7話 きっと大丈夫
昨日は更新できなくてすみません。
前回よりは少し長くなったと思います。よろしくお願いします。m(_ _)m
ヴィオラは無能ではない。むしろ次期王妃としての評価は高く、揺らぎのないものと言われている。そのため、アンドレアに心配することは何もなく、どうせ正式に入籍すれば、この先ずっと一緒にいる相手だろうと入籍するまでは気ままに生きる生活を満喫するつもりだった。だからフィリアに出会ったあの時、アンドレアは偶然居合わせたヴィオラを見て、面倒に思ってしまった。
ーー同じ学園に通えば顔を合わせる場面は何度もくるのか…。
婚約者を気にかけなくてはならない状況に憂鬱になったアンドレアはつい不機嫌な態度をヴィオラにとった。まさかあの場面が浮気と間違えられるなど全く思っていなかった。しかし、今、アンドレアはあの時の自分を責めたい気持ちでいっぱいである。
ーーあの時、しっかり対応していれば、こんな面倒なことにならなかったのに!
この後王宮に出向かなければならない状況がアンドレアを追い詰める。
「なんて説明すればいいんだ!?」
深刻に悩んでいるアンドレアにイーサンは気軽に答えた。
「そんなこと言っても正直にいうしかないではないですか。自分以外の淑女に鼻の下を伸ばす殿下を見て、幻滅したため、ヴィオラ嬢は自害しようとしました、と。」
「鼻の下などのばしていない!まじめに考えてくれ!このことを学園の関係者や王宮の上層部に向けて言わなければならないのは私なんだぞ!」
今のアンドレアには少しの余裕もない。もし、次期王妃が、ただ他の少女と話をしただけで絶望する少女と正直に報告すれば最悪の場合、婚約破棄となってしまうだろう。そんないつ死んでしまうかわからない人間に国を任すわけにはいかない。
ーーそうなれば、いよいよヴィオラ嬢は死んでしまう!
まだ“愛する”というのはよくわからないアンドレアだが、今までヴィオラとまったく関わらなかったわけではないのだ。情は存在している。それに自分のせいで死ぬとなれば、なおさら死なせるわけにはいかない。
アンドレアが真剣にヴィオラに向き合ってる様子を見て、イーサンは微笑ましく思っていた。
ーー今まで、逃げて来た殿下が成長しようとしている。
イーサンはさほど焦ってはいなかった。もちろん事態は深刻だが、幸いヴィオラの自殺は失敗した。これからヴィオラには見張りがつくことになるだろうが、次期王妃から外させられるようなことはないだろう。次期王妃を変えるのはそう簡単なことではないのだ。万が一その可能性が出てきても、第一皇子であるアンドレアが反対すれば大抵のことは通る。だからこそ、目の前のアンドレアの変化に気づくほど余裕があった。アンドレアはもうヴィオラを無視することはできないだろう。
ーー見る限り2人は相性が良さそうですし。
イーサンは自分より一つ下の主人が成長しようとしている姿を兄のように見守る。そんな時、今まで黙っていたもう一人の従者である、ラルクが清々しい空色の目を煌めかせた。
「自分にいい考えがあります。」
アンドレアは生き生きとしたラルクの様子をみて嫌な予感がする。この従者は普段は真面目な武闘派でありながら、時々ぶっ飛んだことをすることがあるのだ。
「虚偽の報告をするのか?」
アンドレアは何を思いついたか分からない自分の従者に念のため確認を取る。
「少しだけ演出的に感情豊かに伝えるだけです。」
「それでいきましょう。」
アンドレアに口を挟む時間など存在しなかった。ラルクの提案に食い気味にイーサンは賛成する。基本は有能だが、面白い方向に突っ走ろうとする自分の従者たちにまたいつもの展開だとアンドレアは早々に諦めた。
そして、3人がこの後の展開について打ち合わせをする間、ヴィオラは何をしていたのかと言うと…ずっとニヨニヨしていた。
ーー殿下にバカって怒られてしまった!!
ヴィオラは初めて言われた言葉につい口が緩んでしまう。今までアンドレアに怒られる時は全てどうでもいいかのような態度で淡々と言葉を吐かれていた。しかし、先程アンドレアがヴィオラに向けた言葉は、まるで心を許してくれたように気安かったのだ。アンドレアと友人になった時でさえ、そこまで気安くはなかった。あくまでアンドレアとヴィオラは男と女であり、友人と言ってもある程度の距離があるのは仕方がない。
ーー初めてここまで近づけたかもしれないわ!…でも、このままではまた友人ね…。
たとえ、初めてここまで仲良くなれたかもしれなくても、ヴィオラの次のループへ行く気持ちは変わらない。
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アンドレア達3人はあらかた打ち合わせを終えると代表してラルクがヴィオラに話しかける。
「さて、準備は整いました。ヴィオラ嬢に一つお願いがあります。これから王宮に出向くことになりますが、ヴィオラ嬢には殿下が合図をした時に嬉しそうな表情で『殿下!』と答えて欲しいのです。展開のことは全て殿下にお任せください。」
ラルクは胸の前で手を組み、セリフに合わせて少女の顔を作った。その顔とラルクの真剣な声の差に奇妙さを感じながらもヴィオラは了承する。しかし、アンドレアは打ち合わせの内容に不安を感ぜずにはいられない。
「ほ、ほんとにこれでいくのか?」
「往生際が悪いですよ殿下。さすがに陛下や皇妃様…あとは宰相のヴァルグ卿に騎士団長のロイ卿……まぁ学園長やそのほかにもおかしいと思われる方はいるでしょうけど、とりあえず、周りを納得させなければなりませんからね。大丈夫でしょう。」
「いや、割と多くの方におかしいと思われるじゃないか…。」
「いいえ、殿下。大丈夫です。完璧です。自分の策があれば乗り越えられます。」
「お前の案だから心配なんだ…。」
どうしてそんなに自信満々なのかとアンドレアがグズグズしていると扉がノックされた。入室を許可するとノックした人間はヴィオラの侍女であるヘレンだった。
「畏れながら、殿下。弱っている淑女と長時間、密室にいるのは感心いたしません。」
もちろん、侍女であるヘレンが殿下に意見することなど到底許されることではない。しかし、主人のために発言したヘレンにアンドレアは素直に感心する。
「それは、全面的にこちらが悪いな。ヴィオラ嬢、すまなかった。侍女の君にも心配をかけさせてしまったことを謝罪しよう。」
アンドレアは素直に自分の誤りを認め、謝罪した。「もったいなきお言葉でございます。」ヘレンはそう言うと、入室の許可をとり、ヘレンを含めたヴィオラの侍女ら4人が部屋へ入った。ちょうどいいタイミングだとアンドレアは腹をくくり、侍女らにヴィオラの王宮へ行く準備を任せた。
「すまないが、まだヴィオラ嬢は不安定な状態だ。万が一のため、私たちは部屋の前で待機させてもらおう。」
そう言ってアンドレア達3人は部屋を出てヴィオラを待った。
そして、ヴィオラの準備が済むといよいよ王宮へ向かうため、馬車へ乗り込んだ。そこに来て、ようやくヴィオラは王宮に行く不安を感じ始めたが、もう遅い。
ーーとりあえず、ラルク様の言うことを守れば大丈夫…よね?
ヴィオラは綺麗な白髪をもち、清々しい空色の瞳を持つ少年を信じることにした。