表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昔書いたやつ

秘密結社「八月の雲」

作者: 粟家 大三治

秘密結社「八月の雲」は

かつてない規模の組織構成、

強力な怪人軍団、

統制の取れた構成員、

最先端の科学技術、

最新鋭の研究施設、

豊富な活動資金、

などが総合的に高く評価され

最盛期には

「最も世界征服に近い秘密結社」

に選ばれて

米国の雑誌、

TIME誌の表紙を飾るほどの

勢いがあった。


革命扇動に破壊工作、

不正プログラムの作成から

スカートめくりにいたるまで

ありとあらゆる悪事を働き、

のちに難事件解決の神様とよばれた

時のFBI長官マイケル・F・ブラウンをして

「八月の雲?

 あいつら手のこんだ悪さするから

 まったく質が悪いよねぇ。」

とまで言わしめた組織は

八月の雲が最初で最後である。


しかし

当時の勢いは

今はもう、ない。


八月の雲は

正義の味方“正義仮面”と

その一派との戦いによって

壊滅寸前の有様だった。


主要な施設は

その多くが

正義の味方によって破壊されていた。

完全な形で残るのは

組織傘下のダミー会社がもつ

自社ビルただ一つであった。

そのビルも、

家賃収入を狙って

テナントを入れたから

フルには使えない。


構成員たちも

戦闘で傷ついたり

命を落としたり

寿退社したり

有給でハネムーン中だったり

産休だったり

育児休暇だったり

不倫が原因で裁判所に呼び出され

離婚調停中だったり

有能さを買われて

大手企業に引き抜かれたり

法定伝染病で休みだったり

伯父が亡くなって忌引きだったり

親父さんが脳梗塞で倒れ

家業を継ぐために田舎に帰ったりで

その数が減っていた。


資金も底を突きかけていた。


求人広告などを出してみたものの、

資金難のために低く設定した時給が

仇となり

人が集まらない。

応募があっても

ただの冷やかしが大半だった。


以前ならば

冷やかしなんてされようものなら

とりあえずさらって

怪人のベースにするか、

粗末な食事と安い賃金を与え

劣悪な環境でコキ使うか、

洗脳を施した後で

お揃いのコスチュームを与え

戦闘員や工作員として組織したものだった。


しかし今は、

さらおうにもまず、

人出が足りず、

怪人作成費用も

安い賃金すらも

お揃いのコスチュームや

洗脳装置すらも

ありはしない。

もちろん、それらを買う金もない。


正直な話、

もう世界征服どころではない。

みんな薄々気付いてはいた。

それならなぜ戦うのか。

それは

いつしか目的が

正義仮面をたおすこと、

その一点になっているからだった。



普通、悪の秘密結社なら、

組織もぼろぼろになったし

そろそろ幹部自らが怪人化するなどして

正義の味方との

最終決戦に赴こうではないか、

というのがセオリーだ。

しかしあまりにも損害が大きすぎて、

セオリー通り幹部を改造しようにも

資金や技術力低下により

かつての戦闘員並かそれ以下の能力しか

付与することができないのだとわかった。

やっぱり幹部クラスの怪人は

ある程度強くないとダメであろう。

どん底で模索がつづく。


そもそも、改造手術をしようにも

前述のとおりに

やっぱり人手が足りない。


苦肉の策ではあるが、

量産型の怪人を作ったらどうか。

量産していろんなことをやらせれば

人手の問題はクリア。

しかもその怪人を

日雇い労働にでも出せば

資金も集まること受け合いである。

一人一人は弱くても、

あのほら、三本の矢的な。

集まったらすごいよ。

ほら、ガリバーも

小人に捕まったりしてたじゃない!

