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15 二重

 会場でターバンを巻いた女魔族は砂時計の砂が全て落ちたのを確認して宣言した。


「時間です! 黒騎士選手失格です!」


 黒騎士がいなくなり5分後。

 彼の不戦敗がこの時に確定した。

 彼が何者なのか、結局わからないままだった。

 どうしていなくなったのかもわからないが、だいぶ力は温存された。


「人間側、副将、出てください!」

「行ってくる」


 この言葉は、後ろで人形を操っているナビに、そして今、魔王城で戦っているであろうサーシャ、マリア、シルフィーへと告げた宣言。

 大将のナビは戦うことはない。つまり、俺が人間側の最後の選手だ。

 対する魔族側の副将は、鎧と兜を着た小さい白鬚の爺さん。己の身体よりも大きな斧を持っている。

 名前はガザン。

 

「ふん、先ほどの黒騎士と戦えると思っていたが、お前のような小僧が相手とは、ワシもついてないな」

「爺さん、無理するんじゃないぞ」

「ふん、わしは死ぬまで現役じゃ!」

「そうか……」


 俺はそう言い破邪の斧をカードから具現化する。


「斧同士の勝負と行こうじゃないか」

「ふん、愚かな。ワシと力比べか。こりゃ勝負は決まったな。せめて大将はまともな相手であればよいが」


 ガザンはそう言い斧を構えるが、油断はまるでしていない。

 一撃必殺の構えだが、普通にやれば打つ隙がない。


「第7回戦! 開始!」


 そう叫んだ瞬間、俺は前に飛び、ガザンの斧を砕いた。

 ガザンには何が起きたのかわからないだろう。

 わからなかったのは観客も同じようで、静寂に包まれた。


「降参しろ、勝負は決まった」


 斧をガザンの首元に近付け、降伏を勧告。

 ガザンは少し逡巡し、


「………………………………………………まいった」


 己の負けを認めた。

 だいぶ、黒騎士を意識した戦いになってしまったなぁと思いながら、俺は再度自分のスキルを見た。


【全身防御40 杖41 剣18 斧39 拳29 槍12 棒13 短剣20 獣戦闘30 竜戦闘40 虫戦闘38 物質戦闘12 逃走39 死霊戦闘32 魔物使い28 索敵35

 無形戦闘30 対人戦闘35 盗賊40 魔法技能59】


 対人戦闘のレベルが3上がっていた。

 俺の今のスキルは物理戦闘に特化した構成になっている。

 盗賊スキル。かつてサーシャを攫ったやつらの武器を拾ったことで覚えたスキル。

 これは、瞬間移動を使い、ドワーフの宝物庫の財宝を全て盗んだことで大幅にレベルアップした。もちろん事情を説明し、全て返した。

 盗賊スキルの効果は手先の器用さのUP、素早さUP。

 逃走スキルはサーシャ、マリア、シルフィー、ナビと四体一で模擬戦をして本気で逃げ回ることでレベルアップに成功。

 他にも槍や棒、剣、短剣なども持ってきて使ってレベルアップをしていた。

 魔法技能に関しては、相手が魔法を使ってきたときの保険だった。レベル59まであがったら、下級魔法くらいの威力ならほぼ通じない。


 魔領に入るために使った迷宮の魔物の経験値の多さや、経験値64倍もそうだが、それ以上に、スキルが大幅にレベルアップできたのは仲間の存在が大きい。

 今の俺なら速度も力も防御も誰にも負ける気はしない。

 例え相手がこの女魔族だろうが。


「恐れ入ったわ、まさかこれほどまでに強くなっているとはのぉ。この魔王シファの出番が来るとは思わなんだ」

「ようやくあんたの元にたどり着いたってわけか。だが、妙だな、あんたが魔王だなんて」

「女が魔王で意外かの?」

「あんたには主がいるような言動があったからな」


 俺がこの女魔族に負けた時、こいつはこう言った。


【全く、妾の主人は厄介な命令を出したものじゃ。こんな小僧、殺せばすぐに帰れたものを――】


 誰かの命令を受けている。

 俺はそれを、魔王か邪神かと思った。

 だが、そうではない。

 魔族は邪神とは敵対し、そしてこいつが大将であり魔王だという。

 なら、こいつの主人は一体誰なんだ?

