表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/112

12 甲殻

 なんとか一人目の魔族を撃破し、残りは4人。

 こちらはミラーと謎の黒騎士、そして俺の3人。

 黒騎士を人数にいれなければ2人で4人を倒さないといけない計算だが、もともと一人で5人全員倒すつもりだった。

 きついとは思わない。


「魔族側次鋒、前に出てください!」


 そう言われて現れたのは、身の丈3メートルはあろうかという巨大な男だった。

 鎧など一切来ておらず、黒い肌着と黒い半ズボンのみの格好。

 背中の翼が小さく見えるのは、体が大きいからだろう、実際、そいつの翼は先ほどのヴァインよりは大きい。


「我が名は甲殻のエゴール。お手合わせ願おう」


 野太い声が発せられ、拳を構える。

 武器を使わない拳闘士タイプの魔族ってわけか。


「あの巨体、殴られたらただじゃすまねぇな」


 アイアンがぽつりとつぶやく。


「だな。でも、それだけじゃないだろ」


 甲殻という名前からしたら、おそらくは防御特化型の魔族じゃないだろうか?

 だとしたら、武器が剣だけのミラーは不利になる。


「2回戦、試合、開始!」


 試合が始まると同時に、ミラーが一気に間合いを詰めた。

 エゴールの足めがけて剣を振るう。

 力では勝てないと思って、速度を封じるつもりか。

 だが――


 カキンッ


 まるで金属と金属がぶつかるみたいな音とともに、ミラーの剣が弾かれた。


「ふむ、刃こぼれか。ソードボーンは岩をも切り裂く剣なのだが」

「我が皮膚は鉄よりも固い。次はこちらの番だ」


 エゴールが飛んだ。

 その速度はヴァインよりは遅いが、かなりのスピード。

 しかもあの巨体、簡単に避けられるものではない。

 ミラーは迎え撃つべく剣で切りかかろうとした。


「ぐはっ」


 剣ごとミラーを場外へと飛ばした。

 舞台の外に背中から落ちる。受け身を取る余裕すらないようだ。


「ミラー選手場外! カウントします。10……9」


 場外でもすぐに負けではない。

 10秒以内に舞台に戻れば戦線に復帰できる。

 そうでないと、空を飛べるあの女魔族などが有利すぎるしな。

 ミラーは場外で剣を地について起き上がり、舞台へと上がる。


「5……4、試合再開です!」


 そういい、ミラーは剣を構えなおし、再び跳躍した。

 いくら硬い皮膚をもっていようが、無敵というわけではない。

 おそらく、ミラーの狙いは“目”だ。

 

