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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 1 産廃ゴールドラッシュ  作者: 石渡正佳
ファイル1 産廃ゴールドラッシュ
15/22

Xデー

 六甲建材が逮捕を覚悟で大胆不敵にダンプを集めていることには県警も頭を痛めていた。何度も検察にかけあい、ようやく現場に踏み込むXデーが決まった。捜査員として借り出されていた長嶋は、林の中でかねてマークしていたダンプが廃棄物を投棄するのを待ち続けていた。

 「これからダンプが五台進入する。最後のダンプがダンプアウトしたら突入決行だ」現場の指揮を執っている生活経済課の弥勒補佐から連絡がきた。

 「了解しました」いよいよその瞬間が迫った。長嶋は超望遠レンズを装着したニコンF5を構えた。すでに空が白みかけていた。

 「班長来ました」相棒の巡査部長が言った。

 ダンプが林道を進んできた。モギリがチケットを回収し先頭のダンプをジャンプ台にバックさせた。

 「どうだ?」弥勒補佐が聞いてきた。

 「最初のダンプが荷を空けたところです」

 「ナンバー確認したか?」

 「はい撮りました」

 「五台全部空けるまで待つぞ」

 「了解です」この当時はまだ不法投棄未遂罪がなくダンプに産廃を積んだままでは運転手も捨て場の作業員も検挙できなかった。

 「一台目の投棄が終わりました。二台目が準備中です」

 「よしいいぞ」

 「二台目投棄終わりました。三台目バックします」

 ダンプがばらけてしまった場合は林道の出口を封鎖する予定だったが五台目が投棄を追えるまで見張りがダンプを待機させたのでその必要はなかった。

 「五台目バックします」

 「よし検挙だ」とうとうその瞬間がやってきた。周辺に待機していた覆面パトカーが一斉に現場に踏み込んでダンプの退路を塞いだ。

 「警察だ、そのまま動くな」パトカーから飛び降りた弥勒補佐がいの一番に叫んだ。捨て場は騒然となった。ユンボのオペが運転席を飛び降りて逃亡するのが見えた。長嶋の相棒が隠れていた山林から飛び出してオペを追った。

 「逃げてもムダだ、身元はわかってんだ、諦めろ」

 林道奥に待機していたパトカーからも捜査員が駆け出し、すんでのところで山に逃げ込もうとしたオペの身柄を確保した。いくら身元が割れていても現行で逮捕するのと後で逮捕状を取るのとでは手間が違う。長嶋は最後のダンプが投棄する瞬間を写真に収めるとカメラを大事そうにかかえながら遅ればせに山林を出た。彼は検挙の担当ではなかったが手伝うことはないかと捕り物の現場に向かった。

 「ふざけんなよ、痛えじゃねえかよ」手錠を嵌められてもなおいきがって吠えてほえているのは赤磐の倅だけだった。他の作業員や運転手は一様にシュンとしていた。赤磐、重機オペレータ二人、モギリ、誘導役二人、見張り四人とダンプの運転手五人の身柄は所轄に連行された。 

 六甲建材検挙の一報は翌朝東部環境事務所にも届いた。

 「県警が高岩町の現場に踏み込んだそうだ」仙道が班員に告げた。

 「三か月間長かったですね」喜多が安堵の声を漏らした。

 「いや早いほうだ。一年かかる事だってある。異例の現行犯に踏み切ったのは、これ以上現場を大きくできないという弥勒補佐の説得に区検の検事が折れたからだよ」仙道は満足そうだった。

 「現行犯だけですか」伊刈が尋ねた。「エタと六甲の社長は?」

 「会社のガサ入れはこれからだ。逮捕者の供述で証拠を揃えてから令状を取るんだろう」仙道は微妙な顔だった。

 「椿はどうなりますか」

 「おいおい俺に何もかも聞くなよ。やつは雲隠れらしいな。明日の朝から実況見分をやるそうだ」

 「それが終われば禁足令は解除ですね」

 「たぶんな」

 現行犯逮捕で六甲建材事件は節目を迎えた。よかれあしかれ警察は検挙という結果を出すために組織を動かす。その点がプロセスばかりを重んじて結果が先延ばしされがちな行政との一番の違いだった。

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