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4. ひよっこ勇者とひよっこ魔王

 東京は麻布区永坂町にある「アトリエ・ダモッタ」。子供の頃からここの「種子島パン」を食べて育ったシンジは、当人が気づかないまま魔族の身体になっている。 


 魔族の外見的特徴として、額に二本の(つの)がある。シンジも数年すれば、生えるだろう。これまでシンジは、いじめで殴られた日には、無意識に魔族固有魔法「身体再生」を発動して治療していた。


 とはいえ魔族の初期魔法は、戦闘補助系ばかりで、直接攻撃できる魔法はレベルを上げないと習得できない。階段上にいる勇者の末裔を前にして、魔王は焦る。



~~~~~~~~

 こんにちは、前回に引き続き、私です。ひよっこ魔王です(泣)。


 ああっ、私たち魔族の初期魔法は殺傷力がないものばかり。これでは勇者を殺せません(汗)。ん、まてよ、手前の武田ハルコの位置ならば……


「テンタクロ・エスクーロ」


 威力はないですが、遠隔操作で触手を動かす魔法です。ハルコの足元から小さな影が動いて、彼女の足を払いました。よし、いけるか?


―ドシン

「キャッ」


 武田ハルコが可愛い悲鳴を上げて尻もちをつきました。態勢を崩した彼女は、階段を転げ落ちて―


「んなろっ」


 とっさに体勢を立て直しました。ちっ、落ちなかったか。おっと失礼。ひよっこ勇者とはいえ、身体能力が高いのは認めましょう。スカートがまくれて、階下の私からはパンツがよく見えますが、体は全く無事のようです……。むぅ? か、体が、ダルい?


 五百年も実体を持たない魂として過ごし、未熟な魔族の身体を無理して操作していた私は、相当に疲弊していたことを今さら自覚しました。意識が遠くなっていきます。ここまで、です。魔王の矜持(きょうじ)として、せめて宣戦布告だけでもしておきましょう。


「ふ、今回は、ここまでにしてやろう。次はその純白の、いや、やや汚れた白パンツを貴様の血で真っ赤に染めてやる。せいぜい残り短い命を惜しんでおくがよい」


 その言葉を聞いたハルコは顔を赤く染めてうつむき、震えだしました。おやおや? 今日のハルコは女の子の日だったようです。涙まで流しているのは、羞恥と怒りのせいでしょうか。そして残りの四天王も全員うつむいていますね。


 あ、もしかして私、やっちゃいました? 十六歳の女の子の前で、大声であの日だと指摘しちゃったセクハラ大魔王的な?


 ま、どうでもいいですね。私、ヒト族じゃないし。呆然となっている五人を背にして、私は悠々と立ち去るのでした(苦笑)。




〜〜〜〜〜〜〜〜

 私こと魔王は、四天王とのひと騒動の後、すぐに教室に戻り、自席について意識を手放しました。周りからは、織田シンジが机に突っ伏して寝ているように見えるでしょう。教師に注意されても、そのまま寝過ごして、終業時間となりました。そして―


―ドガアッ

「ガハァ」


 いきなり椅子が蹴飛ばされました。シンジの体はひっくり返って背中を打ちます。その拍子に私、そしてシンジも目が覚めます。ここから先は、シンジの魂が体の主導権を握ります。


「痛っ、な、なんだ!?」


 シンジが顔を上げると、武田ハルコが憤怒の表情でこちらを見下ろしているのに気づきます。


「織田シンジぃ、よくも恥をかかせてくれたじゃないの。お前のケンカ、買ってやるわよ。体育館裏に来なっ」


「え、え、何? なんのこと?」


 シンジは、階段から落ちてからの記憶がないので混乱していますね。念話して、とりあえず問題を先送りするよう指示します。


『今日はダメだ。色々調べなくてはならん。週明けに引き延ばせ』


「え、何? ゼイ君の気配が僕の体の中からするんだけど、どういうこと?」


『説明は後だ。このままでは半殺し、いや、殺されるかもしれん。だから自分から決闘を申し込め。月曜の放課後。ただし一人で来い、と言え』


「え、決闘するの? 僕が? ムリムリムリ」


 武田ハルコがシンジの襟元をつかんで、ぐいと引き上げます。


「うるさいっ、なにブツブツいってる」


「あ、あ、えっと……」


 今そこにある危機、目前の武田ハルコ。シンジにとっては、なぜ怒っているのか分からないでしょうが、どうせ、いつもいじめられているので今さらでしょう(泣)。混乱しながらもシンジは、私の声に従うことにしたようです。


「け、決闘だっ、月曜、放課後。ひ、一人で来いっ」


「ああ? 決闘だと?」


「ひ、ひゃい」


「チッ、月曜だな。ボコボコにしてやるよ」


 そう言ってハルコはシンジの胸を突き飛ばして、教室を出ていきました。ふぅ。私、調子にのって、勇者たちを(あお)りすぎました。私なら、毒殺、デマ、脅迫等々、弱いなりの戦い方ができますが、この体の主導権はシンジにあることを失念していました。反省反省。


「はあびっくりした。月曜は授業が終わったら速攻で逃げないとな~」


『決闘の約束をさせた(われ)が言うのもなんだが、月曜は欠席するか早退すればよかろう?』


「いやあ。暴力は苦手だからさ。僕なりの戦いをしてるつもりなんだよね」


『むむ?』


「どんなに殴られても、学校は休まない。早退も遅刻も、してやるもんか。出席日数が一つ増えればその日は僕の勝ちさ」


 そう言ってシンジは照れたように笑いました。


 うん、その心意気、ポジティブで素晴らしいと思います……。命がかかってなければ、ね。こういう考え方、危ないのでやめてください。本当に死んでしまいます(大汗)。

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