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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 1 産廃ゴールドラッシュ  作者: 石渡正佳
ファイル1 産廃ゴールドラッシュ
10/22

懲りないやつ

 「班長ちょっと里見を締めてもいいっすか」長嶋は高岩町の捨て場から引き上げるなり伊刈に言った。

 「まだあの捨て場やってんのかな」

 「いったんはやめたみたいす。仮釈中にまた捕まったら五年はくらいこむぞって脅かしましたからね」

 「案外利くもんだな」

 「初犯のムショはつらいすからね。とくにあんなバックもろくにねえ連中はいじめられますから」

 「刑務所によって違いがあるんですか」遠鐘が興味津々で尋ねた。

 「初犯の刑務所は二度と来るなって感じでしごくんだよ。重罪の刑務所になるともう刑務官も諦めてるからかえって緩いんだ」

 「それじゃ網走とか厳しくないんですね」

 「一番居心地がいいそうだよ。食らいこんでたやつに聞いたら冬は暖房もあるしメシもうまいんだそうだ。それからクスリの常習者が多いんで大福が出るってよ」

 「大福?」伊刈が聞き返した。

 「砂糖がヤク中の禁断症状に効くとかでね」

 「なんかドラマとは違いますね」

 長嶋が向かったのは旧市街の崖際にあるボロアパートだった。崖の上が市立高校のグランドになっていて時々野球ボールが落ちてくるような場所だった。市道からアパートの玄関まで幅二メートルくらいのじめじめした路地が続いた。里見のバクバクの軽トラが行き止まりの路地に路駐していた。アパートは二階建ての長屋で、七坪ほどの部屋が一階と二階にそれぞれ四部屋ずつあった。里見の部屋は一階の一番奥だった。

 「里見、出て来い」

 北向きの玄関の扉の前で長嶋が叫ぶと、五分ほどして里見が眠そうな目をこすりながら出てきた。風呂にも入らず作業着姿のままで寝ていたらしく、汗の臭いがぷんぷんしてきた。小柄な上にあばら骨が浮くほど痩せていたが腕っ節は強そうだった。

 「なんすか旦那。俺もうやめましたよ」

 「ちょっと聞きたいことがあんだよ。入ってもいいか」

 「なんの話すか」

 「右翼の椿のことだよ」

 「もう付き合いはないすよ」

 「ここで立ち話はまずいだろう」

 「いいすよ入ってくださいよ」

 里見が奥に引っ込んだので、パトロールチームの三人も続いてアパートの中に入った。靴脱ぎからいきなり六畳の和室があり一角がキッチンになっていた。家財らしい家財は何もなく想像したよりもこぎれいな感じだった。

 「適当に座ってください」そう言いながら里見はカーテンもない吐き出しの窓際に胡坐をかいて吸殻が山になった灰皿を引き寄せた。三人も思い思いの場所に座った。

 「椿はいまどこにいる?」長嶋がいきなり問い詰めた。

 「雲隠れらしいっすよ」

 「高岩町でまたやってんじゃねえのか」

 「あそこは筋が悪いや。さすがの椿も手を引いたらしいっすよ」

 「西がやってんのか」

 「ばりばりの西だって聞いてますよ」

 「椿の手口はいつもと同じか」

 「そおっすね。埋め終わった処分場を安く手に入れて俺みたいなバカに高く売りつけるんすよ」

 「わかってんなら買うなよ。おまえいくら打ったんだ」

 「千五百万すよ」里見はちょっと自慢そうに鼻の穴を広げた。

 「ゴミが入ってる土地だぞ。せいぜい五十万かそこらだろう」

 「だってまだ三つ(三千万)は入るって言うから」

 「儲かったのか」

 「全然だけど途中で捕まったから全部払ってませんけどね」

 「椿の携帯ぐらいわかるよな」

 「つながるかどうかわかんないすけどね」里見は携帯を取り出して椿の番号を長嶋に見せた。

 「ちょっと貸せ」長嶋は里見の携帯を取り上げてすぐに椿の番号を発信した。呼び出し音は鳴ったが椿は出なかった。

 「いるとしたらどこだ」

 「ヤサは神洲の方っすよ」

 「わかった。おめえほんとにもうゴミはやらねえんだろうな」

 「やりませんよ。こないだのはちょっとだけダチに頼まれてオペやってただけっすよ。今は俺、昔の親方に世話んなって道路を直してるんすよ。点々穴埋めって最低の仕事っすけど」

 「ダンプが壊した道路直すとは因果じゃないか」

 「確かにそおっすね」

 「まあ地道に少しがんばってみろや」長嶋は里見の肩を叩くと立ち上がった。

 「班長、このヤマは難しいっすね」里見のアパートを出るなり長嶋が言った。「うちらだけでは止められませんね。椿が手を引いたってのもそうかもしれませんね」

 「たとえ止められなくてもなんにもしないで見逃すわけにはいかない。明日も行こう」

 「班長がそう言うならやってみますが、もうすぐうちの社もやることになると思うんで」

 「警察がやってくれたら頼もしいや」遠鐘が口を挟んだ。

 「内偵が始まったら俺も借り出されます」

 「出勤できなくなるってこと?」伊刈が言った。

 「ええ片付くまではね」

 「それは困るなあ」

 「しょうがないすよ」長嶋は本気で申し訳なさそうに言った。実はもう決定していた捜査方針を仲間に説明できない自分が歯がゆかったのだ。

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