7. 五百歳 対 十六歳
はい、こんにちは。ひよっこ魔王改め、チボルテック魔王です(笑)。
マンドラゴラとは、根っこが人型の魔法植物で、引き抜くと絶叫します。そして、その絶叫を聞くと最悪、発狂死します。精神攻撃魔法なので、耳をふさいでも関係ありません。ダモッタはこれを使えば、シンジの魂だけ壊せると考えているようですね。
うーん、これは赤点かな(苦笑)。なぜシンジが私の依代に相応しいのか。そこが分かっていませんねえ(嘆息)。
私の魂は、五百年でだいぶすり減っています。私が魔王として完全復活するには、シンジの身体だけじゃなくて、彼の魂を食べる必要があった。つまりシンジの魂はそれだけ格が高いのです。マンドラゴラの精神攻撃くらいじゃ死にませんよ。
ま、せっかくだから、このまま介入せずに、黙っていましょうかね。二人にとってよい勉強になりそうです(静観)。
~~~~~~~~
シンジは、ダモッタに両腕をがっちりつかまれて身動きできません。しかし、その目に殺気がこもります。ほう?
「セタ・エスクーラ!」
大声で魔法を唱えました。ん? 中級攻撃魔法?
「魔法トナ!?」
魔法を警戒したダモッタは、シンジから手を離して、後ろに飛び退きます……。しかし魔法は発動しません。うん、シンジの体、魔族としては幼体ですから、攻撃魔法は使えませんよ。ハッタリとして良い殺気でしたね。
体の自由を取り戻したシンジは― おっと、チボルテック持国天(私)をつかみました。そして間髪いれずに、チボルテックな私の右腕をもぎ取った!?
「オホッ」
「アアッ、ゼイモト様!」
私、ちょっとびっくりして声が漏れちゃいました。ダモッタが悲痛な表情で私を見ていますね。
「動かないで! これ以上僕に近づいたら、ゼイ君を破壊するよ!」
「ま、待って、くだサイッ」
ダモッタが懇願するも、シンジは容赦なく、今度はチボルテックな私の左腕をもぎ取りました。
「ンホッ」
「アァ、や、やめてくだサイィ」
またも声がでちゃいました。ダモッタはパニックになっています。でも私、声は出したけど痛くはないのですよ。この人形と魂がリンクしているので衝撃は感じますが、人形が壊されても私にダメージは一切ありません。私の本体は人形じゃくてシンジの体ですからね。
このことをシンジは知っているから、容赦なく腕をもぎ取ったのでしょう。シンジのハッタリを見抜けなかったダモッタの負けですね。
「そこまでだ! ダモッタ、無駄な策を弄するな。シンジの魂にはマンドラゴラの悲鳴は効かんよ」
「カランバッ? そんなにシンジ君の魂のレベル高いのでスカ?」
「お前もシンジから聞いているだろう。四人組の同級生から日々、暴力を振るわれていると。奴らは勇者の末裔だった」
「オウィ? メゥジェスースゥ!?」
魔族の中でも、私たちの一族は元々イベリア半島の山岳地帯の出身ですから、興奮すると、あの地域の言葉が出てきちゃいます。スルーしてやって下さい(苦笑)。
「四人とも勇者因子を持っていたぞ。そしてシンジは勇者四人を前にして、中学以来四年間、生き延びてきたのだ。その意味が分かるな?」
「ハ、ハハァー」
ダモッタは、最後は日本語でかしこまって、魔族の降参のポーズ、両膝をついて頭を反らしました。勝者に首を捧げることを意味します。
「ちょっ、往来で土下座的なヤツやめてぇ!」
「シンジよ、ダモッタの首筋を軽く叩いてやれ。勝者として降伏を受け入れるという意味になる」
我が種族は序列争いが激しいのです。ですが上下が一度確定すれば、仲間として仲良くやっていきます。犬と同じですね(苦笑)。
「しかしダモッタよ。角がなくとも、魔法を使って、我(持国天)を奪うくらいの機転はなかったのか?」
ダモッタたちはヒト族の社会で目立たないように、角を削っています。角がなくても魔法は使えますが、精密な操作ができなくなります。例えるなら、ボクシンググローブを付けて野球をやる感じでしょうか。
「ア、ハイ。触手魔法を発動させようとしたのですが、やっぱり角がないせいで、うまく操作できませんでシタ」
「この馬鹿モンがぁ!」
ボクシンググローブで野球をやっていたとしてもですよ、五百年も練習すれば、セミプロレベルの野球技術は身につくでしょうが! なぜ魔法の修練をしてこなかったのか、角と一緒に魔族の矜持まで失ったのかと小一時間説教したい。
あ、シンジ君、もいだ両腕を早く付けなおしてください(汗)