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1.王子にワインをぶっかけられた

『君との婚約を破棄する!』

流行りの小説で目にする、王子様が婚約者に突き付ける言葉。


これを初めて読んだ時は、

(真実の愛だか何だか知らないけど、馬鹿な王子様もいるものね)

と苦笑したものだ。

その時はまさか私自身が、この言葉を浴びせられるとは思いもしなかった。

人生、何が起きるかわからない。だから面白い…のかもしれない。


***


今日は王立学院の卒業パーティー。

馬車酔いしたという姉とは休憩室で別れ、私は一人で受付を済ませ、会場に足を踏み入れた。


(おお、これはすごい。王立というだけあって豪華ね)


自然とテンションが上がる。

煌びやかに飾りつけされた会場にはすでに多くの人々が集まっており、歓談したり軽食をつまんだりと和やかな雰囲気だった。

だが、ある男性の一声でそれは打ち破られた。


「やっと来たか。リリアンナ・クロイチェル!話がある。前に出ろ!」


第二王子アルフレッド殿下の声に、会場はしんと静まり返った。

そして人々の視線が一斉に私へと向けられる。


「…えっ? 私? あ、あの、私は…」

突然の呼びかけに、あたふたと周囲を見渡す。

人々は好奇心、同情、嘲笑、様々な視線を寄こすのみで何も言わない。


「何をしている。さっさと行け!」

アルフレッド付きの護衛騎士が私の肩を勢いよく押す。

「…あっ!」

いつもより高いヒールのせいで転びそうになる。

転倒だけは避けようと何とか踏みとどまったものの、足首がズキンと痛んだ。


「リリアンナ、君には本当に失望したよ。」

「あの、ですから私は」

「黙れ。クリスティーナへの誹謗中傷だけでなく、ドレスにワインをかけたり、虫の死骸を机に入れたり。10日前には突き飛ばしたそうだな。これは立派な犯罪だ。」

「私にはわかりません。それに」

「この期に及んで言い訳か。見苦しいぞ。自分でやったこともわからないのなら、同じ目にあえば思い出すか?」


アルフレッドはそう言うと、ワイングラスを手に取り、その中身を私にぶちまけた。

淡いクリーム色のドレスは赤く濡れ、髪からもワインが滴り落ちる。


(嘘でしょう?! 王子が女性にワインをぶっかけるなんて…)


茫然と佇む私を、アルフレッドの取り巻き連中がニヤニヤ笑って見ている。

「うわぁ、無様だなぁ。」

一人がそう言うと、私を後方へドンと突き飛ばした。

私は先ほど痛めたばかりの足で踏ん張ることもできず、床に倒れこんだ。

「…っ」

全体重が右手首にかかったのだろう、激痛が走り、声も出ない。


「アル、もう止めて。リリアンナ様が可哀そうですわ。私のことはもういいのです」

アルフレッドの隣に立つクリスティーナが目を潤ませ、彼の腕をそっと掴む。

「この女が可哀そうだって? クリス、君は優しすぎる。クリスの辛さや痛みはこんな程度では済まされないだろう。これは君を虐めた報いだ」

アルフレッドはそう言うと、私を冷たく見下ろした。

「リリアンナ・クロイチェル侯爵令嬢、私は今ここで、君との婚約を破棄する! 

そしてクリスティーナ・ヴォルト子爵令嬢を新たな婚約者として」


その時、アルフレッドの言葉を遮るかのように女性の声が響き渡った。

「お待ちになって下さい!これは一体、どういうことですの?」


会場中の人々が、声のした方を振り返る。

そこに立っていたのは、華やかなドレスに身を包んだ一人の美しい女性。

なんと、リリアンナ・クロイチェル侯爵令嬢、その人だった。


「え?リリアンナ・クロイチェル嬢が2人?!」

「一体どういうことだ?!」

静まり返っていた会場が一気にわざついた。

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