第6話 使徒認定
-翌日-
朝早くに目が覚めた。
「早く目が覚めちゃったな。緊張してるのかな?」
緊張感はあらが、程良い感じで思って居る程では無いと自分では思う。
「2度目するのはやめとこうかな。少し神殿周りを散歩してしようかな」
寝巻きから着替えて、まだ寝てる父アルフシュタインと母メリアーゼを起こさない様に静かに部屋を出る。
まだ朝早い時間だが、神官達はもう動き始めて居た。
途中出会う神官に挨拶を交わしながら、神殿内を探索する。
外に出ようかな?と思ったがまだ門は閉まって居たので出るのはやめた。
何人かの神官見習いが、中庭や廊下を掃除してるのを尻目に、初めて来る神殿内を興味深そうに見ながら散策する。
華美でも質素でも無い丁度境目ぐらいの神殿だ。
神殿に寄れば華美な神殿もある様だ。
朝の爽やかな空気を吸いながら、中庭を散歩する。
暫く外の空気を吸ってボーっと朝日を眺めて居ると、後ろから誰かが声を掛けて来た。
「あれ?ねぇ?貴方も神殿の関係者なの?」
自分と同い年ぐらいの女の子の声が聞こえて来たので、後ろを振り返る。
振り返ると、白いワンピースを着た茶髪の少女が、その茶色の瞳で此方を見て居た。
「そうとも言えるし、違うとも言えるかな。まあ、今の所はお客かな?」
「ふ〜ん。よくわからないわね。それでそのお客様が此処で何をしてるの?」
「何もして居ないよ。ただ単に朝早く目覚めたから、こうしてのんびりしてるだけだよ」
「そうなんだ。私も今日は偶々朝早くに起きちゃったの。他の子達はまだ寝てて暇だから出て来たの」
「そうなんだね。君は此処に住んでいるの?」
「君じゃなくて私はエレミーよ。貴方は?」
「僕はアレンだよ」
「そうアレンよろしくね」
「此方こそよろしくエレミー」
「それで此処に住んで居るか。だったわね。厳密には違うわ。この神殿の隣にある孤児院に住んでる孤児よ。神殿とは敷地が繋がってるのよ」
「そうなんだ。なんかごめんね」
「何で謝るの?別に気にしてないわよ。それに孤児院のみんなは、本当の家族の様だから悲しくわないわ」
「そっか。エレミーは強い子だね」
微笑むとエレミーの顔が少し赤くなる。
「ま、まあね。アレンは家族は居るの?」
「うん。父さんと母さんがいるよ」
何時ものように父上、母上と言わずに父さん、母さんと答えた。
貴族だと知られて壁を作られるのが、嫌だった為だ。
だが、いつかは知られるだろうが今じゃなくても良いだろう。
「そうなんだ。両親も此処に泊まっているの?」
「うん。でも今日までだから明日には出て行くよ」
「そうなの?また会える?」
「どうかな?僕はこの王都出身じゃないからね。地方の出なんだ。でも5年後には王立学園に通う予定だから、また王都に来ると思うよ。それに神殿は今日で出るけど、まだ暫くは王都に居るから、孤児院を訪ねるよ」
「本当?約束よ!私もその王立学園?に頑張って通うわ!」
「うん。約束だ」
エレミーと約束をして暫く会話をした後、エレミーはそろそろ孤児院のみんなが、起き出す時間なので帰って行った。
アレンも特にする事が無いので部屋に戻った。
昔から早起きは三文の徳と言ったが、あれは本当だな。と実感した。
部屋に戻るとメリアーゼとアルフシュタインも起き始めて居た。
3人で朝食を食べ暫く時間が経つと、神官が儀式の準備が整ったので迎えに来た。
予め渡されて居た黒い法衣に、身を包んだアレンは儀式の行われる部屋へと向かった。
■
認定の儀が行われる部屋には、高位の神官数名と闇の巫女であるミラノバに、エルマンテ総大司教にこの神殿の神殿長を務めるジェンソン枢機卿が居た。
ミラノバは巫女の装束を纏い部屋の中心に居た。
何時もの雰囲気とは異なり、神聖さを感じさせる佇まいだ。
「では、これよりアレン・リヒト・フォン・アポストロスの認定の儀を執り行います。では此方へ」
言われた通り祭壇の前に座る。
祭壇には闇の女神ネフューラの銅像が置かれて居る。
周りに居る高位の神官達は念仏の様なものを唱え始めた。
ミラノバも祈りを捧げる。
「女神ネフューラよ。貴女様の声をお聞かせ下さい。アレン・リヒト・フォン・アポストロスは貴女様の使徒で御座いましょうか?使徒であれば是非とも、私にその声をお聞かせ下さいませ」
ミラノバの言葉に反応する様に、祭壇に置かれた銅像が光出す。
