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秘密基地

挿絵(By みてみん)


 織田シンジが近づいてきたッス。なんか妖しい雰囲気が漂ってるッス。


「ククク、木下トウジよ、今のやり取りを録画しておいたぞ」


 そう言ってスマホを見せつけてきたッス。動画に黒ヘビは写ってなくて、オレが平手打ちをくらって説教されてるところが写ってたッス。


「フザケンナッ、オレはやってねえ。ヘビみたいなモンがやったんだ。そのスマホを寄こせっ」


 オレは意外と素早い動作で、スマホを奪い取ったッス。だけど織田シンジは動じる様子がないッス。


「手遅れだ。動画は既に我が母上にメールした。母上は、教育心理学の教授だ。明日にでもカウンセリングに連れてこいと返信がきているぞ。読んでみろ」


 メールには、『家庭内のストレスが過剰な性衝動を誘発していると思われる。早急に心理的ケアが必要』とか何とか書いてあったッス。


「ケッ、誰が行くかっての」


「断るなら、動画をネットにアップするぞ。学校の皆が視聴するだろうな。それよりも我と母上だけに話をとどめた方がよかろう?」


……詰んだッス。もうオレに選択肢はねえッス。オレはぐったりとした気分で言葉を返したッス。


「はああ……、分かったスよ。カウンセリング受けるッスよ。だけどさ、それでも、それでもオレはやってねえッス。ヘビがいたんだって」


「ああ、勿論お前はやってない。我がでっちあげたのだからな。だが冤罪とはいえ、動画という証拠がある。お前がチカンを否定するたびに周りに呆れられ、孤立していくだろうな」

 

「ひ、ひでえ。なんで、なんで……」


 こんな時代、一度ネットに出まわったらもうおしまいッス。社会的に死んだッス。お先真っ暗ッス。


「お前に話がある。おとなしくついて来い」


 絶望的な気分でオレがついて行った先は、中ノ橋のたもとにある児童遊園だったッス。


 暗い……。


 児童遊園に踏み入って、今さらオレは気がついたッス。敷地内の照明が全て消えているんスよ。大通りの街灯がわずかに敷地を照らすだけ。ここは高架下で昼間でも薄暗いんス。小さな敷地には公衆トイレと三つのベンチ、申し訳程度の遊具が一つあるだけの寂しい公園ッス。敷地にはゴミが散らばり、トイレの臭いが漂ってきてるッス。


 都会の片隅のこの場所で、何が起ころうと気にする人はいなそうだなぁ。そう思ったら五月なのにうすら寒くなってきたッス。そして不安が高まっているところに、織田シンジが話しかけてきたッス。暗くて表情が見えないので不気味ッス。


「思い込みというのは、時に致命的だ。例えば、この児童遊園。ここは誰の土地だと思う?」


「え、麻布区か芝区のもんじゃないんスか?」


「ほとんどの住民がそう思い込んでいるだろうな。実際は、金杉橋から一ノ橋までの古川の沿岸は、とある海運業者の管理地だ。その業者が一部を公園にして一般に開放している」


 織田シンジは、カギを取り出して、「防災用土嚢(どのう)」と記された倉庫の扉を開けたんスよ。だけどそこに土嚢はなくて、下へと続く階段があったッス。


「その業者の会頭は我が一族の者でな。今夜は人目を避けたいので、照明を切っておくよう指示しておいた。降りるぞ、ついて来い」


 階段を降りた先は、地下船着き場となっていたッス。普段は閉じている水門が中ノ橋の真下にあって、橋下の影から人目を避けて船の出入りができるんだって。うへっ、いかにも秘密基地って感じッス。物語ならワクワクするところッスけど、脅されてここにいる身にすれば心細いだけッス。早く帰りてえッス。


 壁を見ると一面に木箱が何百もうず高く積まれているッス。中身は何かと聞いたら、油紙に包んだ密造銃二万丁だと言われたッス。は? 銃規制の厳しいこの国で? オレが信じてない様子を見て、彼は実際に箱から銃を取り出したッス。


……はは、本物の火縄銃ッスね。もうイヤだよぅ、関わりたくねぇ。脇の下から汗がだらだら出てきたッス。


「木下トウジよ。お前がヘビだと思い込んでいたもの、それはこんな姿じゃなかったか? テンタクロ・エスクーロ」


 織田シンジが何かを唱えるとオレの足元から黒い触手が這い出てきて、右脚に絡みついたッス。


「ぎゃあああ」


 なんだこれなんだこれなんだこれ。ああっ、怖くて気が狂いそう。


「クックック。これはヘビではない。我の魔法だ。我はヒト族に(あら)ず。魔族よ。かつては魔王ゼイモトと呼ばれ、今は、この織田シンジの体に憑依している」


「ま、魔王……」


「今から、武技『二撃必殺』を放つ。この拳は一撃目でお前の体の自由を奪い、二撃目で魂を砕く。魂を砕かれれば、ヒト族の輪廻の輪から外れ、お前は死ぬ」


 そう言って魔王は拳をオレの胸に撃ちつけたッス。


「ウグッ」


 ドンッ、という衝撃。体から完全に力が抜けて、尻もちをつく。痛みはなかったけど腰が砕けて動けないッス。そして魔王はとどめの一撃をオレの頭に向けて放ったッス。


 ゴツン、と拳が額に触れた瞬間、胸の奥がギュウウと締め付けられたッス。グゥゥ、息が詰まるッス。すぐに視界が真っ黒になって、そのままオレは意識を失ったッス……


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