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13 潜入

 闘技場開始を待って、私達は動いた。

 お店から出ると、ルーシアさんの言っていた通り、通りには誰もいない。

 娯楽に飢えた魔族たちは、立ち見でも構わないと全員闘技場へ向かったのだろう。


「マリアさん、アイアンさんが負けました」

「そう……」


 シルフィーがガラス球を覗き込んで言う。

 このガラス球は魔法装置になっており、ルーシアさんが持っているガラス球から見える景色が、このガラス球から見える仕組みになっている。

 さっきちらっとだけ見せてもらったけど、かなりいい席にルーシアさんは座っているようだ。

 ちなみに、このガラス球は魔法特性のない人間は使えないそうなので、自動的にシルフィーに持たせてある。

 アイアンの負けは正直予想通りだった。

 いくらここ数日行動をともにしてスキルレベルが上がったとはいえ、魔族の強さはそのうえを行く、というだけではない。

 アイアンはルーシアさんから受けたダメージがほとんど回復していなかった。

 店を出て行く時はふらふらな状態だったくらいだ。


 問題は人間側の次鋒として出てきた選手。

 その姿を見たとき、私とサーシャは眉をひそめた。

 名前はミラーと紹介され、年齢こそ若いが、彼の面影がある。

 死んだはずの彼がどうしてここに、しかもタクトくんの仲間として登場するとは。

 状況が全くわからない。

 ただ、私達にわかるのは、今、私達がするべきことだけ。


 前を進むサーシャが、指でサインを出す。

 敵が二人いる。今からサーシャが排除すると示している。

 私とシルフィーが頷くと、サーシャが前に歩いた。


「お兄さんたち見張りしてるの? ついてないわね」


 サーシャは笑いながら歩いていく。


「ん? あぁ、そうなんだ。ん? お前、人間なのか?」

「ということは、勇者の仲間か、いいのか? こんなところにいて」


 魔族の男達はサーシャが人間だと気付いたようだが、警戒の色は見せない。


「私は来るなって言われたのよ、ひどいと思わない?」

「そうか、ならお互い暇だなぁ。なぁ、姉ちゃん、もうすぐ交代の時間なんだ、よかったら俺と一緒に飯でも――」


 男の言葉は最後まで発せられることはなかった。

 サーシャが剣の柄で男の鳩尾に一撃を喰らわせ、慌てて攻撃をしようとした男の首に鞘で一撃を加えた。

 二人が完全に伸びているのを見て、私達にクリアの意味を示すブイサインをした。


「妖艶スキルを使うのは久しぶりだけど、腕は衰えていないわね」

「相手が人間だからと油断したのよ。アイアンがあっけなくやられたから人間のことを舐めてたのね」

「……アイアンさんに感謝しないといけませんね」 


 シルフィーはそう言いながら、倒れた二人の男の懐を探る。


「鍵や見取り図の類はありませんね」

「そりゃ、ただの見張りだからね」

 

