表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の記憶  作者: 9300
8/84

8

 必要な石の数が重症度に対応しているということは、あんなに大きなトラックに撥ねられた自分には、おそらく大量の石が必要だろう。平均十から二十でまわりが次々と生還していく中、きっとなかなか生還が叶わないにちがいない。


 みんなが次々に願いを叶えていく中、自分だけが取り残される――


 そんな状況の中で、いつ訪れるとも知れないゴールを目指す行為はやがて人から気力を奪う。似た状況は、嫌というほど経験した。本当に、嫌というほど。


 自分には本当にちゃんとゴールが用意されてのだろうか。まわりは次々にゴールを迎えているけれど、自分には一向にその兆しがない。本当に終わりが来るのか。永遠にこの状態が続くのではないか。どうして自分だけが残されるのか。震えながら日々を送っていた。


 嫌だ。あんな思いはもう嫌……


「実は僕も交通事故だったんだ。二週間前に道を歩いていたらさ……」


 文ちゃんの声に集中しようと思っても、思うようにいかない。


 今度こそ私の番かもしれない。またダメだった。いつまで続くのどうして私なの?何か悪いことをしたんだろうか適当な慰めはやめて……まだなの?……仕方ない……どうして……今度こそ……やめたい……もう嫌だ……死にたい……


 奥歯がギリッと鳴って、鼻の多くがツンとして、我に返った。


 椎奈はふっと体の力を抜いた。


 もう全部、どうでもいいんだった。


「その石についてなんだけどね……」


 ずっとただの音でしかなかった文ちゃんの言葉が、意味を持って耳に入ってきた。


 文ちゃんの事故の話をそっくり聞き逃してしまったことを申し訳なく感じながら、文ちゃんの言葉に意識を向けた。


 文ちゃんはノートの項目の二つ目『2.石について』を指し、話を続けた。


「石の種類は全部で五種類。形や大きさはどれも大差なくて、色で五種類に分かれている」


 そう言うが早いか、文ちゃんは右腕の袖をぐいっとめくった。途端に椎奈の目はそこにくぎ付けになった。そこにあったものは、椎奈の暗い思考をいとも簡単に吹き飛ばすほどのインパクトを持っていた。


 文ちゃんの右腕には無数の石が埋め込まれていた。さっき涼に見せてもらった額の石のように、親指の爪ほどの大きさの石がつるりとした表面をのぞかせて肌に埋まっている。赤、青、緑、白の石が不規則ではあるがバランスよく並ぶ様は、椎奈に庭園の飛び石を連想させた。


「きれい……」


 石はどれもとても綺麗だった。涼の額にもあった青い石はラピスラズリ、椎奈の額にあるという赤い石は、ガーネットを思わせる深みのある赤。緑は黒みがかった翡翠のような色で、白は碁石を連想させる純白の石だった。ふと四色しか見当たらないことに気づいて文ちゃんを見上げると、察しのいい聡い目で笑った。


「残りの一色は金色なんだけどね、金色は黄龍石と呼ばれていて、とても貴重なんだ。黄龍石は流通量が極端に少ない。この世界で人が死んでしまった時に、ごく稀にその額の石が変化して黄龍石になるんだ。今ここには無いけれど、いずれ見せてあげられると思うよ」


 金色と聞いて、椎奈の胸はとくんと跳ねた。金色の石もさぞ綺麗なのだろう。椎奈は多くの女性の例に漏れず宝石や天然石が好きだった。ただそれにすら、一年前から興味をなくしてしまった――はずなのに……


 何かに心を動かされることなんてもうないと思っていたのに、今、文ちゃんの腕に埋まっている石がもたらした胸の高鳴りは目を背けられないほど椎奈の胸に大きく鳴り響いていた。


 自分はまだこんなにも何かに興奮するのか。感動するのか。美しいと感じるのか。泣きたいような気持ちになってしまい、慌てて文ちゃんの話に意識を戻す。


 たしか金色の石は「黄龍石」と呼ばれていると言っていた。その名前から、高貴で上品な輝きを持つ金色の石を想像する。


「黄龍……って、もしかして四神の黄龍?」


「あれ、椎ちゃんもしかしてそのへん詳しい?そうだよ、黄龍は四神五獣の黄龍からとって名付けられたらしい。その他の四色がちょうど四神の象徴色にぴったりってことでね」


 四神とは中国に伝わる方角を司る霊獣のことだ。東西南北をそれぞれ青龍、白虎、朱雀、玄武が司っており、その象徴色はそれぞれ青、白、赤、黒となっている。玄武の象徴色は厳密には黒なのだが、ここでは緑を玄武として扱っているようだ。たしかにこの黒みがかった緑色の石ならば、玄武にあてはめてもしっくりくる。


 そして、四方角の中央を司るとされるのが黄龍だ。


「じゃあ他の石もそれぞれ青龍石とかって呼ぶの?」


「いや、言われてみれば他の四色はそういう呼び方はしないな。黄龍石は貴重だからそう呼ばれるようになったのかな。代わりにそれぞれの色の額の石を持つ人を、青龍、白虎、朱雀、玄武って呼んでるよ。だから椎ちゃんは、『朱雀』ってことになる。ちなみに僕と涼は『青龍』。広樹は椎ちゃんと同じ『朱雀』だよ」


 面白いと思った。まだよく知らない広樹に対しても、同じ朱雀だということで不思議な親近感がわくのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