お荷物な荷物係なりに
遅くなりましたが社訓の4でございます
このような小説でも全力の自己満足で完結まで書いていきたいです!!
社訓その4 安全第一
魔王城からワイバーンにのって20分(ワイバーンの速度は大体60km)
毒の溢れ変える毒沼地帯手前の岩影に僕らは降り立った
嗅いだことのない臭いと数メートル先から立ち上る紫色の煙は毒沼という非現実に実感を与えていた
「あれが、毒沼地帯?いかにもって感じですね」
「気を付けな平野、スーツの力で毒は基本効かないつっても
吸い続ければ中毒を引き起こすかもしれないし、目眩や嘔吐に頭痛もありえる
とにかく毒の成分がわかるまで、具合が悪くなったら鞄の中に大量にしまいこんだ毒消しを飲みな
体内の毒素を和らげてくれるから」
「あれ?完治しないんですか!?」
「あぁ、皆そう誤解するんだよねぇ・・・ オイラも最初は勘違いしてたなぁ」
「栄養ドリンクと同じ、飲んだところで根本的な改善にはなってない
毒の治療にはクラーチェさんとこの医務室で世話になるしかないのが現状さ」
いよいよもってリアルなファンタジーだと意識し始める
毒消しはあくまでも応急処置、その応急処置がこんなに必要になるかもしれない場所にいる
唾を飲み込んでから二人の案内で、付近の村を迂回する形で毒沼地帯へと侵入していく
最初に見た光景は、思っていたよりも生物が多いこと
聞けば植物が毒を吸い上げ その植物から虫が蜜を吸い その虫が死んで土の養分となる
この地帯特有の生態系のお陰で毒素を多く含んだ植物が大量に生い茂っていた
「じゃあオイラは沼のサンプル手に入れてくるねぇ」
そう行ってオッグさんがゴム手袋とガスマスクを着用して沼の方へ
僕とレフゥさんは植物を何種類か引っこ抜いては試験管にいれて蓋をする作業に移った
「さて、んじゃあナイフで背の高い植物からサンプルを頂きますかね」
「足元にも草は沢山ありますよ?」
ヒマワリのような植物から種と葉を摘み取りながらナゼか足元の葉を取らない
というより、取らせてくれない事に疑問を感じて何となく質問してみた
「毒が空気より重い場合、低い位置に貯まりやすいからさ
地面踏んでガスが吹き出さないように気を付けな?貯まったガスが吹き出したら
すぐに毒消しを飲むんだよ?」
ものすごい心配してもらってる そこまで頼りないだろうか?
種の入った試験管をポーチにしまいながら
ふと頭によぎる そういえば沼の水汲みにいったオッグさん大丈夫かな?
心配になってきた ご飯の恩もあるし尚更何かあったら大変だ。
「オッグさーん、そっちは大丈夫ですかー?」
声をかけながら後ろを振り向くとそこには
・・・魔王軍の魔物なのだろうか?ボロボロの服にズタズタの身体 ゾンビが目の前に
いや違う 感覚が麻痺してきてる?突然の事だからか?どうみてもそんな様子ではない
身体から漂う腐乱臭と恐ろしい外見に顔が強ばり、声が出ない
オークやエルフのいるファンタジー世界なのだから、そりゃあいても不思議じゃあない
魔王の配下でも何でもない 野良魔物が!
怖くて怖くて、冷や汗が止まらない今すぐにでも走り出したい
でも、足が震えて・・・動けないっ
ゾンビの手が爪をたて牙をむき出しにする
ねちゃっねちゃっ 泥からかゾンビの身体からかも判別できない気持ちの悪い音を立てながら
近づいてくる現実味の濃い、生きた死体という矛盾した化け物
今度こそ 僕は死んだ そんな考えが頭によぎる
しかし 僕は恐怖のあまり忘れていた
すぐ隣には 前の会社ではいなかった<頼りになる先輩>がいることを
「おいこら腐れ野良・・・、アタシの後輩に手ぇ出すとは良い根性じゃないの」
ガシッ、とゾンビの右腕が誰かに掴まれる
いや訂正しよう その誰かとは言うまでもない
入社30年目の大先輩 エルフ族のレフゥさんだ
ミシミシと音を立てながらゾンビの腕を掴んで離さないレフゥ
いつの間にか、左手には自己紹介の時に聞いてはいた斧をもっていた
「平野も平野!こういう野良魔物に遭遇したら助けを呼ぶ!!
報告、連絡、相談は魔王軍の基本なんだからな?
