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森の記憶  作者: 9300
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 この森に来てから二か月経つという広樹は、「何でも聞いてね。同じ朱雀だし、仲よくやっていこう」と椎奈に笑顔を見せた。


 椎奈を襲った三人組は、椎奈が朱雀であることを理由に殺そうとしてきた。グループ内での石の数が限られている以上、同じ赤い石を必要とする人間の数が少ない方が好都合であることは、石の仕組みを知った今は容易に想像ができる。


「同じ赤い石を必要とする者同士なのに優しいね。村の人はみんなこんな感じなの?」


 嬉しくなって尋ねる。すると広樹は不思議そうな顔をした後、また笑顔になった。


「言われて初めて気がついたな。確かに村に朱雀の数が少ないほど、計算上は早く生還できることになるね。でも村にいると、そんなこと全然気にならないよ。みんなで助け合って、『玄武の蒲田さん』が考えたシステムに則って石を分け合ってる」


「玄武の蒲田さん?」


「四か月前に村を作った人だよ。人を集めて、石を回すシステムを作り上げた。俺が森に来た時にはもう生還した後だったから会ったことはないけれど、すごい人だったって涼や雄一郎さんから聞いている」


「そうなんだ。石を回すシステムか……」


 先ほどの文ちゃんの説明によると、石を得る方法は主に、いなくなった人が残した石をもらう、仕事などの対価として得る、交換する、といったところだ。それをどうやってシステム化しているのだろう。


「もうすぐ行われる『朝会』を見ると村のシステムがよくわかるよ。実際に朝会の進行に合わせて、説明してあげるね」


「『朝会』って何?」


「一日に一度村の全員が集まって、情報を共有したり石を分配する場だよ。さっき文ちゃんが日付を聞いてきただろ? この森には夜がないし時計もないから、俺たちは新人さんに元の世界での日付を聞くことで時の流れを把握しているんだ。日付が変わったら朝会をすることになっている」


 面白いと思った。確かに一日中昼のような状態のこの森では、日付が変わったことがわからない。さっき文ちゃんが「やっぱりね」と嬉しそうな顔をしていたのは、きっとそろそろ日付が変わる頃だという予想が当たったからだったのだ。


 そんな会話をしているうちに、光の穴がもう目の前に来ていた。


 その大きさには驚かされた。学校の体育館くらいはあるだろうか。穴から差し込む光はまっすぐ下に向かい、まるで周りからそこだけを守るようにその空間を照らしていた。


 そこが村だった。


 村というからには、周りを柵で囲まれて遺跡でみかけるような粗末な住居が点在している姿を漠然と想像していた。けれどすぐに自分が置かれた状況に対する理解の乏しさを反省した。この森では、人は食べない、眠らない、物資もない。つまり、隠れない、貯め込まない、生み出さない。住居など作る必要も術もないのだ。


 そこは大きな窪地だった。何本もの木がそびえ立っていたが、草がまわりに比べて極端に少なく、地面が露出している。


 ざっと見ただけでも四十人ほどの人がいた。なだらかな傾斜の一角は土が削られてベンチのような形になっており、背中の丸まった老人たちが七、八人腰を下ろしていた。


 窪地の平らな部分には四、五人のグループがいくつかできていた。山のように積まれた衣類を分類したり、トランプをしたり、空手の練習をしたりしている。誰も石を集めているようには見えなかった。もちろん殺し合いもしていなかった。


 ふと足元を見ると、光に照らされて明るい部分と葉に光を遮られて暗い部分との境界線がくっきりとできていた。まるで、ここからが村です、と示しているようだ。


 その境界線をいざ跨ごうとした時、「ひろき!」と声がした。前方の斜面を小学校に上がるか上がらないかくらいの男の子が駆け上がって来て、広樹の足もとに嬉しそうにまとわりついた。


「ひろき、おかえり!」


「ただいま、駿。いい子にしてたか?」


 広樹が頭を撫でてやると、駿は「うん!」と満面の笑みでうなずいた。すぐに隣の椎奈にも気づき、「はじめまして。こんにちは」と挨拶をくれる。「こんにちは」と返しながら、こんな小さな子がこの森にいることに胸がつぶれる思いがした。子どもが生死を彷徨っているなんて事実は、できれば想像したくない。


 駿は広樹に頭を撫でられて満足したのか、またすぐに村の方へ駆けて行った。

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