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16 決着

 ドワーフとエルフの戦いが終わった時。

 俺はミーナ達に隠れてドワーフ族の長老にオリハルコンをカードから具現化して見せた。


「これは、まさか、伝説の金属……この目で見ることができるとは」


 長老は震える手で金よりも眩い光を放つ鉱石を手に取った。


「長老さん、ドワーフ族には金属から繊維を作る技術があると聞いたんだが」

「ええ、まさかオリハルコンを繊維に変えると?」


 長老は驚き、オリハルコンを取りこぼしそうになり、慌てて強く握りなおした。


「あぁ、俺はこのオリハルコンから服を作ってほしい」

「そ……それはもったいない、武器なら全てを薙ぎはらう剣が、防具にすれば全てから身を護る盾ができあがるというのに」


 長老さんは震える声で言った。

 矛盾って言葉を思い出すな。最強の剣と最強の盾か。


「だが、最強の着心地はジャージでしか再現できない」

「最強の着心地?」

「あぁ、ジャージは――」


 その後、俺は三十分かけてジャージの素晴らしさを長老に語った。

 長老は目を回しながら、


「そ……そんなに素晴らしいものだとは。ですが、繊維を造り出してもその着心地を再現することは我々にできるのか」

「ドワーフ族の長老、話は聞かせてもらいました」


 口を挟んできたのはエルフ族の長老だった。


「我々エルフ族はいかなる繊維からでも服を作ることができる」

「……そうか、タクト殿はこの伝説の金属でドワーフとエルフ、初めての共同作業をさせるためにこのような注文を」


 ドワーフの長老は感動した瞳で俺を見つめてきた。

 いや、そんな結婚式のケーキ入刀みたいな依頼じゃない。

 ただ最高のジャージを求めてるだけだ。


「わかりました、我等、最高のジャージを作ってみせます」

「だいたい2ヶ月はかかるがのぉ」

「そんなにかかるのか?」


 オリハルコンを繊維にするには、特別な行程があるらしく、時間の短縮はできないとのこと。

 ならば仕方ない。


 そして、2ヶ月後。

 思わぬ形で俺はドワーフの集落を訪れることになった。

 この時は俺としたことがオリハルコンのジャージについて忘れていた。

 ミーナの居場所がわかり、すぐに港へ向かおうとした俺を長老が呼び止めた。

 俺だけに見せないといけないものがあるとのことで、サーシャ達に待ってもらい、俺は呼ばれた方向にいった。


「タクト殿、先ほど注文の品ができあがりました」

「注文の品?」


 言われて、この時俺はようやく思い出したのだ。

 例の注文の品を。


「まさか、できたのか?」

「ええ、こちらです」


 ドワーフの長老が上下一組のジャージを俺に差し出した。

 まばゆい光を放つジャージを手に取り、これは寝間着にはむかないなと思った。

 明るすぎて眠ることができない。

 だが、驚くのはその肌触り。

 綿やポリエステルよりも柔らかく気持ちいい。

 なのにとても軽く、伸縮性もある。

 ここまでのものができるとは。


「実は先月帰ってきた孫娘がこのオリハルコンの加工方法を知っておりまして」

「孫娘?」


 そういえば先月来たときに孫娘がいると言っていた。


「今は寝ておりますが、お呼びいたしましょう。おい、誰か、ビル――」

「いえ、寝ているのなら寝かしておいてください。疲れているのでしょうし」


 正直、今は一秒でも早くミーナを助けに行きたい。


「そうですか、わかりました。あと、御注意があります」

「注意?」

「先ほども申しましたが、このジャージは魔力があると輝き、魔力を失うと光を失います」

「魔力はどうやって補給するんだ?」

「簡単です、人間の身体からは常に魔力が漏れています。だから着ていればよいのです」

「それだけで? ならずっと――」

「だが、着ている間にも魔力は漏れていきます。なので、それを防ぐため、今スグル殿が着ているジャージをその上から着ることで魔力の流出を防げばよいのです」

「それって、ジャージを重ね着しないといけないってことか」

「はい、魔力がなくても最強の防御力がありますが、魔力があればすべての魔法を防ぐ無敵の防具になります」


 魔力が溜まるには一日ほど着ていたらいいということで、折を見て重ね着をすることになった。

 寒くもないのにジャージを重ね着するという暴挙に出た、その時のジャージへの申し訳なさは筆舌に尽くし難い。



    ※※※


 俺のオリハルコンのジャージを見て驚愕したシファだったが、すぐに平静を取り戻し、


「オリハルコンの服か、奇怪な。なら、これはどうじゃ?」


 カードを五十枚取り出して空に投げた。


「具現化」


 現れたのは50本の大鎌デスサイズ


「全身鎧ならともかく、たかが服、全てを守ることはできまい」