「甘いっ」


 エゴールが拳を振るい、再びミラーを吹き飛ばそうとする。

 が、ミラーもそれを読んでいたようで、剣の向きを大きく変え、迫りくる拳に当てて反動で大きく上へと飛んだ。


「地獄の骨林!」


 ミラーがそう叫ぶと、ソードボーンが分裂、100本の剣が現れる。


「合体! 巨大剣!」


 そう叫ぶとソードボーンが100本集まり、一本の巨大な剣になった。


「うまい、これなら重力も加わる。いくら奴とはいえ――」


 アイアンが興奮して叫ぶが、


「効かぬと言っている!」


 エゴールが右腕でその剣を受け止めた。

 剣の重さは1本4キロ、100本分で軽く400キロは超えている。

 それを、まるで発泡スチロールの剣を持つかのように軽々と受け止めたのだ。


「甘いのは貴様のほうだ!」


 ミラーが剣の陰から現れた。

 そして、一本の剣をエゴールの口の中に突き入れる。

 正直、俺もこれは決まったと思った。

 いくら皮膚が固いとはいえ、口の中ならば攻撃は通じる。

 だが――


 エゴールがニヤリと笑う。

 ミラーのついた剣を、エゴールは己の白い歯で受け止めていた。


「くそ、歯で剣を受け止めるなんて、これが噂の真剣白歯取りか」

「いや、字が違うからな」


 正しくは真剣白羽取りだ。

 アイアンの適当発言に律儀にツッコミをいれつつ、俺は試合を見る。

 甲殻。その名に、もしも亀の意味を含むのだとすれば、噛む威力は相当に違いない。ワニガメやスッポンなどのイメージが俺の脳内に浮かんだ。


「ぐっ、放せ!」


 そういい、ミラーは左手で剣を握ったまま、拳をエゴールの口へと叩き込もうとし、


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ミラーの悲鳴が会場中に響いた。

 その右腕をエゴールに噛みちぎられた。

 人形なので血こそ出ないが、あれではもう戦闘はできない。


「ミラー! 降参しろ! あとは俺が戦う」

「黙ってみていろ、坊主。勝負はもう決まった」


 ミラーは立ち上がるが、もう剣を出す力もないのか、そのまま立ち止まっている。

 目にも生気がまるで感じられない。

 あいつ、負けを認めて死ぬつもりか? 


「その潔さ、感服に値する。せめて苦しまぬようにとどめをさしてやろう!」


 エゴールはそういい、拳を大きくあげ、ミラーへと叩きつけた。

 

 爆発。


 そう表現するのが一番だろう。

 ミラーとともに舞台まで撃ちぬき、煙が大きく上がった。


「ぐっ、なんて威力だ……ん?」


 横を見ると、アイアンが気を失っていた。

 飛んできた舞台の破片に頭をぶつけたようだ。


「……リカバリー!」


 とりあえず治癒魔法を使っておき、失ったMPはその場足ふみで回復する。

 アイアンは気を失ったままだが、すぐに目を覚ますだろう。


 煙がはれると、そこに立っていたのはエゴールただ一人だった。

 ミラーの姿はどこにもない……いや、よく見ると砕け飛んだ舞台と一緒に、ミラーの破片と思われるものが飛んでいる。

 人形なので血や内臓などは一切ないが、勝負は決まったとみていいだろう。


「ミラー選手、死亡。勝者――……」


 審判が勝者の名を呼ぼうとしたところで、異変に気付いたようだ。

 エゴールの表情が恐怖に震えていた。


「な……なぜ……」


 エゴールがそう呟く。

 直後――エゴールの腹からソードボーンが現れた。

 いや、腹の中から突き抜かれたのだ。

 そして――


「ふぅ……あまり気持ちのいいものではありませんね」


 エゴールの腹を切り裂いて、ミラーが現れた。

 全身が胃液や血液などに塗れている。

 俺はここでようやく気付いた。

 ミラーは三体までなら分身を作れると言っていた。

 だから、ミラーはわざとエゴールに噛まれた。そこで、その右腕から、己の分身を生み出すために。

 全ての種族において、一番の弱点は目でも口の中でもない。

 その身体の中だ。

 やられた、あいつはエゴールだけではなく会場中の全員をペテンにかけやがった。


 審判はそれを見て、先ほど下そうとした判定と正反対のそれを宣言した。


「勝者! ミラー! 救護班、すぐにエゴール選手の治療にとりかかってください!」


 審判がそう言うと、魔族たちがエゴールを担架に乗せて運んでいった。


「……少し魔力を使いすぎました……私は休ませてもらいます」

「ミラー選手、それは4回戦を棄権するということでよろしいでしょうか?」

「はい、無理をする場面でもありませんしね」


 そういい、ミラーは舞台から降りた。

 これで人間側の2勝。

 魔族はあと3人、こちらにいるのは俺とナビだけだ。

 あの黒騎士はまだ現れない。

 俺一人で行くしかないようだ。


 そう思ったとき、そいつは現れた。

 空から、巨大なコウモリの足につかまって。


「あれはゴッドバットか」


 ミラーは空を飛ぶ巨大蝙蝠を見て言った。


「ゴッドバット?」

「一匹で国一つを滅ぼすといわれる伝説の化け物蝙蝠だ。その力は飛竜にも匹敵すると言われている。あんなもの従えてるとはな、下手をしたらあの男……坊主、貴様よりも強いかもしれんぞ」

「……一体、何者なんだ?」


 全く男の正体がわからない。

 ただ、一つだけわかることがある。

 黒騎士……謎のその男はどうやら相当の目立ちたがりのようだ。


 会場中から歓声を浴びせられ、黒騎士は大きく手を振っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