すると女の人の声が頭に直接聞こえて来た。
《使徒アレン。久し振りですね。漸くこうして話が出来る様になりました》
《ネフューラ様ですか?お久しぶりです。貴女のおかげで私は再び第二の人生を歩かせて頂いてます》
《そうですか。楽しそうで何よりです。普通は使徒と言えどこうして話すのは、とても困難な事で、唯一巫女であるミラノバのみが私の声を聞けるのですが、あまりこうして世間話などは出来ませんので嬉しく思いますよ。ですが、あまり長く話す事は残念ながら今はまだ出来ません。もう少し貴方が成長したら話せる時間も伸びるでしょうが、今回は此処までの様です》
《わかりました。ではまたいずれお話致しましょう》
別れの言葉を言うと、リンクが途切れる。
目の前のミラノバを見ると、先程の会話は聞こえて居ない様だ。
「ネフューラ様からの御言葉をお伝えします」とミラノバが言い立ち上がると、総大司教を始め皆が畏まった。
「ネフューラ様はアレン・リヒト・フォン・アポストロスに加護を授けました。その証拠に彼の左胸には聖痕が刻まれて居る事でしょう。そしてネフューラ様の御言葉はアレン・リヒト・フォン・アポストロスを使徒として任命する。と仰いました。闇の巫女として此処にアレン・リヒト・フォン・アポストロスの使徒認定を確認致しました事を、此処に宣言致します」
これにより正式にアレンは闇の女神ネフューラの使徒として認められた。
その後は人払いされて、エルマンテ総大司教とジェンソン枢機卿に闇の巫女ミラノバとアレンに、アレン両親のアルフシュタインとメリアーゼのみが残った。
最初に口を開いたのはエルマンテ総大司教だ。
「さて、これで無事にアレン君は闇の女神ネフューラ様の使徒として認定されたが、この事を知るのは私を含め。
この部屋に居る者と、先程の高位の神官数名と神殿騎士の上層部と、王城の国王陛下を始めとする極少数に限られる」
「はい。総大司教様の言う通りです。アレン君が使徒として発表されるのは15歳の成人の儀を終えた翌日にと、正式に国王陛下は決定されました。そうですよね総大司教様?」
「うむ。ジェンソン枢機卿の言う通りだ。今後の予定はこの後国王陛下に御目通りして、陛下直々に告げられるとの仰せだ。そんなに悪い事を言われることは無いだろうから安心しなさい。メリアーゼ」
不安そうな顔をしたメリアーゼを気遣わしげに声をかけるエルマンテ総大司教。
「そうね。もしそうなれば神殿に逃げ込めば良いわね」
「メリアーゼ。あまり冗談でもそんな事は言わないでくれないか?私の寿命が縮みそうだ」と冗談めかして妻のメリアーゼを元気付けるアルフシュタイン。
「さて、何時迄も国王陛下を待たせる訳には行かない。そろそろ行くとしようかな」
「総大司教様。私は行っては駄目なの?」
「う〜む。そうだな。巫女であるお主の言葉の方が説得力があるかなら。もし難癖を付けてくる様なら居た方が助かるな。まあ、そんな事はありえないと思うがね」
■
服装を着替えて神殿の用意した、豪華な馬車に乗り込み王城に向かう。
予め通達がしてあったのか、城門でで待たされる事なく、更には手続きの類をせずに簡単な身分確認のみで、王城内に通される。
執事な案内された待合室で、暫く待つ様に言われた。
中にはメイド数名が居り、中に入り席に座ると飲み物とお茶受けを出して来た。
その後は、一礼して部屋の隅に用があるまで下がる。
「さて、アレンにはまだあまり礼儀作法などは教えて居なかったな。うっかりして居たよ。今から覚えるのは時間的に無理だから私の真似をしなさい」と言われて、その後は注意点など簡単なレクチャーを受けた。
まだ子供、それも使徒と言うこともあり其処まで、礼儀作法にとやかく言われる事はない様だ。
それを聞いて少し安心する。
前に軽くだが、礼儀作法の本を読んで見た事があるのだが、細か過ぎて覚えるのを途中で諦めたからだ。
勿論その事は両親は知らない。
こっそりと父の書斎に侵入して見たからだ。
そうやって談笑しながら、呼ばれるまで待っていると20分程で呼ばれた。
普段なら男爵である以上、もっと待たされても不思議ではないが、今回は使徒であるアレンがいる為に、こんなにも早く呼ばれたのだろう。
そしていよいよ謁見の間の扉の前に到着した。
この先にセルベリン王国の国王が居るのか。