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5.王子が謝罪にやってきた

私は大きくため息をついた。


私だって病気になりたくてなったわけじゃない。

領地で自由に生きてきた? 

すぐ熱が出て寝込んでしまう私のどこが自由って言うのよ。


心の中で、さっき言えなかった文句を言う。


おかしいと思ったのよ。急に「卒業パーティーに来て」だなんて。

まあ、ホイホイ出向いた私も馬鹿だったけど。

でも少し嬉しかったのは事実だ。

体調が落ち着き、出歩けるようになったからこそ、パーティーにも出てみたいと思った。


それなのに生まれて初めてのパーティーで、付き合ってもいない相手にフラれて、罵られて、ワインをかけられ、突き飛ばされて、怪我してお終いってどうよ。

あ~早く家に帰りたい。面倒ごとはごめんだわ。

私は別に、リリアンナのように悲劇のヒロインになりたいわけではない。


そう言えば、リリアンナは幼馴染と結婚してハッピーエンドを迎えると言っていたっけ。

でも私に結婚は無理だろうな。体弱いし。

領地で家の手伝いでもしながらのんびり生きていけたらそれでいいや。

実家暮らしのおひとり様って気楽だしね。


ふと慰謝料云々の話も思い出した。

王家からの慰謝料っていくらぐらいかしら。

期待しすぎて後でガッカリするのも嫌だから、気にしない方がいいか。

ほんの少しの額だとしても、投資して増やすのもアリよね。

私はずっと病気がちで引きこもっていたから、宝石やドレスに用はない。

いずれ両親は先にあの世に旅立つのだし、跡を継ぐのは人のいい叔父か甥に任せればいい。

おひとり様の私に必要なのは、現金であり貯蓄だ。


なんて現実的なことを考えていたら、少し気が晴れた。


その時、ドアをノックする音がした。

レオナルド皇太子殿下に伴われ、アルフレッド殿下とその仲間たちが入ってきた。

迎える私はベッドの上で上半身を起こすので手一杯で、何だか落ち着かない。


「申し訳ございません。このような姿で…」

「いや、こちらこそ押し掛けて済まない。彼らが一刻も早くユリア嬢に謝罪したいそうだから、聞いてやってくれないか」

レオナルドの言葉に私はこくりと頷いた。


ぐるぐる巻きの包帯や、ベッドから身を起こすのがやっとの私を見て、彼らは居心地悪そうにしている。

そんな中、覚悟を決めてアルフレッドが一歩前へ進み出た。

私に対する申し訳ない気持ち、やってしまったことへの後悔、けじめをつけなければという意志、それでも何とか状況を打破したい足掻き、それらを綯い交ぜた複雑な表情だった。


彼は一度深呼吸すると、私としっかり目を合わせた。

「ユリア・クロイチェル嬢、人違いで怪我をさせてしまい本当に申し訳なかった。こうしてちゃんと顔を見れば、リリアンナではないとすぐにわかるのに…数々の暴言暴力について心から謝罪したい。本当にすまなかった」

そう言って頭を下げた。

取り巻きたちも一斉に頭を下げる。


(え?!王家やお坊ちゃんたちに頭を下げさせるとかダメなやつでしょ。)

私は慌てて言葉を探す。

「あ、あの、えっと、頭をあげて下さい。私もあの場ではっきりと名乗れば良かったのに言えなかったのです。私にも非があります。ですからどうぞお気になさらないで下さい。」

一気に言った。

今回は途中で遮られることなく、最後まで言うことができてホッとしたが、アルフレッドたちは頭を下げたまま動かない。


(えっと…これ以上どうしろと。いくら謝ってもらっても私の怪我が急に治るわけでもないし。まあ本人は気が済むだろうけど。あ、そっか。謝罪を受け入れた事実が欲しいのか)


「では、その、皆様からの謝罪は確かに受け取りました。」

仕方なく、引きつりそうな顔を我慢して何とか言う。

彼らはこの言葉でやっと頭をあげた。


(うわ―、めんどくさっ)

私は手首の包帯にそっと手をやった。

(まだ痛いけど…うん、痛み止めをもらえば何とかなるか。とにかく、さっさと終わらせて領地へ帰るに限るな。もう大丈夫だと微笑んでみせれば、彼らも安心するだろうか)

私は少し微笑んだ。


だがこれもまずかった。

潤んだ瞳で無理して微笑む姿が、より痛々しさを増したようだ。

おまけに、酷い目にあったにもかかわらず一切責めない私の姿に、他の人々の方が辛そうな表情で押し黙ってしまった。


(あ…しまった)

早く終わらせたい一心で、自分の外見がどう見られるかを計算に入れてなかった。

もしここにリリアンナがいたら、

「あらあら、あなたって本当に同情心を誘うのが上手ね。それに、あっさり許すなんて聖女様か何か? でもこれで慰謝料が増えるかもよ。良かったわね」

そう言って、にやりと笑うだろう。


私は心の中でまたため息をついた。

これ以上、王家や姉の事情に巻き込まれるのはごめんだ。

(とにかく早く帰りたい…)

ただただそう願った。

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