 サーシャはそういい、正門の横の小さな扉を開けた。

 中は兵の詰所になっているみたいだけれども、誰もいない。

 その奥も扉になっており、私達はさらに奥へと進む。

 廊下があり、地下へと続く階段がある。

 牢屋があるのなら地下だろうかと思い、私たちは地下へと進んだ。

 その予想はあっけなくはずれる。

 地下にあったのは牢屋ではなく、食糧庫だった。

 ただし、食糧庫で動く影が一つ。

 サーシャがその影に近付き、


「動かないで!」


 そう言って剣を向けた。

 だが、よく見たらそれは人ではなかった。


「あんた、骸骨将軍!?」


 サーシャが驚きの声をあげた。

 私もその姿と胸元の勲章を見て、それが骸骨将軍だとわかった。


 骸骨兵。リューラ魔法学園の地下の迷宮にいる魔物。

 カード化され、タクトくんの従魔になったが、女魔族に奪われたと聞く。

 ならば、ここにいても不思議ではない。


 骸骨将軍は食糧庫の中からジャガイモを三つ取り出すと、私達を気にもとめず歩いていく。


「後をつけましょう、たぶん、いるのは料理人よ」


 私は提案した。

 料理人相手なら脅して情報を吐かせるのも容易だろうと思った。


「ミラーが1勝しました」

「やった、あっちは残り4勝ね」


 シルフィーの報告に私は小さくガッツポーズを作る。

 そうしている間も骸骨兵はゆっくりと階段を上がり、一階の奥へと進んでいく。


 骸骨兵は命令されたことしかしないので、後を尾行すると言うより、堂々と後ろをついていく。

 そして、ある部屋の扉を開けて入って行った。


「おう、ありがとさん。じゃあ、ジャガイモの皮をむいてくれ」


 男の声が聞こえた。


「それにしても、お前は本当によく働くなぁ、シファ様も最高の人員を与えてくれたよ」


 様子を聞く感じでは、おそらく中にいるのは一人。

 ならば、容易に制圧できる。


 そう思い、サーシャに合図を出し、私達は中に入った。


「ん? お客さんか」

「聞きたいことがあるの……って、あら、あなた人間?」


 コック帽をかぶった30歳くらいの小太りの男は背中に翼はないしコック帽で見えていないだけかもしれないが角もない。

 ミーナを攫った女魔族が、最初は人間の姿でいたように人間に化けているだけ、という可能性もあったが、その必要は感じられない。


「ん? おぉ、お前たちも人間じゃねぇか。もしかして、あれか、勇者様御一行か?」

「ここで何をしてるの?」

「あぁ、前にここで無茶やらかしてよ、調度品とかいろいろ壊しちまって、こうして働いて弁済してるんだよ」


 そういい、男はニンジンの皮をむいていた。


「逃げようとは思わないの?」

「あぁ、仲間を人質に取られてるようなもんでな、あんたたちはどうしてここに?」

「私の妹が捕まってる。助けに来た」


 サーシャがそう言うと、男は合点がいったようで、


「ミーナって嬢ちゃんか?」

「知ってるの?」

「あぁ、最上階に幽閉されてるぞ。ちょうどこの部屋の横の階段を上がったところだ」

「ウソじゃないわよね」

「ああ、本当だ」


 男はそう言い、皮のむかれたジャガイモを水に浸していく。


「凄腕の見張りがいるから気をつけな」

「わかったわ」


 そういい、サーシャは剣の柄で男の首に強打を加える。


「な……」


 男はそういいそのまま昏倒した。


「まぁ、一応ね」

「そうね……行きましょう」

「ご愁傷様です」


 タクトくんがいたらここまですることはなかっただろうなぁと思いながら、私達は階段を駆け上がる。

 お互い自己紹介もしなかった間柄だけど、もう一度会うことがあればきちんと謝らないと。


 階段を上がっているとき、シルフィーが報告した。


「3回戦は相討ちです」

「相討ち?」

「はい、ミラーが敵を倒しましたが、ミラーも魔力が尽きて戦闘続行不可能だそうです」


 私達がそのガラス球を覗き込むと、ちょうど空から巨大なコウモリに乗って、黒い鎧を着た男が降り立ったところだった。

 黒い鎧の男が誰なのか、私達には想像もつかない。いや、そもそも男かどうかもわからない。


「このペースだと、タクトたちよりも先にミーナを助け出せそうだね」


 サーシャがそう言いながら階段を駆けあがる。

 そして、最上階についたところで、私達は息を飲んだ。

 さっきの男が言うように、凄腕の見張りという男がいた。


 黒い鎧を身に包み、巨大な剣を持つ性別不明の人物。


「……もしかして、双子とかいる?」


 サーシャは相手の強さを計りながら、そう問いかける。


「まぁ、鎧の特徴だけだから、中まで一緒とは限らないけど」


 ただ、偶然の一致というには過ぎる。

 目の前にいる黒鎧と、ガラス球にうつる黒鎧が全く同じ姿をしていた。

 黒鎧は私達に剣を構え、攻撃態勢を取った。


 サーシャも剣を構え、シルフィーも杖を構え、私も銃を構える。

 そして、戦いの引き金は、私の銃の引き金と一緒に引かれた。


 

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