8 凱旋
坑道から出ると、すでに日は大きく傾いていた。
夕日がまぶしい。
倒れた盗賊から、ナイフを二本抜き取り、カード化の魔法を使う。
ダガーと疾風のダガーの二枚になった。
「それも魔法なのか? 魔物がカードを落とすものがカードだと思ったのだが」
サーシャが不思議なものを見る目でこちらを見てきた。
「ん? あぁ、こうすると持ち運びに便利だからな」
俺は「当然」と平静を装い答える。
内心では「やっぱり人前で使ったら目立つんだな」と反省していた。
それなら、瞬間移動も人前に出るより、目立たないところにいったほうがいいだろう。
「瞬間移動」
そう唱えると、今度は成功した。
一瞬のうちに景色が変わり、俺たちはカード買取所の裏路地にいた。
成功したようだ。
ドラゴンクエストでルーラの魔法は洞窟の中で使えないのと同じ原理だろうか?
もしかしたら他にも条件があるのかもしれない。
今度から、危ない場所にいくときは前もって瞬間移動の有用性を実験しないといけないようだ。
「すごい……本当に町の中だ」
サーシャが呟く。
やはり百聞は一見に如かずといったところか。
「じゃあ、俺はカード買取窓口の兄ちゃんに返してくるから、二人は教会にいってくれ」
そう言って、荷物を持ち上げる。俺の提案に二人はそろって了承し、
「スメラギさん、本当にありがとうございました」
「ありがとうね、このお礼は改めてするよ」
ミーナが深々と頭を下げて、サーシャは笑顔で言ってくれた。
お礼は十分もらったんだけどな……。
サーシャの絡まってきた舌の感触は今でもはっきりと覚えている。でも、あれはサーシャにとって忘れたい記憶だろうから、俺も忘れることにした。
カード買取所の中は以前と変わりのない様子だったが、窓口の兄ちゃんだけがため息まじりでとてもつらそうな表情だ。
「こんばんは」
「あ、お客さん、すみません、しばらく商売が――」
「これ、盗賊から取り返してきましたよ」
俺がカードと貨幣の入った袋を持ち上げる。
「え?」
「サーシャを助けたついでにね、ここのですよね」
俺が袋を渡すと、兄ちゃんは袋の紐をほどいて中を確認し、
「そうです! うちの商品と売上です。なんとお礼を申したらいいか」
「いえ、礼はいいんで、それで買い取りをお願いしたいんですが、いけますか?」
「もちろんです!」
そう言ってくれたので、俺は盗賊から奪ったカードや、カード化したカードを取り出して兄ちゃんに渡した。破邪の斧とシミター一本、狼の肉だけは売らなかった。
あわせて20万ドルグで買い取ってくれた。商売スキルが3もあがった。
だいぶ上乗せしてくれたのだろう。
いいのか? と尋ねたら、俺が取り戻した金の総額だけでもその30倍はあると言ったので、それならばと快く受け取った。
「じゃあ、宿屋の再建費用にしてもらうかな」
そうつぶやくと、満面の笑顔だった兄ちゃんの顔が、暗くなる。
「たぶん、宿はダメだよ」
「どうして?」
「あの宿は、先週宿屋ギルドから追放されたんだ」
兄ちゃんは辛そうな顔をして続ける。
宿屋ギルドというのは国全体の宿屋経営者の7割が加入している互助組合であるらしい。
「年会費の未払いとかいってたけど、実際は年会費の通知が遅かったのが原因なんだ」
「まさか、宿屋ギルドがぐるになって退会させたと?」
「そう。それでさ、宿が火事になったときとかにギルドに入ってたら一定額の保険がおりて、補償金とかまかなってくれるんだけど」
「補償金?」
「昼の火事で、宿屋にとまってた冒険者が二人死んだ。その補償金はたぶん500万ドルグにはなる。宿には宿泊客の安全を保障する義務があるからね」
