわ。よろしくね」
と言って歓迎してくれた。
皇太子妃vs側妃ではなく、何だかビジネスパートナーのような立ち位置だ。
<王室でのんびりお気楽生活>は半分だけ本当だった。
実際は財務部の特別顧問役に任命されて、仕事もこなしている。
レオナルドは大博打を打つタイプだが、私は堅実に着々と儲けるタイプだから、意外と重宝がられている。
さすがに体調が悪い日は免除されるが、案外こき使ってくれる。
まあ、生活に張り合いができていいのだけれど…。
人生、本当に何が起きるかわからない。だから面白い。
私は今、幸せだ。
誤字報告をいただいたので、訂正しました。
本作は2021年に執筆、初投稿したものです。
当初はあまり読まれていなかったのですが、先日投稿した『私とアランの結婚』がきっかけで、多くの方の目に留まるようになりました。
お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
この場を借りて御礼申し上げます。
設定の甘さや、誤字など、至らぬ点も多々あるかと思います。
「読まなきゃよかった」「時間を無駄にした」と思われた方、申し訳ございません。これからも精進したいと思います。
折を見て、別作品も投稿したいと考えております。
その時はまたお立ち寄りいただければ幸いです。