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7話

  ガセボにてアイスティーを飲みながら殿下とたわいもない話をする。


  私は両親と住む領地の事を話した。幼い頃のことを思い出しながら時間が許す限り語る。すると意外な事が分かった。殿下は私がまだ6歳くらいの頃に我が家に来た事があるらしい。しかも病気を理由に滞在までしていた。それを知って大いに驚いた。殿下は私にもリッヒという愛称で呼んでほしいとも言ってくる。2人だけか身内だけの時はそう呼ばせてもらうと約束したのだった。


「……時間が経つのは早いな。もう夕方だ」


「そうね。リッヒ様もお気をつけて」


「ああ。また、休みが取れたら来るよ」


  殿下もとい、リッヒ様はそう言うと私の肩に軽く手を置いた。ちょっと驚いてしまう。すぐに手は離された。


「……では」


「はい」


  頷くとリッヒ様は踵を返した。ガセボから去って行ったのだった。


  私はそれからというものの、編み物に余計に没頭する。マフラーはもう三分の一くらいは出来上がっていた。そんな中、リッヒ様から届いた手紙を読んで私は大いに驚いた。夜会への招待状が届いたらしい。殿下宛らしいが。それには婚約者か妻を同伴するようにと書いてあったようだ。なので私に一緒に行かないかとあったのだ。私は戸惑いながらも了承の旨をしたためてお返事を送った。夜会の日付は今から半月後だそうだ。ジェンとマリー、メイの3人にも伝えた。


「……あら。半月後ですか。でしたら十分に用意ができます」


「そう。なら良かったわ」


「はい。腕がなります!」


  メイがやる気満々で言う。私はジェンやマリーと顔を見合わせて笑ったのだった。


  夜会に誘われてから一週間が経った。私は相変わらず、マフラーの作成をしている。片手間でティエラ様やメイド達と着ていくドレスを決めたりアクセサリーや髪留め、靴を選んだりしていた。マフラーは頑張った甲斐があって半分は仕上がっている。リッヒ様も屋敷を訪問してくれてそのたびに親交を深めていた。


「……メル殿。ちょっと疲れ気味じゃないか?」


「そうでしょうか。私はそうは思わないのですけど」


「いや。表情が冴えないからな」


  ずばり言われてちょっと頬に手を当てる。驚いたのもあるが。後で鏡を見ておこうと思った。


「それはそうと。もう夜会まで十日もない。当日になったら私が迎えに行くので。そのつもりでいてほしい」


「わかりました。それまでには準備を整えておきます」


「……ああ。頼む」


  私が頷くとリッヒ様はアイスティーを飲んだ。私もクッキーを口に運ぶ。ちょっとの間、心地よい静寂が訪れる。嫌ではない感じだ。


「ローゼと呼んでもいいか?」


「……あ。ええ。構いません」


  不意打ちだったが。つい、頷いていた。リッヒ様は嬉しそうだ。


「……夜会の日が待ち遠しいな」


「はあ。私が着飾ってもあまり変わらないと思いますけど」


「そんなことはない。ローゼは綺麗だ」


  直球で言われて目を見開いた。今、私とリッヒ様しかいない。それでも照れてしまう。


「そ、そうですか。でも自信はないです」


「いや。私は本気だぞ」


「……ありがとうございます?」


  疑問形で言ってしまったが。リッヒ様は苦笑する。


「……あんまり自覚がないようだな。君は自分を卑下し過ぎだ」


「そう言われましても」


  私が返答しかねているとリッヒ様は椅子から立ち上がる。こちらに近づくと両肩に手を置いた。じんわりと温もりが伝わってきた。


「……ローゼ。私は君が好きだ。今後も大事にすると約束する」


「……リヒテン様」


「浮気はしないし。生涯、君だけだ」


  顔に熱が集まる。たぶん、真っ赤になっている事だろう。リッヒ様は膝を曲げて目線を合わせると髪の一房を手に取った。そのまま、キスをする。


「ローゼ。返事は?」


「……あの。私もリッヒ様が好きです。けど夢のようで実感がわかないです」


「夢じゃない。現実だ」


  リッヒ様はきっぱりと言う。けど浮かべる表情は蕩けるように甘く笑っている。私は心臓が凄くうるさくなっていて彼にも聞こえないかと不安だ。


「……ローゼ」


  リッヒ様は髪に触れていた手を頬に滑らせた。親指で撫でられる。ちょっとカサついた感じが異性の手だと意識させられた。リッヒ様の顔がぐいっと近づいたと思ったら。額のあたりに温かく柔らかなものが当てられた。すぐにそれは離れたが。キスをされたと気づいたのはその後だった。


「……婚姻するまでは我慢する。その代わり、これくらいは許してくれよ」


「はあ。わかりました」


  リッヒ様は私からそっと離れた。ちょっと寂しくなったが。あえて我慢する。


「ふむ。もう夕方だ。それでは失礼する」


「……はい。また、夜会の日を楽しみにしています」


「ああ。君が着飾った姿はさぞかし綺麗だろうからな」


  リッヒ様の言葉にまたも年甲斐もなく照れてしまう。リッヒ様は手を振るとサロンから帰って行ったのだった。


  私は自室へ戻るとほうと息をつく。ジェンとメイがきゃっきゃっとはしゃいでいる。気のせいか、彼女達の顔が赤い。


「……ねえ。お嬢様にあんなに甘い言葉をおかけになるなんて。噂とは違ったわね」


「本当よねえ。あたし、照れちゃったわ」


「私も。殿下って情熱的な方だったのね!」


  どうやらリッヒ様と私の事を話しているらしい。恥ずかしくなってソファから立ち上がる。寝室に行ったのだった。


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