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6. 嘘つきダモッタ

 ゼイ君は、無事、形代(かたしろ)の「チボルテック持国天」に憑依できた。彼を僕の胸ポケットに入れて、ゼイ君と「声を使って」話しながら、「アトリエ・ダモッタ」に向かっている。


 ゼイ君は背中に、小型スピーカーの部品をしょっている。この持国天人形、もともと「後光(ごこう)」のパーツがついてたので、それを外して交換したらちょうどよかった。電気じゃなくて、魔法でスピーカーの振動板を操作して声を出している。少し中性的で、若々しい声だ。


「あれ? キリで顔に空けたはずの穴がふさがっている?」


「うむ。魔素(マナ)を実体化して、顔を形成した。これで表情もついたぞ」


「おお、その顔が元のゼイ君なんだね。イケメンじゃないか」


 僕がそう言うとゼイ君は、ニカッと微笑んだ。イケメン笑顔だ。小さすぎて一メートルも離れると、まるで表情は分からなくなるけどね……。



~~~~~~~~

 家から歩いてすぐにお店についた。僕の自宅や高校があるのは麻布区の狸穴町(まみあなちょう)で、その西隣の永坂町に「アトリエ・ダモッタ」がある。参議院副議長公邸と永坂更科蕎麦本社ビルに挟まれた古いビルだ。


 店長のトニー・ダモッタさんは一応、日本人。本人いわく、自分は戦国時代に種子島に漂着したポルトガル人の末裔(まつえい)で、先祖が帰化しているので漢字の姓もある。「多佗孟太」、と記してダモッタと読むらしい。そんな話を僕は小学生の頃から聞いていたけど、その根本から嘘だった。


 僕がよく知るトニー・ダモッタさんは、1543年に種子島に漂着した三人のポルトガル人の一人「アントニオ・ダ・モッタ」その本人だったのだ! 御年(おんとし)五百歳くらい。超・超長生き!


 つまりダモッタさんは魔族。魔王ゼイ君の二人の眷属(けんぞく)のうちの一人。あともう一人の眷属、ペショットさんは海運業(密輸業)をしている。彼は東南アジアを中心に活動していて、あそこら辺の悪いヤツらとは大体友達だとか。ダモッタさんたちは魔族だけど(つの)がない。ヒト族社会の中で目立たないように削っているそうだ。


 お店は、築三十年は経っていそうな四階建ての古いビルの一階だ。同じく看板も古びていて、そこには横書きのカタカナで「アトリエ ダモッタ」、その下に小さい文字で「無可動火縄銃・種子島天然酵母パン」と書かれている。ここはパンと火縄銃の工房なのだ。歴史の教科書では、日本に火縄銃とパンを伝えたのはポルトガル人となってる。そのポルトガル人とはゼイ君たちのことだったのだ!


 無可動火縄銃というのは、作り方もパーツも本物の銃そのものだけど、銃身内部を溶接して、実弾を発射できないように加工したものだ。この店では火縄銃を、美術工芸品として売っているんだ(裏では、実銃も密造していて、海外のコレクターに密輸している)。


 店の看板があるだけのそっけない店構え。ま、ダモッタさんの持ちビルだから、商売っ気がなくても余裕なんだろうね。とはいえ―


 はぁ。僕はお店の前に立ち、ドア横の張り紙をみてため息をついた。


「なんだ、ため息なぞついて」


「この張り紙。遠まわしに何度か注意したんだ。客の立場だから強くは言えなかったけどね」


 僕は不本意ながらも魔王ゼイモトの一味になってしまった。だから僕はもう、お客じゃない。遠慮なく、ベリベリと剥がしてしまう。その張り紙に書いてあったのは―


◆キリスト退散

◆イエズス会は入店お断り


 ダメでしょこんな張り紙!


「おい、なぜ剥がす? 店だって客を選ぶ権利はあるだろうが」


「今の時代SNSですぐに炎上するんだよ! ユーチューバーとか来ちゃうんだって! そんで『ポルトガル人店主の張り紙マジ卍』とか『デーモン閣下の親戚発見?』なんてコメントされるんだよ!? 僕たち悪魔なんだからさ、静かに目立たず生きてかなきゃダメだよ!」


「悪魔じゃなくて魔族、な。だが言いたいことは分かった。なんとも―」


「ヤアヤア、なんか騒がしいと思ったらシンジ君じゃなイカ」


 店の前で僕たちが話しているのが聞こえたようで、店内からダモッタさんが出てきた。彼は三十歳くらいの見た目で、目の色も髪も黒い。でも、顔の造りは彫が深くて、体格も普通の日本の成人男性より一回りは大きい。だから名前の通りの西洋人、て感じだ。


「ワオッ、その胸ポケットから出てる禍々(まがまが)しい妖気ナニゴト!? え、まさか、ゼイモト様!?」


 あーあダモッタさん、「禍々しい妖気」って言ってるよ。やっぱりゼイ君は悪魔、だよね?


「久しいな、ダモッタ。四百と七十年ぶりか。お前たちとは念話ができないのに、我の復活を信じて、何百年もパンを作り続けてくれたな。やっと礼を言うことができる」


 そう。精霊状態のゼイ君と意思疎通できるのは僕だけなんだ。ダモッタさんたちは、ゼイ君の存在は感じることはできたそうだけど、言葉は交わせなかった。


「アア! 本当にゼイモト様なのでスネ! ようやく再会できましタネ!」


 感動したダモッタさんは、笑顔で僕の両腕をガシッとつかむ。ちょっと痛いよ。


「ン、復活した、のですヨネ? シンジ君の魂がまだ残っているようですが、手違いデモ? 室内栽培しているマンドラゴラがありマス。それで彼を発狂させて、体の制御権を取り戻したらどうでショウ」


 ダモッタさんの手に力がこもる。う、動けない。彼は、目の前の僕をまったく気にすることなく「僕の心を壊す」提案をしている。


 うん。僕知ってる、こういう人。マンガやアニメでこういう悪役キャラ出てくるからね、調べたことがあるんだ。良心が無い、人に共感しない、平気で嘘をつく、罪悪感が無い、口が達者、上辺は魅力的……。


 サイコパス、ていうらしいね。こんなに身近にいたんだね、ハハ。タスケテェ……。


 なんてね。僕は今、案外冷静だよ。ダモッタさんは凄く力が強いし、冷酷な物言いしているけど、僕からすれば四天王の方が怖いんだよね。五百歳より十六歳の方が怖い。つまり、ダモッタさんは暴力沙汰には適性がない、そんな気がするなあ。この状況、切り抜けてみせようじゃないか。

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