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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 1 産廃ゴールドラッシュ  作者: 石渡正佳
ファイル1 産廃ゴールドラッシュ
18/22

再立入

 「エターナルクリーンを立入検査したいんですがかまわないでしょうか」恒例となった朝のミーティングで伊刈が仙道に進言した。

 「おい俺をそんなに困らすなよ。ガサ入れ前に証拠を荒らされたくないって言われるに決まってるだろう」

 「ほんとにガサ入れやるんですか。現行犯逮捕からどれだけ経ってると思うんですか」

 「正直なんでこんなに手間取ってるのか俺にもわからん」

 「警察が証拠を押収してしまってから立入検査をしても遅いですよ」

 「それはそうだが」

 「長嶋さんも言ってましたが警察は令状をもらわないと立ち入れないからぐずぐずしてるんでしょうけど、うちには立入検査証があります」

 「だけどおまえ市内の業者じゃないんだ。処分業の許可を出してるのは県庁だぞ」

 「うちの市だって収集運搬の許可を出してるじゃないですか」この当時は収集運搬の許可が都道府県に集約されておらず中核市にも許可権限があった。

 「それは理屈だけど県警と県庁をさしおいてうちが先に入るってのもな」

 「もうエタには一度行ってますよ」

 「あの時と今とは事情が違うだろう」

 「今の方がもっと立ち入る理由があります」

 「わかった。おまえには負けたよ。だけど俺の一存では決められんことだ」

 「それじゃ誰が決められるんですか」

 「本課、県警、県庁、どこまで相談すればいいのか俺にもわからん」

 「誰も決められないから結局は現場の責任でやれってことになるんですよ。誰も責任を取りたくないんですから。それがお役所ですよ」

 「なるほどお前の言うとおりかもしれんな」

 「やっちゃえばいいんですよ」

 「そう都合よくいくか。とにかく県警の補佐に相談してみるか」

 「それじゃ根回しお願いします」

 仙道は市庁が県警よりも先にエターナルクリーンの検査に入ってもいいかと県警本部に相談した。

 「市の調査権に基づいて検査するということですな。それでいったいどんな調査をしたんですか」

 「現場で五十点ほど証拠を拾ってきましてね」

 「ほうそれはすごい。それじゃチャートも作成したんですな」令状を取れずにまごまごしていた県警生活経済課の弥勒課長補佐は市庁が独自に現場から証拠を収集してルート調査を実施し、エターナルクリーンの介在を特定したと聞いてむしろ興味津々だった。

 「県警から出向されております長嶋さんががんばってくれましてね」

 「長嶋がね。なるほど」

 「どんなものでしょうな」

 「行政が権限に基づいて検査をするというのを県警がやめろという理由はありませんからな。ですがもしも重要な証拠が出たらぜひ証拠保全のご配慮をいただきたい」

 「もちろんです。必要とあれば私どもの収集した証拠はお譲りいたしますよ」

 「そう願えるとありがたいですな」弥勒補佐は市庁が検査に入ることをとがめはしなかった。

 「県警のOKが取れたよ」仙道が伊刈の席に自分から近付いて告げた。

 「ほんとですか」

 「潮時を見て引けよ。わかってると思うけどこういう仕事には間合いが大事だぞ」

 「大丈夫ですよ。不法投棄をやったら罰がある。それくらいのことはみんなわかってますよ」

 「決定的な証拠を見つけたらすべて県警に引き渡す約束だぞ」

 「わかりました。明日でもいいんですか」

 「善は急げだから県警の気が変わらないうちに行ってこい。明日というわけにもいかんが明後日ではどうだ」

 「ありがとうございます」

 「たまには俺にも仕事させろよ。実はこの検査は本課にも県庁にも内緒だ。後で問題になったらその時は俺が責任を取る」

 「技監それは」

 「いいってことよ。県警より身内の方がめんどうくせえよ。それが組織ってもんだ。俺にできることはこれくらいだよ」仙道はどんと伊刈の背中をむせるほどの勢いで叩いた。

 伊刈は国道沿いの喫茶店ミハスに喜多を誘い、いつもの中二階のテーブル席についた。

 「実はお願いがある」コーヒーが届くのを待って伊刈が切り出した。「明日のエタの検査では喜多さんに主役になってほしいんだ」

 「え、そんなのありえませんよ」

 「喜多さんは税理士の勉強をしてるでしょう」

 「それと明日の検査となんの関係があるんですか」

 「明日の検査では会計帳簿を見るつもりなんだ」

 「どうしてですか」

 「マニフェスト(産業廃棄物管理票)の綴りを調べてみたところで不法投棄の証拠は出ないと思わないか」

 「確かに無許可のダンプにマニフェストは切りませんね」

 「だけど不法投棄だって金を払っていれば会計帳簿には載せているだろう」

 「なるほど載ってるでしょうね。ポケットマネーってことはないと思います」

 「だろう。それを二人で探したいんだ。これは喜多さんにしか頼めない仕事だよ」

 「税理士の勉強をしてるといったって実務経験はないんです。お役に立てるかどうか」

 「大丈夫できるよ」

 「班長の発想って公務員らしくないですね」

 「税務課だったらこういう検査は普通だろう」

 「それはやると決まっているからですよ。産廃の検査で会計帳簿を調べろなんてどこにも決まってませんよ」

 「喜多さんがいてくれたから可能な検査なんだ」

 「班長だけだってやられたでしょう」

 「まあとにかく頼む」

 喜多はぐっと息を呑んで一呼吸おいた。「わかりました。がんばります。それじゃお先に」

 「なんだ早いな」

 「そろそろスローライフからエリちゃんが上がりますから」喜多は顔を赤らめながら立ち上がった。なんと高校生と付き合い始めたようだった。税理士の父が知ったら絶句することだろう。

 いよいよ明日はエターナルクリーンの立入検査だった。伊刈にとっては初めての本格的な産廃業者の立入検査だった。つまり素人同然ということだったのだが、何かとほうもなく前代未聞の検査になるんじゃないかという予感がしていた。

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