量産怪人を押すある幹部は、

そう主張した。

後半はグダグダながらも、

他にいい案もないしということで

組織として

量産型の怪人を作成することに決まった。



とりあえず

シロクマのパワー、

東大生の頭脳、

ゾウの鼻の器用さ、

などを理想と掲げたものの、

それらは所詮

理想にすぎなかった。

夢だけを語って生きていけたら、

こんな楽なことはない。

しかし、現実はいつも非情だ。


人と合成する材料を

手に入れる資金にも困ったため、

結局、裏庭の雑草と

人間を合成してみることになった。

抜いても抜いても生えてくる裏庭の雑草。

そこには実は

計り知れない生命力が

満ちているのではないか、

とかいうようなことを

誰かが会議中に言ったからだった。


蓋をあけてみると、

なんとこれが

大当たり。

力はそれほど強くはないものの、

量産型草怪人は

水さえ与えれば

空気中の二酸化炭素を吸い

光合成をする。

そのため食費がかからない。

極端な話、水を与えなくても

足とかから水分を吸収して勝手に育つ。

空気もきれいになった。


なんせ、怪人なのだから

環境が悪くなったら

移動したりなんたり

自分である程度なんとかできる。

さらに、己の排泄物は

そのまま肥料となる。


低コストで増やすこともできる。

というか、わりと勝手に増える。


しかも定期的に実をつけるので

味はともかく

組織の食事は

その実で賄うことができる。


組織のメンバーが

育成中の怪人の

地道な間引きや支柱立て、

剪定などにも慣れ

ちょうど

全ての構成員の食事を

草怪人の実で賄えるようになった頃、

正義仮面をはじめとする

正義の味方たちは

「正義」の名の下に

各地の戦場に送られた。

資源をめぐっての諍いが

世界的な戦争へと発展したのだった。

もはや斜陽の秘密結社になど

正義の味方はおろか

社会の関心は向いていなかった。


戦争は激化し、

世界中の国々を巻き込んでいった。

食料や物資が世界的に不足していく。


やがて

互いに正義を主張しあいながら

戦う各国が潰しあい、

各国の正義の味方は

正義の味方同士殺しあい、

正義の意味が揺らぎきった後で

唐突に戦争は終わる。



八月の雲は

地域の復興に力を注いだ。

その時たまたま

町内会の役員をしていたのもあり、

町の中心として働いた。

悪事は働くが

ご近所関係とかは

大事にするほうだったのだ。

元ヤンが地元を大事にする、

みたいな感じであろうか。

少し違うのであろうか。


八月の雲は

食料不足で飢えた人々に

遍く実をわけあたえる。

燃えてしまった土地は草怪人達が耕す。

一部の草怪人はそこに根をおろし、

新たな実をつける。

建物の建材には草怪人の骨格が使われる。

もちろん、建造するのは草怪人たち。

草怪人の体の繊維から

布も作られる。


八月の雲は

草怪人をただ使役するわけではなく、

草怪人たちにも

基本的な権利と自由を認めていた。

これは古くから怪人と共存してきた

秘密結社ならではの発想であった。

結果、草怪人からの目立った不満もなく、

全てがうまく回った。


復興活動において

八月の雲は

悪の秘密結社らしからぬ

すばらしい働きを見せた。

これにはご近所や地域のためのみならず、

力を再び蓄えて

いつの日にか正義仮面を打倒するべし、

という狙いもあった。

なにかしていると

正義仮面に邪魔をされるのが常だったが、

ご近所の方々もいるから

たぶん不意打ちはないよね、

という姑息な考えも見え隠れしていた。


あいつら、改心したんだな、

なんて正義仮面が油断したところを

後ろからグサッと。

そんな計画も密かにたてられていた。

しかし最近はなかなか正義仮面がこない。

こないから働く。

働くから復興はよりスムーズ。

なんだかもう、

わけがわからなくなっていた。



戦争集結から数年

「もはや戦後ではない」

という言葉が二度目の流行語になった頃、

八月の雲は

その復興支援活動を讃えられ

TIME誌の表紙を飾り、

ほどなくして国連総会で表彰された。


そしてその席上で

正義仮面が戦死していたという事実を知る。


奇しくもそれは八月、

ただし、雲一つない

見事な日本晴れの日のことであった。



表彰式のあと、

八月の雲総統は

突如引退を宣言し、

姿を消した。


総統がどこに行ったのかは誰も知らない。


数日後、正義仮面の墓の前には

空の酒ビンが一つと

湯呑みが二つ置かれていたという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 結局のところ、なんなのこの組織。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