ま、私がギリギリまで気づけなかったのも悪かったけどさ」
「すっすいません・・・ってわぁ!!ゾンビっ前!!前!!」
<ゾンビは仲間を呼んだ!>
<無数のゾンビが現れた!!>
げっ とレフゥもばつの悪そうな顔を
流石に数も数でちょっとしたホラー映画のような大群だ
「こりゃちょいと・・・うぉーいオッグ
いい加減気づけってんだよ!どこまで水汲みにいってんだ!?」
「い、今やるよぉ~~!!」
ゾンビの呻き声の中、オッグさんの声が聞き取れるが
この大群も何もしない程無能ではない 数が揃えば当然一気に襲いかかってくる
小さくレフゥが舌打ちすると、
掴んでいたゾンビをヌンチャクのように振り回し
もう一体のゾンビにぶち当て吹っ飛ばした
次の左から噛みつこうと襲いかかるゾンビには
右拳で顎を砕いて 喉を掴み、そのまま地面に叩きつける
何体か一斉に襲いかかれば自慢の斧を横凪ぎで蹴散らしていく
「頭の悪いゾンビが何十集まろうが大した敵じゃあないんだけどなぁ」
レフゥの視線が平野を横目に捉える
一切戦えないバックパッカーという職業では
戦いにおいて<お荷物>状態だ。
それは平野自身もよくわかっている
レフゥが自分を守りながら戦っている事で嫌と言うほど実感させられる
異世界に来た一般人の力など、この程度のものか
悔しさと恐怖の中で、平野の脳は不思議と落ち着いていた
役に立ちたい その一心で考えを巡らせていたお陰か
次第に考えは<何故毒沼地帯にこれほどゾンビがいるのか?>に行き着く
(此処にこれだけの人が死んでいたのは何故?当然毒だ
身体や衣服は腐敗でボロボロでこそあったが傷のようなものは一つもなかった
彼らは 毒で死んだ その彼らが・・・<何故自分を真っ先に襲ったのか>)
「・・・もしかして」
平野はバックパックに手を突っ込んだ
頭の中でイメージするのは・・・鞄の中身を99個
そう、毒消しを取り出せばそれを全て上に投げていく
なるべく遠く、なるべくバラバラの方向に
するとゾンビ達は投げて飛んでいく毒消しを目で追い、
我先にと毒消しを拾おうと飛んでいった先へと向かい始めた
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・どうなってんだい?こりゃあ」
「ぞ、ゾンビが散り散りに・・・毒消しを取り合ってる?」
その光景に、ようやく合流できたオッグと戦闘で疲れたレフゥも呆然としていた
平野と言えば以前何本かの毒消しを四方に投げていた
「彼らは多分僕を襲ったんじゃなくて、
鞄の中にある毒消しを求めていたんだと思ったんです
このゾンビは多分、近くの村で毒の治療が受けられず亡くなった人たち
だから僕の鞄の中に大量に溜め込まれた毒消しが欲しくて」
「ゾンビとして、こうして出てきたって訳かい
確かに毒沼地帯の周辺に小さい村がいくつかあったけど・・・」
斧をしまえばオッグに目配せして それにオッグが頷く
祈るように手を合わせ、祈りのような言葉を静かに呟き始めた
「残念だけど、野良のゾンビである以上
アタシらにできんのはこれくらいさ
オッグの浄化呪文でここにいるゾンビ粗方浄化してもらう」
「ここの毒結界、はやく張らないとですね」
浄化呪文の光が、一体ずつ全てのゾンビを包み込んでいく
その光景を見ると思い出すのは
上の不始末で尻拭いをさせられてきた過去の自分だった
「ぶふぅーーー流石に疲れたよ」
「おぅ、お疲れさん!とりあえずサンプルも手に入れたし今日は引き上げて
今日はパーーッと美味いもんでも食って気分を変えようじゃないさ」
「あ、じゃあ僕の部屋で焼き肉でもします?ホットプレートありますから」
「じゃあオイラ、お肉たぁくさんもってくるねぇ?」
「よぉし決まりぃ!!ビール代はアタシが出してやらぁ!!」
暗い空気を吹き飛ばすように 僕らは一度毒沼地帯を後にした
サンプルはクラーチェさんに渡して結果は一週間後
それまでは道路整備の企画案でも考える事になった
こうして 僕の異世界でのお仕事一日目は無事に五体満足で終わったのであった
一方、魔王城・玉座の間
「心臓に悪いなぁーーー!ゾンビ出るとか想定外過ぎない?」
魔王は水晶で今回の出来事の報告を受けていた
「しかし、人間にしては中々柔軟な発送と判断ですね
相手を観察し、求めている物で気を引く・・・商業面でも今後活躍が見込めるかと」
「うんうん楽しみだねぇ 今後も期待してるよぉ 人間君」
次回更新は未定である!