ヒーラーオークとエルフウォーリア
魔王軍に無事(?)入社した平野
いきなりの配属先に備えて眠った彼が次の日目を覚ますと
誰かが朝食を作っている!?気になる社訓3 開幕です
ホワイト企業な魔王軍 社訓3 新しい仲間とは仲良くしよう
ダンジョン、迷宮や洞窟、古い遺跡などが含まれる
ロールプレイングゲームではお馴染みの場所、魔物達が潜み・・・一番奥には危険な魔物が!
・・・と、ここまでが普通誰もが想像するだろうダンジョンのイメージだが
実際というか、現実はまるで違うわけで
「えっと、ダンジョン発展部というのは?」
「洞窟や廃墟を整備し、周囲にある村との連携でこれを維持・発展させる部署です
魔王軍が来たから雑草のようにダンジョンがポンポン出来るわけないじゃありませんか」
魔王様を抱き上げ、頬擦りしながらも真面目な顔で淡々と説明する秘書さん
魔王様はジタバタと脱出を試みながらも話を続けてくれる
「んぐーーーー!だ、ダンジョンの安全性や耐久性に
ふんぬーーーーっ 周囲の環境や地質の調査も必要だけど
一番大事なのが内部の生態系かなっあーーーーーー!!?」
「はぁー、ジタバタする魔王様最高です・・・
ペチペチあたる抵抗はご褒美ですね 興奮します」
「と、兎に角!そこに平野くんの力が必要だと思った訳だよ!
入社してまだ短い二人の先輩が色々教えてくれるからっ詳しくは彼らに聞いて・・・
いい加減離せぇええええええええええええええ!!」
大丈夫かな、この魔王軍
時刻は午後1時、魔王様の厚意で僕は自宅のマンションと自由に行き来できるよう
扉に魔法をかけてもらった・・・考えてみれば僕が自殺しようとした時には来ていたんだから
こっちの世界を行き来するくらい造作もないのかもしれない
ベッドで横になって天井を見つめる
自殺未遂からたったの数時間で起きた出来事を少し整理してみた
「いきなり魔王にスカウトされて
気づいたら魔王の城の前にいて・・・あれ?
今さらだけど何で門前?普通ベッドの上じゃない?
・・・か、考えないようにしよう えーと
クラーチェさんに適正職業をみてもらって・・・ダンジョン発展部に配属になって」
一通り振り返り終わると、ふぅ・・・とため息をついて天井を見つめる
本当に立ったの4時間ちょいで飛ばしすぎじゃないか?僕の異世界生活
・・・いや、半異世界生活?普通にもとの世界に戻ってこれるし・・・窓の外は普通に今まで通りの風景だ
「小説とかだと、行ったきりだよなぁ普通」
もしかして、夢オチじゃないよな?なんて考えるが
うん、城門の前で感じた地面の冷たさと、・・・手についた土汚れは本物だ
ともすれば明日はダンジョン発展部に行かなきゃいけないのか・・・
自分の職場、与えられた仕事・・・初日から寝坊するわけにもいかない
何より化け物の巣窟で寝坊とか怖すぎる
前の職場での上司の理不尽さを思い出すと、早く眠らなければと目をつむる
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次の日 香ばしい香りと肉が焼ける音に体はゆっくりと起き上がる
誰かが朝食を作ってくれているのだろうか?有りがたいことだ、独り暮らしでは食事を疎かにしがち・・・
「え?誰が料理してるのこれ」
一気に目が覚めた、恐る恐るキッチンの方に視線を向ける
誰かが ベーコンと卵を焼いてる
しかもスゴく美味しそうにだ。コトコトと鍋から食欲を刺激する香りと音が聞こえれば
いやいや、それでも見知らぬ誰かが作っている事態への安心には繋がらず
しかも頭が恐怖で目覚めてきたお陰か、風呂場からも誰かが使っているらしい音が・・・!!
「おぉいオッグ!!こっちの世界の風呂って面白いぞ見てみろよー!!」
「ダメだよレフゥ、今ベーコンエッグとコーンスープ作ってるんだから
あとはサラダとデザートは冷蔵庫・・・って言う機械に入ってた甘いヨーグルト
ご飯を作る以上、例えお風呂がスゴくても火から目を離さないからねオイラは」
一人は、男のような口調だが声からして女性だろうか?
もう一人は、背中だけだが大柄でプロレスラーのような体型をしている
見間違いじゃなければ、耳が少し尖っているような・・・あとチラッと見えたけど大きな牙があるような
ぐぅ~~・・・ぅ
空腹な僕の胃袋よ、何も今鳴かなくたっていいじゃないか 完全に気づかれた
オッグと呼ばれた男がゆっくりと振り替える 第一印象 豚
人間の体に豚の顔、間違いない オークって奴だ
「ひぇっ・・・!?」
「あぁ、起きたんだね?おはよう平野君
待っててね、すぐスープ出来るから」
ニッコリと微笑み、鍋に向き直ればふたを開けて中身をかき混ぜる
甘く優しい匂いが部屋に広がってくるが・・・いや、流されませんからね?誰だ!?
「ど、どちら様でしょうか・・・!?どどどっどうしてぼっ僕の名前を?」
明らかに化け物と呼んでも間違いない相手に 可能な限り失礼のないように敬語で訪ねる
まだ掛け布団からでていない足は震えているが・・・ うん、現実こんなもんです
朝起きてヤバそうなのが自分の家にいたら誰だって足がすくんだり震えますって
「あぁ、ごめんね 自己紹介まだだったよね?オイラはオッグって言うんだ
今お風呂場を勝手に使っちゃってるのはエルフのレフゥ
オイラ達、ダンジョン発展部に勤める 君と同じ社員だよ ってアダッ!?」
パコーン、と風呂桶がオッグの後頭部に直撃すればバスローブを雑に着て現れた
現れた・・・は?
