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2.ようやく人違いだと気づいてもらえた

「アルフレッド殿下、この度はご卒業おめでとうございます」

中央に進み出たリリアンナは、優雅にカテーシーをする。


「ところで、妹が何か無作法をしたのでしょうか?」

「妹だと?!」

「はい。彼女は私の双子の妹、ユリア・クロイチェルです」


その言葉に一同目を見張る。

もしその言葉が事実なら、アルフレッドたちは無関係の女性を罵り、突き飛ばし、ワインをぶっかけたことになる。


「妹がいるとは聞いていないぞ」

「いえ、最初に申し上げているはずですが。ただお目にかかるのは今日が初めてですね。ユリアは生まれた時から体が弱く、ずっと領地で療養生活を送っておりましたから」

「で、では今日なぜ会場に?」

「薬が合ったのか、ここ1年ほど体調が安定してきましたので、今日は私の卒業祝いに来てくれたのです。しかし何か問題が起きたようですね。妹に代わり謝罪いたしますわ」

そう言うと、リリアンナは頭を下げた。


「いや、そうではないんだ」

アルフレッドは慌てて否定した。

「では一体、何があったのでしょう?婚約破棄と聞こえましたが、妹の不始末が原因なのでしょうか」

リリアンナは不思議そうに、アルフレッドの顔を見る。

「あ、いや、それは…」

そう言いつつ、アルフレッドの顔面がどんどん蒼白になる。

取り巻き連中も、まずいことになったと顔を引きつらせている。


どう考えても、アルフレッドたちに非がある。

本人かどうかも確認せず、無関係の妹を一方的にひどい目に合わせたのだから。

その場に居合わせた面々は顔を見合わせた。

クリスティーナへの嫌がらせというのも、彼らの思い込みだったのでないかと。

王立学院での行動を見る限り、リリアンナは王子妃になるべく頑張っていた。

それに対し、クリスティーナは多くの男性に囲まれ、ちやほやされているだけ。

そんな彼女に苦言を呈するリリアンナの姿は何度か目撃されていたが、直接いじめているところを見た人はいない。

そもそも、婚約者のいるアルフレッドが他の女性と親密になるのは問題だ。

例えそれがどんな「愛」であろうと、きちんと手順を踏む必要があるだろう。


人々が騒めく中、一人の男性が大きくため息をついた。

「弟の卒業祝いに駆けつけたのだが、どうやら祝うどころではなくなったようだ」

「あ、兄上!!」

そこにはアルフレッドの兄、レオナルド皇太子殿下の姿があった。


レオナルドはすぐに上着を脱ぎ、ユリアの肩にかけた。

「大丈夫ですか。立てますか」


(ああ、やっと放置されていた私に気付いてくれた人が!神だわ!でもごめんなさい、痛すぎて声が出ないです)

ユリアは首を横に振るしかできなかった。


レオナルドはユリアの手をとろうとした。

しかし右手首は腫れあがり、動かすこともままならない状態を見て眉を顰める。

「まずは彼女の治療と着替えが先決だな。私は彼女を医務室へと運ぶ。アルフレッド、リリアンナ・クロイチェル嬢、クリスティーナ・ヴォルト嬢は別室で待機だ。後で事情を聞こう。それ以外の方々はパーティーを楽しんでほしい。ニコラス、後は頼む」

そう言うと、レオナルドはユリアをそっと抱きかかえ会場を後にした。


ユリアはちらっとレオナルドの顔を見上げた。

(本当なら「私、イケメン王子様にお姫様抱っこされて幸せ」って思うんでしょうけど、無理だわ。急いでくれているのはわかるけど、揺れるたびに痛みが…)

泣きたくないのに、勝手に涙が零れ落ちた。


客室には侍女と医者がおり、ユリアは貸してもらったドレスに着替え、治療を受けた。

足首の捻挫は2~3日で腫れが引くだろうけど、右手首は骨にひびが入っているようで、完治には3か月程かかるそうだ。

痛みでズキズキするし、熱も上がってきた。

病気慣れしているから痛みや発熱に耐性はあるが、怒涛の展開に頭も心も追い付かない。

(とにかく今はちょっと休みたい…)

ユリアはそのまま倒れこむように寝てしまった。

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