ほかにも先払いしていた部屋代金の返金、預かっていた荷物の弁償代などを含めたら、さらに100万ドルグは必要だという。
「とても借金でもまかなえる金額じゃない」
「じゃあ、どうなるんだ?」
「賠償金を払えないと判断された場合は奴隷に身を落とすことになります」
「……奴隷って、そんな……」
「……僕もなんとかしてあげたいが、このお金もカード買取ギルドからの委託金でね。これがなかったら僕も彼女たちと同じで奴隷になっていた。いや、僕だけでない、下手したら王都の両親のところにまで負債がいくところだった。だから君には感謝している」
彼が言いたいことは俺への礼じゃない。
つまりは自分の金で彼女たちを助けてあげることができないという謝罪の言葉だ。それは決して冷たい言葉じゃない。仕方のないことだとわかる。
誰かに頼るのはダメだとわかる。
なら、俺が頑張るしかない。
諦めるのはダメだから。
「賠償金はいつまでに返せばいいんだ?」
「明日の朝までは待ってくれると思う……」
なんでそんなに時間がないんだ。
「あぁ、おかしいよね。でも……悔しいが、さっき早馬でそう連絡が来たよ」
「くそっ、このあたりで魔物が出る場所は? 特に弱いのに極稀にレアアイテムを落とすモンスターがいる場所はどこだ?」
「それなら、盗賊の住んでいた山の手前にある森だ、あそこにいる一角ネズミは伝説ではユニコーンの角を落とすといわれている。一本20万ドルグで買い取りできる。……でも、数十年見た人はいないよ。宝くじにでも当たるような確率でしか手に入らない、本当に珍しいアイテムだ。とれるわけない」
「わかった、あの森だな。大丈夫、とってみせるさ」
俺は森の光景を思い出しながら言った。
「できないっていわれたことをやってみせるのがチートってもんだろ?」
あのとき盗賊がいたであろう森だ。
つまり、ユニコーンの角を30本……いや、29本とれば二人は救えるってことだ。
「瞬間移動!」
俺はなりふり構わず呪文をとなえ、森へと飛んだ。
真の勇気とか、そんなのは関係ない。
一晩寝なくても問題ないし、確率が低かろうが問題ない。
※※※
直後、カード買取所内。
『消えた……そんなまさか』
『カード買取所はここでいいか?』
『あ、はい、こちらでございます、これはこれは騎士様、どのようなご用件でしょうか?』
『ユニコーンの角を探している。もしもあるなら一本500万ドルグで買い取りたい』
『へ、ユニコーンの角ですか? しかも500万ドルグ?』
『あぁ、あるなら買う』
『し……しばらくお待ちください』
『あるのか?』
『……………………明日の朝には、かならず仕入れます』
『必ずか?』
『ええ、必ずです』
『もし仕入れられない場合は?』
『どのような処罰でも』
『……わかった。明朝まで待とう』
『お待ちください、騎士様。宿は今日盗賊に襲われて家屋を全焼してしまいました。むさくるしいところで恐縮ですが、もしよろしければ私の部屋にお泊りください』
『お言葉に甘えよう』
『はぁ……私も進退窮まったかな……でも、信じたくなるよな』
※※※
大丈夫、俺にはチートがついている。
ネズミの落とした「ネズミ肉」カードを収納しながら、俺は討伐を続けた。
日もすっかり落ちたが、おかげで【暗視】スキルを手に入れたし、【索敵】レベルも上昇を続けている。
倒したネズミが十匹を過ぎたころには【短剣】レベルと【獣戦闘】レベルもあがった。
だが、ユニコーンの角はまだ手に入らない。
「一週間徹夜したゲーマーをなめるなよ!」
俺はさらに森の奥へと入っていった。
誰もが無理だと思うようなことをしてこそ、チートってもんだろうが。
いままではスメラギタクトの視点でしたが、次回はちょっと異なる視点でお送りします。