3. ゼイ君降臨
はい、こんにちは。引き続き、魔王ゼイモトが実況します。
「うわっ、なんかヤバくないッスか?」
木下トウジは心配そうに階下のシンジと四天王に交互に視線を向けています。けれど、四人に動揺はありません。
「別に。勝手に転げ落ちただけですわ。ただのマヌケです。でも死なれたら寂しくなるかもしれませんわね?」
そう言って四天王の一人、今川セナは、意味ありげな視線をもう一人の四天王、上杉ケンイチに向けます。
「ああ、寂しくなる。どんなに殴っても翌日にはちゃんと登校してくるもんな。よくできた人間サンドバッグだった」
ケンイチの言う通り。幸か不幸か、シンジの回復力は並外れています。どんなに殴られても、翌日にアザが残らない。それがかえって暴力をエスカレートさせていました。
「ちょっとお、いじめているみたいな言い方はよしてよ。ウチら仲良くじゃれ合ってるだけじゃん」
武田ハルコが笑いながら注意します。
「おっと、そうだったな」
四天王はニヤニヤと笑いながら、階下のシンジの体を見下ろしています。
頭を強打したシンジは臨死状態。決して笑える状況ではありません。ですが、その体がピクリ、と動きました。うめきながら半身を起こして、ぶつぶつとつぶやいているのは、そう、私です。
「ウゥ……。この体、やはり憑依するにはまだ未熟過ぎた。体内から魔力が抜けていく……」
私はシンジの魂を食べるのを後回しにして、急ぎシンジの体に取り憑き、損傷箇所を再生させました。それから彼の魂を食べようとしたのですが、手間取っているうちに、私の魂がシンジの体に完全に同化してしまった!
ああっ、こうなるともう、人格は別だけど根っこは同じ一つの生命体。シンジと私、二つの人格が共存する体となってしまいました(泣)。
シンジの人格はまだ目覚めていません。私は、五百年ぶりの肉体を確かめながら、ゆっくりと立ち上がると、階上の四天王を睨みました。うん? 彼らを包むオーラには見覚えがありますよ。
肉体を得て初めて気がつきましたが、この四人、かつて私を滅ぼした四人の勇者と同じオーラを持っています。四天王とは勇者の末裔だったようです(驚)。ですが、そのオーラは弱々しい。RPGで言えば、まだレベル1の段階でしょうか。私、格下相手には傲岸不遜な態度で臨みますよ。魔王、ですから。
「ふん! ひよっこ勇者どもめ。我が蘇った以上、お前の安っぽい『ウォークライ』なぞ通用すると思うなよ」
シンジ(私)の態度と口調がガラリと変わり、ふてぶてしくなった視線を受けて、不愉快そうにタツミが応じます。
「ハァ、ウォークライ? 勇者? なんだそりゃ。頭打っておかしくなったか」
「……ふむ。勇者因子について聞いてはおらんのだな。先の『ウォークライ』は、無意識で発動しただけ、か」
私が「ウォークライ」と言うのは、先のタツミの咆哮のことです。これは、ただの大声ではありません。標的の精神をゆすぶる一種の魔法でして、憑依前のシンジは、そのせいで身がすくんで足を踏み外したのです。決して、ビビったからではない、と彼をフォローしておきます。
「何をしたり顔してるのよ、シンジのくせに!」
武田ハルコが階段の縁ぎりぎりのところまで足を踏み出し、腕を組んで私を睥睨しています。ミニスカートなので、階下の私からは少しパンツが見えますね。白、ですか。小娘の下着などどうでもよいですがね。
「ククッ、記憶を受け継いでないなら好都合。四人まとめて死ねぇい! クワドラ・デセタ・エスクーラ!」
そう言って私は右腕を階上の四人に突き出しました。その迫力に四人は一瞬身構えます。ですが―
特に何も起こらない!?
「プ、ハハハ。なんスかぁ今のセリフ。右腕に封印されし闇の力ってヤツッスか? マジで頭大丈夫スか」
木下トウジが真っ先に笑い出し、四天王も続いて笑っています。私は自身の右腕をみて、愕然としました。
「なぁにぃ! ただの中級魔法が使えぬだとぉ!」
ここでようやく私は、魔王としての能力をほとんど失っていることを自覚しました。いったん依代と同化したからには、憑依はやり直せません。
シンジの魂が無事な以上、体の主導権はシンジになるでしょう。彼の協力なしには魔族として成長できません。下手をすると、これからずっと、ひよっこ魔王として生きていくしかないのです(涙)。




