表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の記憶  作者: 9300
62/84

62

 足もとを見つめ、草を踏みしめる音を楽しみながら歩いていると、「おい」と聞き慣れた声がした。目を上げると、腕を組んだ涼が少し先の木に斜めにもたれかかっている。


「勝手にいなくなるな。一人で森に出るなんて何考えてる」


 探しに来てくれたのだろうか。ものすごく怒っている。近づくと、涼は椎奈の頭を見てさらに顔をゆがめた。


「お前なんで鉢巻してねえんだよ」


 あ、とジーンズのポケットに手をやる。紫音の前で外した後、入れたままだった。梟がいるかもしれない森を鉢巻もせず、一人うつむいて歩いていたなんて、自分の肝の据わりっぷりがおそろしい。


 睨みつける涼の前で鉢巻を結んだ。


 あれだけ取り乱していた涼だけれど、すっかり元の調子を取り戻しているように見えた。心の中はわからないが、姿はそう見える。髪は結い直されて着物の乱れもなかった。


「あまり心配させるな。二度と一人で森に出るなよ」


 そう呟いた涼の瞳が、一人にしないって言ったくせに、と駄々をこねている気がして、


「さっきのは四六時中一緒にいるって意味じゃないよ」


 とからかう。涼はものすごく不愉快そうな顔をした後、ふっと笑った。


「あれは……どうかしてた。忘れろ。俺の生還なんか見届けなくていいし、お前はお前でちゃんと石を集めればいい」


 冷静になってそう思い直したのだろう。けれど涼がどう言おうが、もう椎奈の決意は固かった。


 椎奈は今なら言い出せる気がして、シャツの袖をまくった。涼の視線が吸い寄せられる。


「ここに青い石が十五個ある。いつか使ってもらえたらと思って、涼のために集めてきたの。……受け取って」


 涼は眉間に皺を寄せると、顔を上げた。


「バカかお前は。んなことしてねぇで、こんなものさっさと誰かと赤い石に交換しちまえ」


 涼はくるりと体の向きを変えると、村の方へ歩き出した。


 立ち尽くしてその背中を見つめる。


 そして言った。


 無意識だった。


 ただ自然に口から言葉がこぼれ落ちた。


 それは、氷柱の先から水滴が落ちる様に似ていた。


 そのくらい唐突で、きっかけなどなかった。


 ただ時が満ちただけだ。


「好きだよ」


 涼の足がぴたりと止まった。


 そして振り返り、感情を映さない顔で椎奈をまっすぐに見た。


 涼が何かを言いかける。しかしその声は、叫ぶような声にかき消された。


「椎奈さんっ!」


 突然背後から呼びかけられ、驚いて振り向く。そこにはなぜか大河の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