「全てを守るつもりはない。俺が警戒しているのはお前のダークソードだけだからな。

 ダークソードは心臓を狙わないと発動しないんだろ?」


 俺は不敵に笑い自分の心臓に親指を押し当てた。

 ミーナ、そして俺、どちらも同じ位置を貫いていた。

 それは一種の勘だったが、どうやら間違っていないようだ。


「ふん、お主は以前どのように負けたのか覚えてないようじゃの!」


 シファは50本の大鎌デスサイズを見えない糸で操るように飛ばしてきた。

 斧をカード化して収納、ミスリルの杖を取り出し具現化、そしてスキルを変更するも、デスサイズは俺の顔を、火鼠の皮ジャージを切り裂く。


「ファイヤーフィールド!」


 俺を中心に巨大な火柱が上がった。

 そして、それが消えたときには、全てのデスサイズが蒸発していた。

 匂いさえも残らない完全消去。

 俺の足元以外は舞台でさえ消え失せている。


「なんじゃ、その威力……は……」

「ちょっと無理してるんでね」


 魔茨の指輪を触りながら俺は言った。


「じゃ、じゃがお主の顔は妾のデスサイズによって傷つけられた。呪いでもう――」


 俺は再び物理攻撃特化になり、俺は前へと跳躍した。

 そしてその威力を殺さぬまま、今度は魔法特化のスキルに瞬時に変更。


「サンダーストーム!」


 雷の上級魔法。

 その速度は全魔法の中でも最速。

 避けられるはずもなく、シファは悲鳴を上げた。


「……な、なぜじゃ、呪いはすでに主の身体を蝕んでいるはず……」

「あぁ、さっき、0.1秒ほど動きを止められたよ」

「な、何を……」

「これでも呪い耐性はもうレベル70なんでな……ん、今ので71になったわ」

「な……」


 シファの叫び。それは「71」の「な」なのか、「なんだと」の「な」なのかはわからない。

 

 巨大なトラップワームを倒して気を失ったとき。

 俺の呪詛耐性は一気にレベル54まであがった。

 それからだ、魔茨の指輪をしたまま魔法を使ってもちくっとした痛みしかしなくなったのは。

 呪詛耐性レベルが上がったことにより痛みが少なくなったのだろう。

 それからはできる限り上級魔法を使い続け、一気に呪詛耐性レベルを上げ続けた。本来は呪詛耐性レベル30にもかかわらず気を失うほどの呪い攻撃だ。

 レベルを上げる経験値としてはこれ以上のものはなかった。


「どうして分身魔法アザーセルフを使わないのかは知らないが、勝たせてもらうぞ」


 そして、俺は決死の一撃を使い、先ほどの攻撃で痺れが取れずまともに動くことのできないであろうシファに最大の魔法を放った。


「ファイヤーフィールド!」


 巨大な火柱がシファを飲み込んだ。

 決死の一撃、魔茨の指輪の効果でその威力は通常の15倍。

 MPもほとんど尽きたので、かっこ悪いがその場で足踏みをする。

 これで――勝負は決まった。


「驚いたな、生きていたのか」


 黒焦げになり、満身創痍となっているはずなのに、シファは立ったまま笑っていた。


「……妾は魔王、地に膝をつくことはできぬ。じゃが――」


 シファは瞳を閉じ、


「まいった、妾の負けじゃ。さすがは――」


 言葉は続かない。彼女は立ったまま気を失っていた。

 あんたは決して弱い相手じゃなかった。

 俺が一度敗北し、そして今は俺の命ともいえる火鼠の皮衣のジャージをここまで傷つけた。時間にして短いが、楽な勝負じゃなかった。


「ミーナ、やったぞぉぉぉ」


 俺はその場足踏みをしながらそう叫ぶと、審判をしているターバンをした女魔族が、俺の名を呼んだ。


「勝者、スメラギタクト! 今回の第19回人魔武道大会、勝者はナビ選手率いる人間側の勝利となります!」


 その宣言とともに、会場中の観客が総立ちし、温かい拍手が送られた。


「人間側、ナビ選手! あなたの願いをおっしゃってください!」


 女魔族がそう言うと、ナビは、小さくため息をついた。

 人形を操るのを止めたのだろう。


「危なかったです、もう少しでオーバーヒートするところでした」


 俺にだけ聞こえるつぶやきとともにナビは無表情のまま檀上に上がり、宣言した。

 そう、ミーナの引き渡しを――


「これよりナビが魔族を率いる魔王になります!」


――へ?


「全魔族はナビに永遠の忠誠を誓いなさい!」


 ナビが抑揚のない声の、だがボリュームだけは最大のその突拍子のない宣言に、


『ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!』


 会場が一体になり、大きく叫んだ。

 後ろでミラーがニヤリと笑い、アイアンは相変わらず気絶したままだった。

魔王ナビ爆誕!

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