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仲魔を作ろう

 翌日の土曜日、日が落ちて間もない時間帯、僕とゼイ君は狸穴町の南隣、新網町に来ている。この町のカラオケ店「バル・一夜城」を、隣のビル陰から見張る。この店に四天王の取り巻きの一人、木下トウジが毎週末に一人で歌いに来るらしい。


『あ、彼が店から出てきたね』


「うむ、探偵の情報通りだな」


 今僕は、念話でゼイ君に話している。織田シンジの体は、僕が優先権を持っているけど、一時的にゼイ君に制御権を明け渡している。魔族を増やすために織田シンジの体が必要なのだ、そう説得された。僕の体を使ってエッチなことをするのかと思ったけど、そうじゃなかった。


 ヒト族の中には、(まれ)に魔族因子を持つ者がいる。そして種子島パンを食べるとその因子が活性化され、ヒト族以上、魔族未満といった状態になる(僕はさらに特殊体質で、パンを食べただけで魔族になったけど。あとクラさんも)。


 とにかく、麻布区には、種子島パンを食べたことで、魔族因子が活性化した人が何人かいる。そういった人は種子島パンが大好物になる。パンを食べると心身ともに力がみなぎってくるからね。だから必ずお店の常連になる。ダモッタさんは探偵を雇ってすべての常連客を調査していた。


 木下トウジもその一人だ。彼は高校になってから種子島パンを食べ始めたから、常連としては日が浅い。けれど、ダモッタさんは既に調査済だった。


 彼は四天王の取り巻きをしているけど、もう半年もパンを食べ続ければ、魔族フェロモンが(にじ)み出るようになって、四天王から叩き潰されるだろう。彼に警告して種子島パンを食べるのを止めさせる、という選択肢もある。君ならそうする?


 僕は仲間が欲しい。ヒトの心を持ったまま魔族の体になってしまった僕と同じ仲間が欲しい。だから魔王ゼイ君の提案に乗った。ゼイ君が言うには、ヒト族と魔族の中間状態にある木下トウジを魔族側に傾けるには、感情を強烈に揺さぶる必要がある。例えば、恐怖、そして絶望。



〜〜〜〜〜〜〜〜

 ドモ! 木下トウジッス。だいたい週末は一人でカラオケ店に来てるッス。今、四天王たちの得意曲を流しているけど、歌うためじゃないんスよ。合いの手の練習をしているッス。「トウジとカラオケに行くと気持ちよく歌える」、そう四天王に思ってもらうために、密かに練習してるんスよ。


 バカバカしい? かもね。でもイヤイヤやってるわけじゃないッスよ。オレは勉強も運動も得意じゃないけど、愛想が良くて目端(めはし)が利くんスよ。小さい頃から、近所の八百屋のおばちゃんや、そば屋のおじちゃんのとこでお手伝いして、お菓子やお小遣いをもらってたんス。オレは腰が軽いんスよ、いい意味でね。


 今日はカラオケで散財したけどアルバイトも色々やってるッスよ。なるべく家には居たくないしね。継父とはソリが合わないんスよ。母さんのことは好きだし、あの男の子供だけど、十一になる弟のコイチロウと、八つの妹のアサヒはかわいいッスよ。だからオレ抜きで、仲良くやってりゃいいんじゃないスかねぇ。あ、小遣いにも友達にも困ってないから、同情はしなくていいッスよ。オレはオレで居場所を見つけるつもりッスから。


 話を戻すと、あの四天王の先輩方は凄いスよ。オーラがあるっていうのか、強者の風格っていうんスかね。とにかく主人公感にあふれてる。あの人たちについて回れば、なんかのきっかけで、オレも一皮むけるんじゃないかって思うんスよ。机に向かって勉強してるより、使いッ走りしてる方がオレには向いてるしね。当分は、「取り巻き道」をまい進するッス。


 ひとしきり練習して満足したオレは、店を出て帰ることにしたッス。家は飯倉公園に面したアパートッス。一ノ橋から赤羽橋に向かう古川沿いのこの道は、車通りは多いけど歩いてる人は少ないんスよ。酔った様子のお姉さん方二人がゆっくりと歩いているんで、オレは、追い越そうと足を速めたッス。


 オレが前を歩く二人の女に近づいた時、女の足元から黒い何かが這い出してきたッス。げぇ、ヘビ?


 薄暮の下でよく見えないけど、色は黒くて、ヘビのような形、子供の腕くらいの太さがあるッス。それが女の足元から垂直に伸びて、腰の高さに達すると、さわさわと女二人のお尻を交互に撫で回したッス。


「きゃあああ」


 二人の女は悲鳴を上げて立ち止まったッス。一人は涙目で、一人は憤怒の形相で振り返ったッス。と同時に黒いヘビは消失したッス。


「ちょっとアンタ! 高校生でしょ。いくら性欲あふれるお年頃だからってね、チカンは犯罪なのよっ」


「へ? いや、オレじゃないッス。何かヘビみたいなのが―」


―バチンッ


 思い切り平手打ちされたッス。


「言い訳しないっ。今回だけは見逃してあげるから、二度としないこと! いいわね!?」


 勢いに呑まれたオレが思わず頷くと、二人の女性は踵を返して去っていったッス。


 はぁぁ、なんでこうなるんスか。訳が分からないッス……。オレは気持ちが萎えしぼんで、しばらく呆然と立ってたんスよ。すると視界に見知った人間が入ってきたッス。織田シンジ? なんであの人がここにいるッスか? なんかイヤな予感がするッス……。

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