8 入島
潮風を全身に浴びながら、船は北へと進む。
太陽の日差しが眩しい。
風もいい具合に吹いているらしく、エゴールの話では予定より早く、目的の島にたどり着くそうだ。
俺達の仕事は今のところないので休憩しておいてほしいと言われ、仲間と話そうと思ったんだが。
「それにしても……なんでナビと二人なんだろうな」
船に乗る割り振りの結果、何故か俺とナビの他はエゴール以外知らない魔族だけだった。
唯一他に知っている人(?)がいるとしたら骸骨将軍くらい。
なんか寂しい。
「まぁ、ナビがいただけでもよかったとなるんだけどな。そういえば、俺が記憶を失ってからナビとはほとんど話してなかったっけ」
「はい」
「ナビって、自律人形なんだよな。全くそんな感じには見えないんだが」
「正確にはオートマトンですが、そうですね」
「ナビはどうして俺のことをマスターにしたんだ?」
とりあえず、気になったので聞いてみることにした。
「……そうですね……消去法でしょうか?」
「え……」
「ナビが目覚めたときにいたのは、名称:マリアと名称:ミラー、そしてマスターでした」
ナビは学園都市の地下に封印されていて、俺とマリアとミラーが隠し部屋を発見。
ナビを見つけたそうだ。ちなみに、その時のミラーは今の若い男の姿ではない、老人の姿だったという。
「名称:マリアは魔力が少なく、名称:ミラーの魔力も干からびていましたから」
「……本当に消去法か」
「ナビはマスターがマスターでよかったと推測し、断定します」
面と向かってそう言われると、かなり恥ずかしいな。
「おかげで魔王になれました」
「権力の申し子か!?」
「でも、魔王もまだまだ前段階に過ぎません。来年には南大陸、十年以外には世界を手中に収めます」
「なんて壮大な計画だ。なのに計画性がまるで感じられない」
「そして、世界中の甘味を食べつくします」
「最終目標が小さいな!」
聞いた話だと、ナビは食べ物を食べなくてもいいのだが、嗜好品としていろんなものを食べるそうだからな。
「……まぁ、戦いが終わったら、一緒に世界中周ろうぜ。うまいものでも食べ歩こう。魔王なんてシファに返してしまってさ」
俺がそんなことを言うと、ナビは俺のことをじっと見つめてきた。
じっと……じっと……生きてるよな?
瞬きはしないし呼吸もしてないけど、生きてるよな。
「ナビ、大丈夫か?」
「なんでもありません……」
ナビがそっぽ向いた。怒ってる……とは思えないが。
なんだ? もしかして今ので照れたのか?
「……島についたら、皆の真ん中で演説をお願いします。最終号令はナビがしますので」
「うわ、なんか緊張するな……全部ナビがやってくれよ」
「今回の作戦はあなたがリーダーですから」
「……そうだよな…………」
頷きはしたが、何か違和感がある。
なんだ? この違和感……。
結局、その答えが何かわからないまま、船は進む。
船は進む。
「島が見えたぞぉぉぉっ!」
さらに船を進ませ、海岸がはっきり見えたところで、
「イカリを下ろせ!」
そう号令が下った。
ここからは小船で移動する。
あの小島はどの大陸にも属していない島らしく、瞬間移動で入島することはできない。
当然、島の中でも瞬間移動は使えないらしい。
俺を含め20人が乗った小船が、全員の力で進んでいく。
そして、10分ほど漕ぎ続け、俺たちはようやく島へと入島した。
「では、テイトの弟はここで他の奴らが来るのを待っていてくれ。ワシ達は目的の場所を見てくる」
「え? 俺一人でか?」
「あぁ、十分だろ」
まぁ、十分だよ。正しい意味で役不足な気もするが、でも、ミーナやサーシャ、マリアとも話をしたいしな。
暫くして、2隻目、3隻目の小船がやってくる。
だが――ミーナ達の姿が見えない。
「うむ、出迎えご苦労じゃ」
「なぁ、シファ、ミーナ達は?」
俺が尋ねると、兄貴が、
「うむ、テイトを含め四人には重要な仕事があるからのぉ、裏手からこっそり上陸しておるわ」
そういえば、沖に停泊している船は二隻しかない。
一隻は裏に回ったということか。
「裏手から? なんで?」
「それは見てのお楽しみじゃ」
なんなんだ?
見てのお楽しみって。
まぁ、兄貴が一緒なら大丈夫だとは思うが。
嫌な予感はぬぐいきれないな。
とにかく、俺達はナビ達が先に行って待っている島の奥へと向かった。
ナビの話では、そこに始祖の島への入り口があるそうだ。
「それにしても、この島も凄いな。まるでジャングルみたいだ」
「それに、あちこち石碑があるの。古代文明のものとみて間違いない」
「始祖の島と繋がって居るからか、妙な文明が残っておるようじゃの」と嬉しそうに話す。
シファは魔王をやめたら考古学者とか向いていそうだな。
そして、暫く歩くと、そこに確かに文明があったと思わせるものがあった。
ただし、床面だけ。
地面が全て石床でできている。石床の隙間から雑草が生えたり、石床を突き破って木が生えてるところもあり、悠久の時を感じる。
そして、一番広い場所で、ナビ達が待っていた。
半円状態で並び、その真ん中に木箱が置いてある。
そこに俺が立てってことか。
一緒に来た魔族やシファも俺の後ろに並んだ。
俺は諦め、木の箱の上に立つ。
そして――
「挨拶は必要ありません」
ナビに言われ、
「必要ない?」
俺が首を傾げると、ナビは淡々と、
「予定が変更になりました。ナビが号令します。全員、武器を構えてください」
ナビが言うと、魔族達が剣を、槍を、弓を、杖を構えた。
80人の魔族の動きに、俺は感動すら覚える。
だが――
「これより、スメラギ・タクトを討ち滅ぼします! ファイヤーボール」
ナビのその宣言とともに、360度全方向から矢と魔法が飛んできた。
何が起こったのかわからないが、今わかることはただ一つ。
このままだと俺は死んでしまうということだ。ナビの放ったファイヤーボールが、俺の顔、目と鼻の先まで迫っていた。