 誰が後ろで糸を引いている?


 いや、考えてわかるものでもない。

 俺がいまわかっているのは、俺がこいつに勝たなければいけないということだけだ。

 だから、俺は手段を選ばない。


「第八回戦、試合開始!」


 その宣言のもと、俺は大きく前にとんだ。

 一撃で終わらせる、そのつもりだったが、突如目の前に現れた巨大な鎌(デスサイズ)に受け止められる。

 カードの具現化か。

 やはりガサンよりは強いか。

 俺は受け止められた反動を利用して後ろに飛びのいた。


「その程度か?」


 そういい、シファは闇魔法ダークソードを唱えた。

 闇の剣が現れ、俺にめがけて飛んでくる。

 俺は自分の胸元に手をあてた。

 直後、俺の胸に闇の剣が突き刺さる。

 だが――


「なっ」


 それはシファの驚きだった。

 俺に突き刺さった闇の剣が粉々に砕け散ったのだ。


「今の俺にはあんたの闇魔法は通用しない」

「どういうことじゃ!?」

「俺はあんたに勝つために悪の道に手を染めた」


 俺は悲痛な表情で自らの胸倉をつかんだ。


「なぁ、あんた、俺の着ている服が何か知っているか?」

「……火鼠の皮衣じゃろ?」

「違う、素材じゃない。俺が今着ているのはジャージという服だ」


 俺はシファに語った。

 ジャージはその秀逸なデザインもそうだが、一番に求められるのは機能性と耐久性、そして体温調整のしやすさだ。

 暑ければ前のファスナーを下げたら涼しくなるし、寒ければファスナーを閉めたらいい。

 さらにジャージはとても動きやすく丈夫で、先ほどの素早い動きも、スキルだけではなくジャージの機能性のなせる業でもある。

 だが、そのジャージの機能性を大きく失わせる着方がある。

 そう説明し、俺は火鼠の皮衣のジャージの前ファスナーを最後まで下げた。

 そして、そこから現れたのは――


「それもジャージというものかの?」

「そうだ! 俺はついにジャージの重ね着という邪法に手を染めてしまった!」


 ジャージの重ね着、特に暑い日におけるジャージの重ね着は、体温調整だけでなく機能性を大きく失わせる。

 夏に絶対にしてはいけないコーディネート。

 まさに神への冒涜だ。


「ジャージの重ね着……はっ、お主、まさかその服……」


 どうやらシファは気付いたようだ。

 俺が着ているジャージの下のもう一つのジャージの秘密に。

 このジャージは眩い光を放つ金属繊維のジャージ。

 ドワーフの金属を繊維に変える技術と、エルフの扱いの難しい繊維を衣服にする技術、二つの技術の粋を集めて作られたジャージ。

 本来、防具の効果は一種類しか発揮しないはずなのに、火鼠の衣の特性を研究し、上着のファスナーを下げることで、このジャージの効果が重複するようになっている。

 このジャージの材料、それは――

 

「そうさ、これはオリハルコン製のジャージだ! 闇を打ち払う神々の金属によって作られた至高のジャージにお前の闇魔法は通用しない!」


神々の金属(オリハルコン)を衣服に使うなど、まさに神への冒涜だ」


 後ろでミラーが忌々し気に言った。

 そうじゃないだろ? オリハルコンをジャージに使わない方が神への冒涜だ。

 それと、俺このジャージを今着るのにはもう一つ、特別な意味がある。


 このジャージは、ミーナが強くなるきっかけとなったスチールジェリー討伐の時に手に入れたオリハルコンで作られた。


「ミーナが強くなったのは間違いではないことを証明するために、ミーナを助けるために、俺はこのジャージとともにシファ、あんたを倒す!」


 本当の決勝戦はこれから始まる。

キーワード「ジャージ最高説」

の最高はこのあたりから来ています。やっとオリハルコンを使うことができた。

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