4.姉リリアンナに嵌められていた
夢から覚めると、側には姉リリアンナの姿があった。
人払いをしていたのか、他に人の姿はない。
「やっとお目覚めね。何かいる?」
「お水」
リリアンナは枕元のテーブルに置かれたコップに水を注ぎ、手渡してくれた。
私が飲み終えると、リリアンナは私に話しかけてきた。
「ユリア、あなたには迷惑をかけたわね」
「…もしかして、こうなること、最初から分かっていたんじゃないの?」
「ええ、もちろん。でも暴力をふるうのは想定外だったわ。まあ、そのおかげで悪いのは私ではなく、アルフレッド殿下側という流れになったから、結果としては大成功よね」
そう言ってリリアンナはくすりと笑う。
そうか、最初からそうなるように仕組んでいたのか。
リリアンナは知っていたのだ。
卒業パーティーで、自分がクリスティーナを虐めた悪女として人々から責められ、婚約破棄を言い渡されることを。
だからこの状況をひっくり返す手立てが必要だった。
そこで存在があまり知られていない私を先に会場入りさせた。
双子の妹である私が、リリアンナだと勘違いされるように。
狙い通り、アルフレッドたちの思い込みで、無関係の私がひどい目にあった。
結果、人々のアルフレッドへの心証は悪くなり、責められるべきは彼の側だという流れが出来上がった。
そういう流れにするために、リリアンナはわざと私を身代わりにしたというわけか。
「病弱なユリアの外見は儚げに見えるわ。そんなあなたが怪我を負った。その姿に誰もが同情していたわ。おかげで、あの場にいた人々はみんな私の味方になった。私は悪役令嬢から悲劇のヒロインになれたのよ。あなたにはお礼を言うべきかしらね」
リリアンナは意地悪そうな顔でふふんと笑った。
「何、その笑い…。悲劇のヒロインの顔じゃないわよ。私が大勢の中で罵倒されて怪我したのを見て、ざまあみろとでも思っていたんじゃないの?」
私がそう聞くと、リリアンナはにやりと笑った。
「あら、気付いちゃった?」
「でなきゃ、めったに会いもしない私を卒業パーティーに呼び出さないでしょう?」
「私はね、病気を理由に領地で自由に生きてきたあなたが嫌いだった。
私はクロイチェル侯爵家の令嬢として、王子妃として、勝手に期待を押し付けられて、自由なんて何もなかった。そんな中で精一杯がんばってきたのに、公衆の面前で私が全部悪いみたいに罵られて婚約破棄なんて…ありえないでしょう?
だからあなたを身代わりにした。人々の冷たい視線の中で罵られるあなたの姿を見て、少しはスッキリしたわ。」
あっけらかんと言いきる姉に、呆れて言葉も出ない。
我が姉ながら、性格悪すぎでしょ。
まあでも何というか、あからさまにハッキリと言うところが、憎みきれないところでもあるのだけれど。
はぁ、何だか対抗できる気がしない。私は話題を変えることにした。
「それで、これからどうするの?」
「予定では、婚約破棄された可哀そうな私は家に引きこもり、慰めに来てくれた幼馴染の第一騎士団長フレディー・アンダーソン様と婚約かしらね」
「そこまで話が出来上がっているの?!」
「ええ。悲劇のヒロインはハッピーエンドを迎えるの。あなたは王家から慰謝料をもらって領地でのんびり過ごすといいわ。ユリアにとっても悪い話ではなくてよ」
そう言うと、リリアンナは立ち上がった。
「さてと。怪我をした妹に付きっきりで看病する健気な姉を演出できたことだし、私は部屋に戻るわ。じゃあお大事に」
ひらひらと手を振ってリリアンナは部屋を出て行った。