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森の記憶  作者: 9300
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 もうだめだと思った。これ以上答えを引き延ばせない。加山は追い詰められている。それは全て、私のせいなのだ。


 思い切って椎ちゃんに相談した。でも加山の気持ちのことは黙っていた。私が本当に加山を好きならどうするべきか教えて欲しくて、「本当に好きってどういうこと?」って訊いた。


 さすが椎ちゃんだと思った。椎ちゃんは、こう言った。


「……辛い思いなんか一つもしてほしくなくて、もしもそんな思いをしているのなら、一緒に背負ってあげたいと思うことかな」


 そうだ。その通りだ。加山には辛い思いなんかしてほしくない。もしも辛いのなら、一緒に背負いたい。代わってあげたっていい。元の世界に帰してしまったら、一緒に背負ってあげることができない。だったらこの森で加山の望みをかなえよう。加山の石を受け取ろう。


 そう決めたら、加山と私が同じ玄武になったことは運命なのかもしれないと思った。だって同じ緑の石を集める者同士じゃなかったら、加山の石を受け取って私の生還に役立てることなんてできない。だから私の出した結論は間違ってない。最初からこうなる運命だったんだって、神様が味方してくれたような気持ちになった。


 だから私は加山に言った。「エッチしよう」って。そうすれば加山の石は私に移る。


「愛を確かめ合う行為で加山の願いを叶えてあげられるなんて素敵だと思わない?」


 そう訊くと、加山は真っ赤な顔で嬉しそうにうなずいた。


 二人で村を出て少しだけ歩いた。


 加山が「初めてだからどうしたらいいのかわからない」なんて言うから、かわいいなと思って「キスしてよ」って答えた。加山は今時中学生でもこんなキスしないと思うような、触れるだけのキスをした。こんなんじゃエッチなんてできやしない!私はおかしくなって、「こうやるんだよ」って見本を見せようと思って、加山の顔を優しく両手ではさんだ。


 加山の髪が指に触れた。


 真っ黒で、私の髪より固くてしっかりしている。


 手の平に加山の頬が当たった。


 サラッとして、気持ちがよくて、手を少し滑らせるとビクッと震えた。


 加山の息がふっと漏れて、私の前髪を揺らした。


 その息は、なぜかいつもより湿っている気がした。


 私はこれまで、色んな人とキスやエッチをしたことがある。


 でもこの時、これまで一度も感じたことのない気持ちになった。


――この人……生きてる


 生まれて、食べて、髪が伸びて、生きて、飲んで、息を吐いている。


 そんな当たり前のことに気付いた途端、急に胸の奥から何かがぶわってこみ上げてきた。蟻みたいにすごく小さかったものが、一気に象の大きさになったと思えるくらい、その気持ちは本当に急に大きくなって私を襲った。


 いやだ。いやだ。絶対にいやだ。


 涙がみるみる溢れて止まらなくなった。


「やだっ!絶対にいやっ!死んじゃやだっ!やっぱり私、できない!」


 どこにも行かないで。一緒にいて。そばにいて。死なないで。


 めちゃくちゃに叫んで、泣き崩れた。


 泣きながら思った。加山はもっと私と一緒にいたくないんだろうか。今死んでしまって、本当にいいんだろうか。たとえこの先辛いことが待ち受けているとしても、それでも少しでも長く私といたいとは思わないのかな。本当に好きなら……そう思うんじゃないかな。


 私は壊れてしまったみたいに、ただ涙を流し続けた。


「ご……ごめん。ごめんね」


 加山は何度もごめんねと繰り返して、ぎこちなく抱きしめてきた。


 私はぼんやりと思った。


 私の好きと加山の好きは、もしかしたらちょっと違うのかもしれない。


 私は何があっても加山と一緒にいたい。それが私の好き。


 じゃあ加山の好きは?加山の好きは、どんな好き? 


 考え始めてすぐにやめた。だってそれがどんな好きだろうと、私が加山を好きなことには変わりない。だったら別に何だっていい。


 私が落ち着くと加山は「二人で村を出よう」って言った。「配給を断り続けるなら、これ以上村にはいられない。二人で村を出て、先のことはそれから考えよう」って。そうだねと私は答えた。村を出れば配給もないから、もっとゆっくり考えられる。加山が焦ることもないし、きちんと話し合えるだろう。それが一番いい気がした。


 ただ椎ちゃんとお別れするのは寂しかった。一言だけお別れを言おうと思った。


 椎ちゃんを探していたら、朝会が始まってしまった。タイミング悪く、その日は十九歳以上の配給の日だった。私は今生還してしまうわけにはいかない。だから配給を断った。目立たず村を出たかったのに、変に注目を浴びてしまった。そして朝会の後、椎ちゃんにお別れの挨拶をしているところを涼ちんに見つかってしまった。

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