「ちょっ!?まっ前っ前だだ開・・・!!」
「くぉらぁオッグ!!何勝手にアタシの分まで自己紹介してんのさ
折角ここに来るまでに印象に残る自己紹介考えてきたってのに
まぁいい、紹介の通り アタシがレフゥだ よろしくな新人君」
透き通るような白いお肌、銀色の長髪、たわわな果実にナイスバディ
想像してたエルフよりも何だか逞しすぎる気もするが いや前を閉じて欲しい
自分の顔を両手で覆いながらもオッグさんに訪ねる
「い、いつもこうなんですか!?」
「彼女、あまり異性とかまるで気にしないからねぇ・・・オイラも正直気が気じゃないよ」
「なぁにコソコソ言ってんだい?ホラホラ朝飯食べて元気に出社するよ
今日は記念すべき初調査なんだからね!」
オッグが頭を数秒さすりながら器にコーンスープを注いでいく
一人で食事するのには少し大きかったちゃぶ台が少し狭く感じる程に朝食が並べられるが・・・
「いや服を着てくださいレフゥさん!!」
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朝食の後、改めて自己紹介することになった
まずは豚顔の巨漢、オーク族のオッグ
改めて見ると一般的なオークの印象とは違い、かなり穏やかな目をしている
赤いモヒカンヘアーと口の端からつき出した牙なんて、まんまオークって感じだ
体はガッチリとしているが、職業<クラス>は何とヒーラー<回復職>だそうだ
魔王軍入社二年目ではあるが、先輩というよりは優しい親戚のおじさん そんな印象を受ける
因みにレベルは80で 装備は回復職とは信じがたい程重武装だった
次にこちらも鍛え上げられた身体のエルフ、レフゥさん
エルフというと、淑やかで肉なんて食べないイメージだったが
「普通に食べるに決まってるじゃないか、木の実だけで生きてけるわけないだろう?」
ごもっともである、頼りになる姉御のような彼女は入社30年目
僕やオッグよりも遥かにベテランな訳だが 別段それで威張ったりしない
職業は大きな斧を振り回して戦う 闘戦士<ウォーリア>
防具は軽装のライトアーマーというオッグとは真逆の装備編成
そして、僕自身の自己紹介の時・・・
開始してから大体数十分で二人が号泣しだした
「ぶごっ!フゴォオオオオ!!あぁぁんまりだぁあああああ」
「苦労してきたんだねぇアンタも・・・!!」
自殺未遂者である事にもだが、前の会社での事では特に僕を励ましてくれたり
今後は楽しくなるぞ、と励ましてくれたり うん いい人達だ
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「毒沼地帯・・・ですか」
スーツに着替え魔王城の廊下の途中
にこれから向かう場所<ダンジョン>についていくつかレフゥさんに質問していた
「そんな緊張した顔するんじゃあないよ 別に毒沼に足突っ込むような真似はしないさ
アタシらがやるのは、毒沼の道路整備と配属させる魔物の選別あとは結界を張るくらいなもんだよ」
「結界、ですか?」
「そりゃそうさ、毒の沼だって蒸発すれば気体になっちまう
風向きによっては周辺の村に大打撃を与えかねないだろう?そこで魔王軍の出番さ
毒沼地帯を安全に突っ切る道路を作り、風で毒が流れないように結界を張る
一度張っちまえば、あとは配備した魔物が定期的に点検してくれるってわけだ」
確かに、考えてみればゲームの世界では当たり前のように毒の足場を通るキャラがいるが
皮膚から毒が侵入する場合があるなら、当然蒸発して気化する事も考えておくべきだ
聞けば結界は強い魔物がいる証拠であると同時に一般市民の立ち入り禁止の印でもあるという
ただの毒沼一つでも、こういう整備が必要なのは 本当に現実的な異世界体験だと改めて思う
「平野には、バックパッカーの力でストック限界まで毒消しをもってもらうよ?
年のためマスクしてきな、配布されたスーツ着てるから完全無効ってわけじゃあないんだからね」
マスクを受けとると、丁度オッグが後ろから追いかけてきた
少し大きいくらいのリュックを持っている・・・えらく重そうに
「ぶふぅーっ、これ重いよぉ999個の毒消しを9999スタックなんてさぁ」
「平野用のリュックなんだ、アンタが持っててもそりゃ重いだろうよ
ほれ、さっさと背負いな?心配しなくてもバックパッカーはリュック内の荷物の重さは感じない
潰れたりしないんだから、さっさと背負った背負った」
「は、はい・・・うわっ軽い!?」
まるで中身がないかのような軽さだ
だが中になにがつまっているかは背中の感触でなんとなく分かるし
中でちゃぷんっと液体が揺れる音も聞こえる
ハズレ能力かと思ったけど、結構スゴい能力なのかもしれない・・・!荷物持ちとしては!!
それにしても、毒沼地帯が文字通りの場所だとは言っても・・・こんなに毒消しは必要なのか?
この時は、僕はそう考えていた だが僕は忘れていたんだ
整備が必要という事がどういう事かを
( 私)年内の投稿はこれが最後となります
皆さんよいお年をーーー!