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2話 死にたがり少女の完成

よろしくおねがいします。m(_ _)m

 私の世界はループしている。






 私の最初の人生の最後は、あの子を殺そうとして死刑になった。

 自分の罪を受け入れ、罪を償おうと確実に毒を飲み、死んだはずだった。それなのに目を覚ますと、自分の部屋にいた。訳がわからない。しかも、「朝の支度をします。」と侍女たちが普通に話しかけてくる。私の罪の証拠を殿下方に報告するほど、私を嫌っていたはずなのに、まるで私がまだ何もしていないときのように言動は優しく、行動も丁寧だ。混乱していた私は彼女たちの言うままに仕度をして馬車へ詰め込まれた。そしてどうやら学校へ向かっているようだった。




 ーーな、なぜ学校に向かっているの??

 向かったって私のような罪人などきっと追い出されるわ。いやいやそんなことよりも、そもそも私は死んだはずではなかったの!?




 学校に着けば、屋内のホールに案内された。始まったのはどうやら自分たちの入学式らしい。ヴィオラはますます混乱する。見たことある景色に聞いたことある言葉。頭の中がぐちゃぐちゃなただ一人を置いてけぼりにして、式典は問題もなく進んでいく。




「続きまして、新入生代表の言葉。我が国の第一皇子アンドレア・ド・ウィザリア殿下でございます。」




 司会を務める魔法学のヘンリー先生の声で今まで混乱の中にあったヴィオラの思考が止まった。


 顔を上げるとそこには最後に会った時よりは少し幼い元婚約者の姿があった。美しい黄金の髪をなびかせ壇上に上がっていく。拡声器の前に立つと深い海の目を聴衆に向けた。




 ーーで、でんか...?




 アンドレアが話しだす。




「校舎に降り注ぐ陽の光は暖かく、天気までもが私たちの入学を祝福しているようです。」




 ーーあぁでんかのこえだ。殿下の声だ。私の心によく響く声だ。もう二度そのお姿を拝見することは叶わないと思っていたのに。




 気を抜くと溢れそうな涙を我慢して顔が歪む。ヴィオラは、そんな顔を周りに見られないように少し顔をうつむかせた。




 スピーチが終わると、殿下の声を聞いて少し冷静になった頭で今の状況について考え直す。しかし、何度考え直してもありえない答えへと思考は終着する。




 ーー時間が戻っている...?...そんなことありえるのだろうか。でももし、...もし本当にありえるというのならば、私に人生をやり直せとでも言っているのかしら...。今度こそ殿下と共に支え合って生きていきたいと願っても良いの...?



 ヴィオラの心が揺れる。罪を犯してしまった自分にあまりにも都合の良すぎる展開だった。しかし、希望を抱いてしまいそうになっていたヴィオラの心を彼女自身で叱責した。


   ーー...いいや、ダメよ、何を考えているの!!人を殺めようとした私にはそんな資格はない!!こんな"許し"を受けて良いはずがない!








 侍女たちは朝から様子がおかしいヴィオラが無事に入学式を終えることを祈っていた。しかし、自分たちの主人は朝、送り出した時よりも様子がおかしくなって帰ってきた。その顔はまるで戦に行く前の戦士のような覚悟が決まった顔つきだった。







 その日の夜にヴィオラは自分の部屋で首を吊った。




















 しかし、それでもヴィオラの人生は終わらせられなかった。




















 ヴィオラは何度も何度も死んだ。死ぬ方法が悪かったのかと毒死、出血死、溺死…などいろいろ試してみたりもした。しかし、いつだって入学式の朝に戻った。ならば、と死ぬことを諦めて、1度目と同じ人生を辿ってみたり、あの子に関わらないようにしてみたり、殿下との婚約を解除してみたりといろいろな人生を試した。しかし、どのような人生をたどろうと、ヴィオラは結局、誰かの殺害未遂で処刑される未来は変えられず、人生を終えることもできず、入学式の朝からまたスタートした。分かったことは、途中で死ぬことがなければ、1度目の人生で死んだ日と同じ日に必ず死ぬということ。その理由は、ヴィオラがとある人物を殺害しようとしたからであり、そのとある人物は、最初のようにあの子であるときもあれば、全く違う誰かのときもあるということ。また、それは、実際に私が行っていなくても私の罪になるということ。


 ヴィオラは何度も何度も人生を繰り返し、いろいろな方法を試した。しかし、何度やっても生きることを終わらせることができず、ストレスが、どんどんつもった。そして、ある日ついに爆発した。




 ーー絶対にこの人生を終わらせてやる!!




 この時点でもう何のために死のうとしていたのかなんてことは、頭からぶっ飛んでしまっていた。いつのまにかヴィオラは死ぬことが目標になってしまっていたのだ。そして、何度も何度も死んでループするうちに倫理観も死んでいった。




 ーー死んだってどうせループするだけだ、もし本当死ぬとしてもそれはそれで万々歳!






 そして、何十回目のループの時、ヴィオラは気づいた。




 ーーはっ!そういえばまだ、私と殿下が結ばれる道を経験していないかもしれない...。そうよ!殿下とフォーリンラブすれば、私の人生は終わるんじゃない!?きっとそうよ!異論は認めない!!!






 彼女は気づかない。答えがそれだと絞るにはあまりにも根拠が足りないということに。彼女は気づかない。それは彼女の最初の望みということに。それでも仕方ないのかもしれない。彼女は本当に疲れていたのだ。根拠のない理由でこれが答えだと決めつけるほどには。




 そしてヴィオラは殿下を自分に惚れされるため、様々な方法を試し、より好感度が上がる行動を、選択を、手探りで探していった。




 とあるループでは、




 ーーふむふむ、殿下とあの子の仲を邪魔するようなことをすると嫌われるっと。あくまで、殿下から私に気持ちが向くようにしなければ。…っち。殿下が私に対して厳しい態度を取ってきている気がするわ。やり直そう。




 と考え、屋敷を飛び出し、庭にある池に飛び込み自殺。




 また、とあるループでは、




「ヴィオラ!俺は君のことを勘違いしていようだ。これからも良き友人として俺と共に歩んでくれ!」




 と殿下に言われ、




「友人になりたいわけじゃなーーーい!!なんで!?今回はいい感じだったのにぃぃいい!!」




 と叫びながら屋敷の3階から外へ飛び降り自殺。






 ーー時間だけはたくさんあるもの!絶対に殿下と結ばれてみせるわ!!おーほっほっほ!




 そして、何か選択を間違えると躊躇いなく、死んでやり直す、ガバガバな倫理観を持つヴィオラという少女が形成されていった。

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